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  作者: ひじきとコロッケ
ストム
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シーサーペント討伐

「……あと少しで」

「よし」


 二人で船の右前方、シーサーペントに一番近い位置へ移動する。シーサーペントまでの距離は五、六百メートルと言ったところ。こちらの船の冒険者たちもとりあえず弓の用意をし始めているが、常に揺れる船の上では五十メートル離れただけでもまともに当たるかどうか、と言ったところである。


「ちょっと行ってきますね」


 リョータがそう言うとエリスがワシッと横抱きに抱える。昨日の作戦会議でエリスがお姫様抱っこを主張したのだが、「シーサーペントを狙いづらくなるから」という理由でリョータが却下した。もちろん本音は、お姫様抱っこなんてされた日には違うところが気になって戦いに集中できないから、である。

 ちなみにうつ伏せ状態で抱えられているこの状態でも、色々ヤバいので早めに片付けたいところだ。


「リョータ、行くよ!」

「おう!」


 リョータの返事と共にダダッと甲板を駆け、ダンッと大きくジャンプ。


「はっ!」


 すぐに足場を作り、どうやったらそんな音が出るんだという衝撃音をさせながらジャンプを繰り返していく。一回のジャンプで数十メートルは跳んでいそうなので、抱えられているリョータもなかなかのスリルを味わうことになっているが、他に方法が無いので両手で口を押さえて悲鳴をこらえる。


「あと少し……」

「うん」


 海での戦闘、しかも空中を跳躍しながらというのは、船の上から狙う以上に命中精度が落ちる。

 できるだけ近づきつつ、それでいて危険な距離を避ける。絶妙な距離加減はエリスの野生の勘に任せることとし、魔法のイメージ構築にかかる。


「海の上だと、ビリビリは……」

「ダメだな。全部海に流れちゃう」

「それじゃどうするの?」

「そうだなぁ」


 シーサーペントという呼ばれ方から巨大な魔物だろうと予想し、どうやって戦うかを話し合い、考えていたいくつかのパターンの一つを選ぶ。


「リョータ、どう?」


 行ける、と親指を立てて合図して見せると、一気に高度を下げながら接近。シーサーペントの大きさから推測した、相手の間合いギリギリの位置に来た瞬間。


「氷の槍!」


 こちらに気づいたのか、襲いかからんとして海上にその上半身をさらした瞬間、十数本の氷の槍を生成し、一気に撃ち込む。

 分厚い鱗のような皮をぶち抜くほどの威力は無いが……


 バキン!


 超低温にこだわって作った槍なので、シーサーペントをあっという間に氷漬けにした。


「よし、次!」

「はいっ!」


 シーサーペントを覆った氷はマイナス数十度という低温なので簡単に融けたりはしない。だが、それほど厚さが有るわけでは無いから、あの巨体が少し体をひねればすぐに砕けてしまうだろう。

