幕間 リヒャルトと親父 2)準備
竜丁を半日貸して欲しい。ヨハンの申し出にルートヴィッヒは首を傾げた。
「先日、父から勘当を解かれまして、それを機に、以前よりお付き合いをさせていただいていた方に結婚を申し込もうと思うのです」
目を見開いて固まったルートヴィッヒを不審に思いながらも、ヨハンは言葉を続けた。
「宝石商に品を誂えて貰う予定です。ただ、女性の好むものはわかりませんので、女性の意見を聞きたいのです。できれば、マーガレット嬢にもご同席をお願いしたいのですが」
ゆっくりとルートヴィッヒの硬直が溶けた。並んで座るベルンハルトのどこか意味ありげな笑顔に、ヨハンはようやく事情を悟った。
「別に構わないよ。良いよね、ルーイ。一日くらい二人が居なくても」
「あぁ」
「宝石商ということは、あの男か。リヒャルト副団長の父親の」
「はい」
「だったら、帰りに少し、私の所にも寄るように言ってくれ。なに、時間は取らせない」
「かしこまりました」
短く返事をしただけで、まだどこかぎこちないルートヴィッヒと、にこやかに微笑むベルンハルトに一礼し、ヨハンは執務室を後にした。
悪いことをしてしまった。ヨハンは少し反省した。言い方が悪かった。恋人に婚約を申し込みたい。贈り物を選ぶために、女性の意見を聞きたいから竜丁とマーガレット嬢を貸して欲しいといえばよかったのだ。反省したが、口から出た言葉はどうしようもない。
「思わぬ誤解をさせてしまったが」
誤解させる言い方をした自分も悪かったが、誤解するルードヴィッヒもどうかしていると思う。自分を卑下するつもりはないが、竜丁にとって、ルートヴィッヒ以外の竜騎士はほぼ横並びというか、十把一絡げだ。
「しばし」
護衛騎士に呼び止められたヨハンは振り返った。
「先程の件ですが、詳しくお伺いできますか」
クラウスだ。マーガレットのチェス仲間だと、ハインリッヒが眉を吊り上げていた。この男をどこまで巻き込むべきだろうか。あるいは、護衛騎士達も巻き込むべきだろうか。
「宝石商の件でしょうか」
ヨハンはまず、相手の腹を探ってみることにした。




