表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

206/250

25)避難所1

 小さく脆弱な建物の多い貧民街に、竜が着陸するのは難しい。


 数年前の水害でそれを痛感した貧民達は、国が建物を取り壊し、広場を作ると通告したとき、渋々ながらも賛成し協力もした。水害後に作られた広場は今、竜達の離着陸地点として機能していた。


 馬車に酔うアリエルも、竜が着地できるのであれば町に行くこともできる。以前から、エドワルドと二人で慈善事業を担っていたアリエルは、避難民への支援にも関わっていた。貴族や騎士を相手にすると、避難民は遠慮して彼らの要求を口にすることはなかった。アリエルが相手であると、彼らは様々なことを口にした。


 騎士に付き添われ、自らも長剣を佩いたアリエルを警戒する者もいた。警戒されていても、アリエルは気にすることなく、避難所を少しずつ回り、状況を把握していった。


 何度も行っているうちに、アリエルは徐々に避難民とも親しくなった。そのうちに、女達に交じって炊き出しをし、子供たちと遊んだ。


 その日も、ルートヴィッヒの視察についてきたアリエルは、女達に歓迎されていた。

「人気者ですねぇ」

そんなアリエルの姿にリヒャルトは言った。

「あぁ」

ルートヴィッヒも、楽しそうなアリエルの笑い声に振り返り、その表情が凍り付いた。


 アリエルが、赤子を抱いていた。


「あぁ、大火事の後に生まれた赤ん坊だよ。あんたたちが母親を助けてくれたから、あの女の子が生まれたんだ」

自警団の一人であり、避難所の運営に関わっている男が言った。

「そうかぁ。無事に生まれてよかったなぁ」

リヒャルトの声が遠く聞こえた。


 アリエルは優しく微笑み、腕の中の赤ん坊を見つめていた。慈愛に満ちた微笑みだった。

「いい娘さんだな。いい母親になるよ。あんたのいい人だろ。楽しみだねぇ」

ルートヴィッヒは、答えることができなかった。ルートヴィッヒはアリエルを身近に置くことで、アリエルから母になる機会を奪っている。


 アリエルが慈愛に満ちた笑みを向ける相手を、ルートヴィッヒは奪っている。ずっと目を逸らしていた事実が、突きつけられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