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それでも私は間違えていない  作者: 華月彩音
8/8

君は何も間違えていない。

ご覧いただきありがとうございます。

僕の婚約者は完璧な女の子だった。

それはもう出会った瞬間から。

恥ずかしい話、僕はそれまで勉強も鍛錬もあまり好きではなかった。

頑張っても頑張っても終わらない課題。

上手くできても褒められず、出来なければ鞭打たれる。

授業が終わる頃にはいつも半泣きになっているというのに、なにを楽しめるというのだろう。

やる気は欠片も浮かばず、適当な理由をつけてはいつも勉強から逃げていた。


が、それも彼女と出会う前までだった。


彼女は美しい女の子だった。

腰まで伸びた金の髪は、癖なく真っ直ぐに伸びていて、透き通った白い肌を持つそのかんばせは、非の打ち所もなかった。

それだけでなく、彼女は僕と最初に出会った時からずっと背筋を伸ばし、一挙一動足が全て綺麗だった。

こんなに美しい女の子に出会ったのが初めてだった僕は、緊張してガチガチになった。

婚約者に会ったらこう言おうとか、こうしようとか色々考えていた筈なのに、それらは全て頭から吹っ飛び、しどろもどろになりながら何とか王宮の中庭に連れ出した。


王宮の中庭は、美しい花がこれでもかと咲いており、訪れた人を楽しませている。

僕の婚約者は、女の子だし綺麗なものには目がないのではないかと当時の僕は考えたのだ。

結論から言うと、中庭に連れ出したことはある意味正解で、ある意味間違いだった。


彼女は中庭に入った瞬間目を輝かせ、鈴のなるようなその声で


「美しいですね」


と呟いた。

僕は、それだけでももう天にも昇る思いになって、半ば夢見心地のまま、彼女の小さくて可愛らしい手を引いた。


彼女は中庭に咲く花のひとつひとつに可愛らしい反応を見せてくれた。

この花はちいさくてかわいい、この花は大きくて綺麗だ、この花は初めて見ました、この花はいい香りがします、等々。

その度に大輪の花がほころぶような笑みを浮かべてくれるのだから、僕はもういよいよ正常な思考が保てなくなって、顔を真っ赤に染めたまま、ああ、とかそうだね、とかそんなことを口にしていた。


かくして、顔合わせの時点で完全に僕は彼女に首ったけになり、そんな彼女に釣り合うようにと今までの倍以上の勉強を始めた。もちろん勉強だけではない。市井におりて民の生活に触れたり、王宮の政務会議に出向いて意見を述べたりもした。

そんな感じで、目の前に人参をぶら下げられた馬のごとく努力を重ねた僕は、1年も経つ頃にはすっかり完璧王子と呼ばれるようになって、怒られる事も少なくなっていた。


ところが、僕の愛しの婚約者はそれの上を行ってくれた。


王太子の婚約者になったからだろうか。

今までも十分賢かったし美しかったと思うのだが、更に努力ををして、今じゃ聖女なんて呼ばれるようになった。

確かに彼女は美しいし、心根は綺麗だし、まさしく聖女ではあるが、その旦那がこの僕なんて知られたら、怒った民衆に殺されそうだし、なんなら横からかっさらわれそうだ。


危機感を持った僕は、聖女の夫に相応しい様に努力をして、それに呼応するように、また僕のスフィレーアは名声をあげる。

だから、また僕もがんばって…という感じで謎に高めあった僕達は、気がつけば歴代最高の王太子と聖女様な婚約者なんて言われていた。

なんだそれは。


勿論、スフィレーアに対してもちゃんとアピールをした。

会う度に花を1輪ずつ渡してみたり、ちゃんと愛してるよ大好きだよと政略以上の気持ちを持っている事を示したつもりだ。

最初の方こそ彼女は真っ赤になって恥じらい、そんな事…とモジモジしていて可愛かったが、最近は少し頬を赤く染めて、そうですかありがとうございますと呟き、はにかんだ笑みを浮かべていて可愛い。

彼女に言わせれば、僕の目には変なフィルターがかかってるらしく、彼女のやる事なす事全て可愛く見える。


そんな僕を危惧した…訳では無いと思うが、僕は隣国への留学を勧められ、視野を広げる為に泣く泣く旅立った。

美しくて可愛い最高な僕の婚約者を1人で置いて行くのが、嫌で嫌でギリギリまで連れて行けないか粘ったのだが、その婚約者本人に、隣国から留学の呼び出しがかかったのは僕だけなのだから覚悟を決めて一人で行きなさいと、私はこの国で待っていますと微笑まれたのだから、もうそれ以上何も言えなかった。

隣国での生活は目新しく、もともと楽しいことが好きな僕は大変満喫していた。

教育水準の高い隣国の中で最も頭の良い所へ行ったから、勉強は大変だったが、向こうの国の王太子や優秀な人間と関わり、友情を結ぶ時間はとてもいいものだった。

ちなみに、向こうの王太子はなかなかいい性格をしていて、結構馬があった。


身につけた知識も結んだ交流も将来役立つだろうし、留学先でひとまわりもふたまわりも大きくなった僕を、婚約者は褒めてくれるだろうか。

なーんて思っていたのだが、そんな悠長に構っていることもできない事情ができた。


僕の祖国が魅了にかかっているらしい。


始めそれを聞いた時、は?としか思えなかった。

だれだれが魅了にかかっている、ではなく国が魅了にかかっている。

全く意味がわからない。

が、信用出来る筋からの情報だったし、状況を把握すればするほど、国がかかっているという表現が正しいものに思えた。

国王を始めとした重鎮までもが魅了に堕ちていると聞いた時、僕は帰国する準備を始めた。


仲良くなったこの国の王太子も協力してくれ、広範囲に聖魔法の加護のかかった煙を展開し魅了を解除する、なんていう化け物みたいな魔道具を用意してくれた。

隣国が崩れるとこの国も怪しいからねなんて言っていたが、どうしようもなかったら君のお姫様だけでも連れて帰っておいでとか何とか続けていた。心配なら心配だと言えばいいのに。


