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  作者: ひじきとコロッケ
モンブール
96/346

どうしてこうなった

「明日の昼過ぎ、王城にてストムからの使者を迎えることになった」

「そうですか」

「一応俺も参加するが、くれぐれも失礼の無いように、な?」

「そう思うんでしたら出席を断るという選択を」

「無理だな」

「そこを何とか」

「出来たらこんな話はしとらんよ」




 ラウアールの時と同じように城から馬車が迎えに来ており、三人で乗り込むとすぐに城へ。

「こちらからどうぞ」と案内されるままに入った先は、国王の謁見の間という奴で、既に国王と多分すごく偉いんだろうという人が数名並んでおり、武装した騎士が油断なく周囲を警戒していた。


「いきなり謁見の間とか、心臓に良くないんですけど」

「時間が無くてね」

「……僕らのせいですか?」

「違う。それだけは安心していい」

「他は安心できないんですね」

「そうだな」

「否定してくださいよ」

「それは出来ん」


 ちょっとおおおおお!

 コソコソ話していたのだが、大声が出るところだった。

 ギルドマスターに促されるまま、偉い人の並んでいる隅に立つと、小声で説明してくれた。


「中央が国王と王妃、その隣の男性が宰相、その隣が王太子夫妻」

「王太子夫妻……」


 二十代半ばくらいの美男美女の組み合わせで半年ほど前に結婚したばかりでまだ子供はいない。

 よかった、王族絡みの面倒事は回避出来そうだとホッと胸をなで下ろしたと同時に、ドアの前の騎士が大きな声で告げた。


「ストムからの使者の到着です」


 ガタッとドアを引いて、スルスルと重そうなドアが開かれ、わざとらしいくらいに、めかし込んだ男が一人とその後ろから従者とおぼしき三人が入ってきた。

 そして、室内をジロリと見回し……国王がいる目の前だというのにツカツカとリョータたちの元へ歩いてきた。


「何だかイヤな予感がする……」


 当たり前だが、城内には武器の持ち込みが禁じられているのでリョータもエリスも丸腰。

 この謁見の間でまともに武装しているのは近衛騎士数名だけ……いや、ストムからの使者が短剣を抜いた……って、何で武器を持ち込んでるの?!隠し持ってたのか?!


「コイツらだ、殺せ」


 男が剣でリョータたちを指し示すと、後ろの三人と共に迷うことなく斬りかかってきた。あまりにも自然で、大胆すぎたために、騎士たちの反応が遅れるほどに。


「スタンガン」


 気軽に手の内をさらすつもりはないのだが、さすがに命あってのなんとやら。

 それにこの魔法がバレてもどんな魔法なのか、この世界の魔法使いには再現できないだろうからと出し惜しみ無しで使うと、四人がそのまま崩れ落ちた。

 ちょっと焦ったせいで電気が強すぎたかも知れない。いきなり襲われた身としては知ったことではないが。


「い、一体何事だコレは!」


 偉そうな人がようやく口を開くと、騎士たちが駆けよってきて倒れた四人を押さえつける。


「リョータ、説明が必要になりそうなんだが」

「いきなり襲いかかられた状況で説明しろと言われても」

「だよなぁ」


 魔法については説明したって別に構わない。この世界だって、天気の悪いときには雨風が強くなり、雷も落ちるから、その雷を魔法で再現しましたで押し通すつもりだ。どうやってと聞かれたら、魔法の師匠のじいちゃんに教わりましたと、架空の人物に全部押しつければいい。

 だが、コイツらが襲ってきた理由なんて……まあ、色々揉めてる原因はリョータたちかも知れないが、本を正せばストムの冒険者に対する方針が原因で、リョータたちが非難される謂われはない。それどころか城の警備体制に文句を付けてもいいくらいだ。

