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31)苦杯1

 ヨアヒムに連れられた五人は、騎士団の宿舎で、各自に割り当てられた部屋を見るなり不満を叫んだ。

「なんだこれは」

一人ずつに分かれ、先住の三人の騎士とともに、四人部屋に泊まるように指示されたのだ。


「ここは今日からお前の部屋だ。そこがお前の寝台だな、新入り」

叫んだ竜騎士に、部屋の住人の一人が答えた。体格が二回り以上大きい男の言葉に、竜騎士はそれ以上何も言えなくなった。

「よろしくな、新入り」


 様々な洗礼を受け、彼らが王都竜騎士団の兵舎に戻ってきたとき、ちょうどルートヴィッヒ達が帰ってきた。


 トールからルートヴィッヒが降り、アリエルも続いて降りた。

「ヨアヒム殿、不在で失礼した。思ったより時間がかかって申し訳ない」

「いえ、何をおっしゃいますか。候が多忙を極めておられることくらい、承知しております」

「かたじけない」

「竜丁殿もお元気なようで何よりです」

「ヨアヒム様も。お元気そうで何よりです」

三人はにこやかに談笑していた。


「どうせ女と屋敷でよろしくやっていたんだろうさ」

せせら笑う声が聞こえたが、全員が無視した。 


「ところで今日は、どのような。(くわ)を持って行かれたとお伺いしましたが」

ヨアヒムは何気なく聞いただけだった。

「あぁ、それが、竜が庭を掘れと言っているようでしたので、掘ってみたのですよ」

「はぁ」

予想外のルートヴィッヒの言葉に、ヨアヒムは、やや間の抜けた声で返事をした。


「そうしたら、出てきたんです。ヨアヒム様。聞いてください。びっくりですよ。人骨が折り重なって、出てきたんです」

身振り手振りも交えたアリエルの言葉に、嘲笑っていた五人からは何の言葉もなかった。


「竜丁、お前、あまり不注意に言うものではない。もはや侯爵家は断罪されたとはいえ、彼らの罪状を増やしてどうする」

「だって、衛生兵が骨を並べて人数を確認したんですけど。身体の部位の数が合わないんですって、多分、他にも人骨の埋まっている穴はあると思うのです。おまけに、骨になるまで、まだちょっとお時間の必要な」

ルートヴィッヒはアリエルの言葉を遮った。

「そこまでにしておけ」


「人骨」

ヨアヒムの一言は、不注意だったかもしれない。

「えぇ、骨に傷のあるものもありました。ただ、大半が無傷でしたから、骨にも届かない傷で殺されたのかもしれません。頭蓋骨に刀に切られたような痕がある骨もありましたし。背骨が割れている骨もあって。あれが生前の怪我とすると、きっと大変な怪我をされたのでしょうね」

アリエルは、見たものを少し詳しく説明しただけだ。


「竜丁、その程度にしておけ」

ルートヴィッヒの視界の隅で、男が倒れたのが見えた。


「まぁ、人骨の話程度で。他にもいろいろ見つかって大変ですのに」

隠し部屋が次々と見つかるのだ。侯爵家の地下室には拷問道具もあった。ルートヴィッヒは、アリエルには見せないようにしたが、どうやら誰かがアリエルに教えたらしい。


「先代は、良い評判のほうが多いのだが」

政に関心がなかった先王の時代、その妻であったテレジア王妃と、テレジア王妃の父である侯爵がこの国を支えた。残念ながら、侯爵の晩年に生まれた嫡子を盲愛(もうあい)したことが、彼の晩節(ばんせつ)を汚し、侯爵家の滅亡を招いた。


 影の国王とまで言われた才女のテレジア王妃とは似ても似つかぬ愚かな弟が跡を継いだことで、侯爵家の命運は尽きた。生前のテレジア王妃は、病床にありながら弟の暴走を止めようとしていた。ベルンハルトは、その無理がテレジア王妃の死期を早めたと考えている。


「先代の方は、貴族たるもの領民を愛しみ育むまねばならない、領地を富ませるためにも、領民への慈愛が必要だと、考えておられたそうですね」


 アリエルは、屋敷で出会った年老いた家令に涙ながらに訴えられた。先代様のお考えを、ご理解されませんでした。お考えを改めることができず、申し訳ありませんでした。繰り返す彼に、ルートヴィッヒは、そう思うならば、これからは領民のために働いてほしい。そのために自分に誠心誠意仕えてほしいとだけ告げた。彼が信用できるかという問題もあるが、侯爵家の屋敷のことを知る人物は必要だ。


「ところで、あちらの方々は」

アリエルの言葉で、団長二人は、人骨の話で顔色を悪くしている五人に、ようやく目を向けた。


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