ともあれ、心強い味方達によって準備を整えた僕は、隣国から馬車を用意してもらって祖国へ帰った。

国の門をくぐった時あまりの変わりように目を剥いた。

僕がこの国を出た時、栄えていたはずの辺境も王都も異様な程静まり返っていた。

その理由は王都の中央、広場に行けば分かった。


そこには、今まで影も形もなかったギロチンがあって、そこで首を切られそうになっていたのは愛しの婚約者だった。

最後の言葉を求められ、細くなった痣だらけの体をいつかのように真っ直ぐに保ち、鈴のなるような声で


「それでも、私は悪くはありません」


と言った時、腸が煮えくり返るかと思った。

状況は何度も調べて何度も書類を読んできた。読み込んできた。

その度に怒りでぐしゃぐしゃにしてしまって、性格の悪い隣国の王子が一体何枚の紙を無駄にするんだと呆れる程だった。

だが、あくまでそれは文字だけのもの。

彼女のそのやせ細った姿と、それでも矜恃を喪わず凛と立つ姿は、己の中の怒りをさらに刺激した。


ギロチンの刃が、彼女の白い肌に向かう前に、広場の中心まで行ってこう告げた。


「その通り。貴女は何も間違えていない。」


彼女の美しい瞳が驚きに染められた時、僕は悪戯っぽくにかっと笑ってみせた。

強ばっていた彼女の体から力が抜けたのを感じ、おどけたように続ける。


「僕が居ない1年半の間に何があったのさ。」


そう言って、父や母が座る方へ目を向ける。

王族の席の隣で、まるでこの世を掌握したかのように座るクドウとかいう異世界からの探訪者に目を向ける。

彼女は、僕を目にして嬉しそうな顔をした。

なるほど。彼女の目的が何となくわかった。

が、それを叶えてやる気は毛ほどもない。


わざと笑顔を崩さず続ける。


「そうそう、クドウさん。君に朗報があるよ。」


「な、なんですか?」


戸惑ったように続ける彼女へ告げたのは、元の世界に返す方法が見つかったこと。

これ自身は普通に考えて喜ばしいことだろう。

彼女にとってはどうなのか分からないが。


ちなみに、元の世界に返す方法が見つかったのは本当の事だ。

隣国の優秀な王太子さまと協力して探した。

魅了をばらまく子にはお帰り頂こうと悪い顔をして笑っていたが、彼も彼なりに憤ってくれていたのかもしれない。

いや、違うな。あれは俺を面白がってただけだ。


まあ、なにはともあれこの国に魅了(よろしくないもの)を振りまいたお客人は、帰らせる目処がたった。

ああそうだと、たった今思い出したかの様に言って、懐から友人にもらった箱を取り出す。


「父上ったらダメですよ〜?こんな簡単な魅了に引っかかるなんて」


そう言いながら、箱のフタを外しそのまま投げる。

箱の中身は、魅了をとくための聖魔法による加護の掛かった煙だ。

箱は小さいため煙は少量ながらも、風に乗せられ広場全体に広がり、ひいてはこの国中に運ばれていく。

これで、この自称聖女がかけた魅了(呪い)は解けるだろう。

背後の憂いが無くなったので、あとは大事な大事なスフィレーア(たからもの)を護り、愛し、幸せにするだけ。

腕の中に愛しい存在を閉じ込めて、細くなってしまった彼女の顔を見る。

すっかりコケた頬を赤く染め、大きな瞳を忙しなく動かしている。

全力で動揺していますと示す彼女の姿に、心臓がどくんと音を立てる。

可愛い。

思わず頬が緩み、彼女の身を強く抱き寄せる。

その体の細さに、クドウリンへの怒りをさらに燃やす。

自分が考えている彼女への罰は、愛しいスフィレーアの前ではとても口になんて出せない。

だが、スフィレーアの事を思えばこそ、クドウリンへの罰は甘いものでは済ませないとも思う。


手始めに、スフィレーアの健康を回復させよう。

信頼出来る家臣と、隣国でも有名な料理長を連れてきて、彼女のこれまでの頑張りをねぎらおう。

沢山沢山甘やかして、心の底から幸せにしよう。

その合間に、クドウリンを地獄の底へ叩き落とす。

彼女には、スフィレーアの苦しみを散々味わわせた後で、生まれた国へおかえり頂こう。

そうだ、それがいい。


キャパオーバーだと訴える、可愛い婚約者に口付ける。

顔を真っ赤に染めあげて固まった彼女の眼前で微笑む。


―ああ。やっぱり。


「大丈夫。君は何も間違えてない。」


だから、もう、なにも怖がらないでいいからね。

一応これで終わりとなります。

お付き合いいただいたみなさん、ありがとうございました。



2022/04/21 誤字報告ありがとうございます。自分でも確認したつもりだったのですが…お恥ずかしい限りです…

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― 新着の感想 ―
[一言] 腐れ女どうしたんだよ ちゃんと書けやボケ
2022/04/25 06:28 退会済み
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