 騎士たちが四人を引きずっていく一方で、この状況で何ができるわけでもないと、一旦解散。待合室に通された。


「ああ……胃が痛い」

「僕らのせいじゃないですよ」

「わかってるが、愚痴くらい言わせてくれ」

「聞かされるこっちはたまったモンじゃないんですが」




「客人の身を危険にさらしたこと、深くお詫びいたします」


 執務室に案内され、国王に頭を下げられてしまった。どうすりゃいいんだこれはと隣のギルドマスターに視線をやるが、こちらもこちらで反応に困っている。一方で、宰相とすごく偉そうな格好の騎士が真っ青な顔で直立不動。そりゃそうだ、城の謁見の間に通すときのボディチェック、つまり武装解除が不十分だったのだ。幸いな事に、狙いがリョータ達で、魔法でどうにか退けることが出来たものの、これが国王を狙ったものだったらどうなっていたか。

 だが、同時にリョータの立場も危うい。

 一般的に、この世界の魔法使いは魔法を使うために杖や指輪と言った、魔法の発動体を使用し、呪文を唱える。だから魔法使いの武装解除は発動体を取り上げてしまえばよい。一応発動体無しでも魔法は行使出来るが、呪文が倍以上に長くなるため、近衛騎士による制圧が可能なため、問題とならなかった。




 今このときまでは。




 モンブールの冒険者ギルドマスターであるレグザは、あらかじめギルドで把握しているこれまでの実績を確認し、リョータが魔法を行使することは知っていたのだが、具体的にどのような魔法なのかをきちんと確認出来ていなかった。これは各国の冒険者ギルドが正確に把握していなかったのだから仕方ないのだが、まさかの杖のような発動体無し無詠唱である。「何なら実力行使しても構わない」と冗談のつもりで焚きつけたが、まさか無詠唱魔法が出てくるとは思わなかったので、どうしたものかと必死に頭をフル回転させていた。魔法の発動体を使用せずに四人を瞬時に無力化する。そんな魔法を無詠唱で放てる者を謁見の間に通し、国王のそばに立たせた。「幸いなことに国王は無事だったが」と難癖が付くのは間違いなく、そのあとに待っているのは……軽くて数年の実刑、最悪死刑もあり得る。そして、当のリョータ達はいざとなればその魔法でここから脱出するなど容易(たやす)いはず。詰んだ。

 モンブールという国家に特別な思い入れはなく、騎士程の忠誠心があるわけでは無いが、気持ちのいい冒険者たちとこの国の関係が良いものであるように粉骨砕身してきたつもりだし、今回も何ら問題は無かったのに、どうしてこうなった。




 近衛騎士隊長ショーン・ハーディは、己の進退について絶望的な見方しか出来ていなかった。隠し持っていた武器を見抜けず、ストムからの使者の武装が解除出来ていなかったこと。使者による襲撃が防げなかったこと。何の準備も無しに魔法を行使する冒険者を何の警戒もなく国王のそばに近寄らせたこと。

 どうやっても弁解の余地がない。「知りませんでした」で済まされない立場の辛いところである。

 あと数年もすれば後進のために職を退いて面倒な雑事から解放され、鬼教官的に若手の育成に専念しながら気ままに暮らすはずだったのだが、これではよくて奴隷落ち、最悪は首と体が別れてしまう。ごまかし、取り繕おうにも事実がドン!とその身を横たえているためにどうやってもごまかせない。ただの外国からの使者を迎え入れただけのハズなのに、どうしてこうなった。




 宰相ジェレミー・カノヴァンはこの案件が持ち込まれたとき、冒険者ギルドに対して貸し一つという程度で認識しており、その前提で国王と共に根回しを済ませてきていた。どうせストムからの使者の言い分は「知らぬ存ぜぬ」だろうから事実関係だけ積み上げてやれば、ストム側もある程度非を認めるだろうと考えて、動かぬ事実の一つとして当事者の冒険者を同席させたのだが、まさかの武力行使。しかも国王のすぐ目の前で。

 普通に考えればここからの流れは、宣戦布告して戦争突入となってもおかしくない。モンブールは貧乏な国ではないが、ストム相手に戦争を仕掛けられるほど裕福でもない。ましてやストムを攻め落としたとしても旨味はほとんど無い。元々の想定では賠償問題のみ。金額をどこまでつり上げるかを冒険者ギルドと詰めていくだけだったはずなのに、どうしてこうなった。

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