絵莉
久しぶりに最新作です!
金髪の母親と、その母親の茶髪の娘が、馴れた手さばきを披露する銀髪の祖父の魅惑な動作に既に夢中だった。
幸輔は新しいマジックが出来たら披露するために月に3回は娘の家に飛んでくる。最近の祖父はマジシャンとしての仮の姿で生きていた。
幼い頃から孫の神藺絵莉(16歳)はマジックっぽく見せる幸輔の姿を見てきた。
技術が上達している祖父に舌を巻く。絵莉も負けじと5才の頃からマジックにのめり込んだ。
『ライバルは祖父だ。教えは大事だわ。自分でもマジシャンっぽく出来るはずだわ!ここまで来たらもう意地だ!』と絵莉は思いながら闘争本能剥き出しで祖父、魅駆幸輔(68)のマジックを見つめた。
絵莉は、とぼけたようなユーモアが漂うようなマジックに逃げ込んでいた。自分が救われるように感じていたからだ。
『幸輔を越えてみせる!!ホッホホ!絶対にやったるぜぇい!!ホッホホ!メロンソーダで乾杯だ!』と絵莉は考えながら幸輔の嘘のマジックに見とれていた。
「えー、続いて、玉を浮かすマジックです」幸輔は赤いテーブルの上に置いてある水晶玉を睨むと腕を真上に上げたまま「オー・ダーリン!頼むよっ♪頼むよっ♪浮かんでよっ♪お願い致しますね♪」と呪文を唱えだした。
水晶玉は震えだし、テーブルが振動で激しく揺れながら真っ二つに割れた。
水晶玉は同じ位置で動かず、空中で静止したまま浮かんでいた。
「どう?マジックっぽく見える?」と幸輔は絵莉に聞いた。絵莉は「う〜ん、ちょっと違うかな」と唸っていた。
絵莉の母親、幸輔の娘、神藺敬子(40歳)は「水晶玉を父さんの頭の上くらいに浮かした方が良いじゃないかな。それよりもね、テーブルを直してよ!使うんだからさ!」と敬子は怒って言った。
「わかったよ」と幸輔が言うと「バデムリバスコ」と本当の魔法を唱えるとテーブルは一瞬にして元の形に戻った。
そう、幸輔は本物魔法使いだった。
マジシャンとは仮の姿であり、ここ最近は、約12年間、マジシャンとして飯を食っていた。 それ以前は『ある世界』で魔法使いとしての本格的な仕事をしていたらしい。
絵莉は幸輔の過去について詳しいことは何も知らないし、聞かされてもいなかった。
絵莉も母親の敬子も魔法使いとしての血筋や、遺伝をしっかりと受け継いで魔法が使えた。
「今度は私の番ね」と絵莉は言った。
絵莉は孫の手を手に持ち素振りをした後に、「ここになんの変鉄もない孫の手がありまぁーす。今から孫の手に片足で乗ってみますよ〜」と言うと、孫の手を左手で持って立てた。
絵莉は体を少し浮かせてから左足で飛び乗った。
絵莉は孫の手の上でY字バランスをしながら満足な笑みを浮かべた。
「どう?爺ちゃん?」と絵莉は幸輔に聞いた。
「う〜ん、残念ながらマジックには見えないねぇ。ほとんど魔法だってバレすぎだ。体を、浮かせて、孫の手に飛び乗るんだもの」と幸輔は言った。
「じゃあ、爺ちゃん手本見せてよーう!」と絵莉はブー垂れた。
「孫の手を操るようにした方が自然に見える」と幸輔は言って、直したばかりの赤いテーブルの上に孫の手を置いた。
「えー、今から孫の手にお小遣いをあげたいと思います」と幸輔は言ってポケットからしばらく見掛けない二千円札を取り出した。
「受けとれぇい♪」と言うとテーブルがガタガタ震え出し、また赤いテーブルが真っ二つに割れると孫の手と二千円札が宙に浮かんだまま静止していた。
チロチロと弱々しく、ゆっくりと孫の手が二千円札に寄っていくと孫の手はお札を掴んだ。
「爺ちゃん、孫の手がお札を握り締めたら本物の手に見えるよ」と絵莉は言った。
「お父さん!またテーブルを壊さないでよっ!」と敬子は怒鳴った。
「怒鳴るなよ!分かってるって」と幸輔は言うと、「バデムリバスコ」と呪文唱えて、再び元の赤いテーブルに戻った。
「父さんのマジックの方が本物のマジックっぽい」と敬子は感想を素直に言った。
幸輔は「だろ?シンプルに見せた方が馴染みやすいんだよ。高度に見せるのは時々で良いよ。その方が説得力があるからね」と幸輔は言った。
「なるほどなぁ。勉強になる」と絵莉は頷いた。
「昔から見たら、絵莉もだいぶ上手に『マジックっぽく見せるフリ』が出来るようになってはきたけど、時々、体を浮かすだろう?あれは本当にマズイ。空中浮揚は控えるべし」
「うん。分かったよ」絵莉は納得しながら頷いた。
絵莉のスマホにラインが届いた。
「あっ!真梨からだ」と絵莉は言った。
『絵莉、ちょっとさぁ、マジですんごいものを、見たんだよぉー!!変態がね、パンツ一丁になったあとにさぁ、パッと消えたんだよぉ〜!マジてヤバかったし超笑えた!(笑)』と書いてあった。
「なんだこれ!?意味が全然わからん」と絵莉は首をひねっていた。
つづく
ありがとうございました。