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作家と放火魔  作者: 明日香狂香
放火魔
33/34

炎上

 取材中、外の世界では大騒ぎになっていた。放火犯が手抜き工事物件の放火動画を公開したのだ。警察は、共犯がいるのではないかとの騒ぎになった。秋元は任意同行におとなしく従ったが、その間も自動で公開数は増えていった。

 どうやら、一定時間更新しないでおくと自動で公開されるようにしておいたらしい。


 SNSは、動画が模型か本物かで炎上した。これが円上の狙いなのだろう。そして、これが彼の正義。議論が巻き起こり、不良物件への批判から、建設会社への抗議デモを起こす。人々が自分の狙い通りに動く。それを安全な檻の中からのんびり眺めていようというのだ。死刑にはならない程度。あわよくば終身刑。そんな夢を見ているに違いない。


 今の文雄の仕事は、それを煽るでも止めるでもなく、容疑者の主張を世間に問うことだった。それは、是非ではない。世間が、この世界に蔓延する不条理に気づくこと。そのために、彼の主張の根幹をわかりやすく伝えることが必要だった。


 動画公開の翌日に発表された彼の主張は、長くは無かった。それは、全文掲載のためには必要なことだった。


 十年前、延焼で住処と思い出の全てを失った。悲しいのは初めだけで、やがて自分は過去というしがらみから解き放たれた自由を実感した。この新しく手に入れた自由によって、正義を執行した。

 人は脅威だと言ってスズメバチを駆除する。手抜き建築は自分にとっての脅威だ。取り除く上で燃やすと言うのは、最も効率的な手段だった。ハチの巣を駆除するために、周りの木を切るように、正義には多少の犠牲は付き物だ。これを悪と呼ぶか善と呼ぶかは意味が無い。

 地球が、地上では陸の星だが、宇宙から見れば水の星であるように、人は見ている景色によって捕らえ方は変わる。

 問われるは善悪ではない。放火という手段が適切かどうかであり、自分に出来うる最適な方法だった。それは不良物件を地上からなくすと同時に、人々に正義の炎を点ける行為であるからだ。

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