 だが、少しの間、空中で動きが止まると言う状況が作れればよい。

 ダンッとエリスが新しく足場を作り、リョータをシーサーペントに向けて投げ、さらに新しい足場を蹴って自身も向かう。


「コイツを食らえ!」

「えいっ!」


 飛び込んだ勢いのままに振るった二人のラビットソードは巨大ワニの首の上下を切り裂く。切断までには至らなかったが、それぞれ太い血管、脊椎を切断できたようだ。


「よしっ!」


 自由落下しながら、仕留めたことを確信したところにエリスが飛び込んできて抱きかかえる。


「どう?」

「コレなら多分」

「よかった」


 船に戻るようにエリスに指示を出しつつ、シーサーペントの動きを注視。

 ブシャッと真っ赤な血を大量に噴き出し、ゆっくりと海面に倒れていく。

 そして、ザブンと水しぶきを上げながら倒れ、プカプカと浮かんだ。


「討伐完了」

「よかった」


 エリスが抱く力が少し強くなった。

 うわ、柔らかい……どことは言わないが。

 ダンッダンッと跳んで船に着地すると、歓声が上がった。


「すげえ!」

「何だよ今の?!」

「飛んでたよな!!」

「あの魔法は何だ?!」

「いや、それよりもあの剣!すごい切れ味じゃないか?!」


 大騒ぎになって、一斉に取り囲まれた。が、念のため生死を確認して欲しいことと、二人ともかなり消耗したので休ませてくれと伝えると、マストの根元でゴロンと横になる。


「エリス、お疲れ様」

「うん、リョータも」

「エリスの方が疲れたと思うよ」

「そうかな」

「うん、よく頑張った」

「ふふ」


 ドラゴン討伐の時のようにシーサーペントも回収するのかと思ったが、さすがに沈んでいく巨体を無理して引き上げるつもりは無いらしく、船がゆっくりと回頭していく。

 とりあえず討伐成功。これで解放されるから、旅の再開だ。

 ま、ちょっとここに来る前の移動が激しかったから、いい感じに体を休めたと思えばいいか。


「それにしても凄かったな」

「アレは一体何だ?」


 色々質問攻めになるが、「さすがに疲れたので休ませてください」の一言で断る。

 説明すると長くなるからね。

 船が港に向き、速度が出始めた頃、船長がやってきた。


「少し話がある」

「何でしょうか?」

「この後のことだ」

「この後?」


 ナンとかという証明書をもらって、自由になるだけだと思うんだけど……


「それは確かにそうだ。俺たち犯罪奴隷と違って、冒険者は解放される」

「なら何の問題が?」

「その証明書……有効期間が一時間しか無い」

「は?」


 この船長、数年前に飢饉と不漁で村が壊滅し、やむにやまれず盗賊まがいのことをして捕まった犯罪奴隷で、根は善人。

 そして、シーサーペント討伐の船に乗り続け、何度も討伐成功を見てきたが、討伐成功証明書をもらったはずの冒険者が再び船に乗せられるのを何度も見てきたという。


「まあ、同じ人間が何度も船を操るのもそうそう無いから、知られることも少ないんだが」


 そりゃそうだ。シーサーペントの方が船より大きいことが多いだろうから、討伐の成否にかかわらず、生きて帰ってくること自体珍しいだろう。


「一時間、ですか」

「港から街を出るまでの道はかなりゴチャゴチャしている。相当道に詳しくても一時間で外に出るのはほぼ不可能だ」


 最初っから冒険者を使い潰すつもりなんだな。


「わかりました。ありがとうございます」

「いいってことさ。だがどうする?」

「そうですね……」


 冒険者に不利な環境のこの街であまり手の内をさらしたくは無い。


「一応なんとかするつもりですが……できるだけゆっくり港に戻ってもらえますか?」

「そのくらいはお安い御用だ」


 心配そうなエリスに「大丈夫だよ」と声をかけ、この後どうするかを話す。

 向こうがこちらを逃がすつもりが無いことがわかった。だが、いつまでもこの街にいるつもりは無い。真っ当な方法で街を出られないなら、強硬手段を執るしか無いだろう。

 懸念事項としては、街の構造、地理が全くわからないことと、協力者がゼロと言うこと。

 厳しい状況だが、最悪でかい魔法をぶっ放して混乱に乗じて逃げるという策もある。出来ればやりたくないけど。


 船がゆっくりと港に入り、所定の場所で碇を下ろすとハシゴがかけられて下船できるようになる。

 最後でいいかと思っていたら「一番の功労者こそ一番に降りるべき」と促されてしまったので仕方なく降りていく。

 すぐに船員が一人着いてきて、役人っぽいのに何やら話をしている。多分、討伐に貢献しました証明を発行するんだろう。有効期間一時間なんて受け取ってもゴミが増えるだけなんだけど。

 こっちです、と手招きされるままに進んでいくと、でっぷりと太った役人がいて、偉そうな態度で紙を二枚示してくる。


「これが討伐貢献証明書だ。これがあれば有効期間内は討伐義務が免除される」


 そもそも義務と権利ってセットのハズだが、何の権利をもらえているのだろうか?

 思っても口には出さないけど。

 とりあえず紙を受け取ってさっさと逃げようとしたのだが、


「さあ、討伐成功を祝して、祝勝会だ!」


 逃がさないと言うことか。

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