20)執務室3
マーガレットは静かに茶器を片付けながら、そんな様子を見ていた。執務室では、書記官たちが、応接室から戻ってこない主二人の帰りを、首を長くして待っているだろう。片付けるべき書類は山のように有る。
彼ら兄弟を制御できるのはアリエルだけであり、アリエルは二人が話し合うべきと判断した。
マーガレット自身、アリエルに次兄ハインリッヒと会う機会を作ってもらった。今回の謁見に参加している長兄と三人で会えるように、マーガレットとハインリッヒに休日を与えて欲しいと兄弟に進言したのはアリエルだ。
マーガレットが休むなら、急な客人以外はすべて断るから、応接室を使ってはどうかというアリエルの提案は、丁重にお断りした。ルートヴィッヒに、良い部屋だし王宮に近くて便利だと勧められ、さらにさらに丁重にお断りした。良い部屋であっても寛ぎようがない。
時々常識がないところまで、似たもの夫婦だ。書類を読むふりをして、顔を隠していたベルンハルトと、俯いて引き出しの中を確認するふりをしていた書記官達は、卑怯だと思った。
「これに代わる優秀な書記官をご紹介いただきたい」
宰相代行の書記官が竜丁の流民の女では示しがつかないと言う貴族に、ルートヴィッヒはいつも同じことを言った。いるわけがない。笑顔を浮かべる得体のしれないベルンハルトと、静かに座っているだけでも威圧感がある最強の竜騎士ルートヴィッヒの二人を相手に、臆することなく堂々と振る舞うなど、容易ではない。
ルートヴィッヒもアリエルも、どこか常識が欠けている面もあるが、それはそれで面白いと思えば良いと、ハインリッヒから教えられていた。
ルートヴィッヒの腕が、傍らに座るアリエルの肩を抱いていた。
「故人となられましたが、王妃の計画を知ったのは、副団長であるハインリッヒからの情報があったからです」
ルートヴィッヒはゆっくりと話し始めた。




