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経緯

7月31日以来の更新です。今回は短い物語ですが、読者の皆様は納得してくれると思います。シンプルに仕上がっています。宜しくお願い致します!

 妖しく緩んだ光は底から這い上がってきたような輝きを放っていた。

 招き寄せられるとはこの事だ。何も考えずに光に触れてしまいたくなる。

 戦いを終えたジョン・ラファロは光の前で佇む慎二と銀次の背後から背伸びをして覗き見ていた。

 

 「グザリフはどうなったんだ?」銀次は隣のスペースを開けてジョンを迎え入れてから聞いた。

 

 「……。あ、ああ、奴は奴は、確かに死んだよ」ジョンは既に忘れかけていたような感じでグザリフの死を伝えた。

 

 「それにしても、この光は一体なんだ? 私がこの洞窟にいた時には、光などはなかった」ジョンは途中まで光に手を伸ばしかけたが、躊躇いつつゆっくりと手を戻していった。

 

 「光の状態が弱いので無理な行動は控えた方がいいだろう」慎二は右手で光の縁を翳すようにした。

 

 「大体2メートル位の大きさだろう」慎二は一旦光から離れて考えていた。

 

 「慎二、どうするんだ? レインや絵莉の回復を待って、出直した方が良いんじゃないのかな?」銀次は革ジャンの胸ポケットから煙草の箱を取り出して手のひらで弄んだ。

 

 「慎二、投げてみるよ」銀次は大きく振り被って思い切り光に目掛けて煙草の箱を投げ込んだ。

 

 煙草の箱が光に吸い込まれていく瞬間、光は激しく明滅し出した。眩い閃光が辺りを貫いていく。

 

 目が開けられないほどの光量が、慎二、銀次、ジョンの視界や体を包み込んでいく。煙草の焼き付いた臭いが鼻に漂ってきた。光は止まらずに四方八方に乱れながら放っていた。

 

 光の大きさは2メートルから一気に5メートルほどにまで拡大していた。光の動きが慎二たちの体に這うように覆うように膨らみ始めてきた。 

 

 慎二は「下がれ」と注意を促したが光は伸ばした腕のように着いてきた。ゆっくりと足元に静かに忍び寄るように。

 

 「慎二、どうするんだ? レインの病院に戻った方がいいかもしれないぜ」銀次は不気味に付きまとう光に背を背けながら言った。 

 「そうした方が良い」ジョンも銀次の意見に賛同をした。

 

 「よし、わかった。今からすぐに戻ろう」慎二は体を浮かし始めた。

 

 「待て」銀次はグザリフの遺体の側に行くと、遺体に手を翳して地面ごと爆発させ遺体を木端微塵に消し飛ばした。

 

 「悪は絶対に反省をしないと言うことが分かった。何処までも悪のままで一生を終える。平和に暮らす人々にとって悪は身勝手で邪魔な存在なんだよ。どんな状況になったとしても『必ず正義が勝つ』という事が真実なんだぜ。ざまみろ、クソ野郎め! ロックンロールをなめるな」銀次は消え去ったグザリフの倒れていた場所に人差し指を突き付けて唾を吐いた。

 

 「もう行くぞ、銀次」慎二は急かすように銀次に言った。

 

 「慎二、銀次、私は病院には行けない」ジョンは申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

 「どうして?」慎二はジョンの立場を理解した上で敢えて問いただした。


 「まだヴァンパイアとしての(さが)が燻ったままの状態で持続している。人の多い場所には慣れていないし、今より気を引き締めて注意が必要にもなってくる。私はヴァンパイアとしての感覚に支配されたくはないんだ。分かってくれるね?」長いことジョン・ラファロの心に秘められてきた苦悩や葛藤が一気に吹き出てきた瞬間であった。

 

 ジョンは慎二と銀次に心を開いて本心伝えれたことで、長年の重荷や背負ってきた重圧から解放されていくのが分かった。

 

 「そうか…。分かった。無理強いはしない。また近いうちに会おう」慎二はさばさばとした言葉で話終えると、銀次に目配せをして促し、迷うことなく瞬間移動をして消え去った。 

 

 ジョン・ラファロはまだ動きのある光を黙って見つめていた。

 今晩の寝床はこの洞窟ではなく、貴族が1887年に造ったとされるサロンに似たような館に決定になった。かつての栄光の面影を残したままだが、今では、朽ち果てて廃墟と化した憐れな落陽の館だ。地下3階まであるという、当時としては画期的で珍しい造りをした洋風の館だった。

 

 ジョン・ラファロは地下3階に棺を運び込んで暗黒の闇の中で1人、ひっそりと眠りに就くのだった。

 何も思わず、考えることもせず、夢みることさえも捨て去って、ただ、無我の境地で深い眠りに落ちるのだ。

 

 ジョン・ラファロは空を見つめると目的の場所を心に浮かべた。ジョンの足元にまで届いていた光が、引き下がるように洞窟へと戻っていった。

 

 光は緩いリズムで明滅をすると花が枯れて萎むように洞窟の奥へと消えてしまった。

 戦いを終えた男たちの温もりと血の匂いが土の上に刻み込まれた。

 

 秋の終わり頃には公園の噴水が止められて、枯葉と濡れたアスファルトを踏み歩く時の寂しい気持ちを感じ、自分だけが取り残されてしまったと激しく悔やんでしまうものだ。

 

 慎二と銀次が去った今、1人残されたジョン・ラファロの心には、洞窟の闇と灰色の立場の自分自身が無常な空間を引き立てるように響き合いリンクしているように思えていた。

 

 ジョンは僅かな望みが生まれたのを自覚していた。 喜びに変えていいものか悩み始めてもいた。もし、自分を救えるのならば、悲しみの空へと腕を広げて今すぐに飛び出さなければならないのだ。

 

 ジョンは目を閉じて体を浮かばせると、再び孤独な自分と向き合うために必要な場所に、消え去った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 

 

 

 慎二と銀次は紋絽病院の9階にいた。レインとジュリアは同じ病室にいて話し込んでいた。慎二と銀次が部屋に音もなく瞬間移動をして入って来た事に、さほど驚く事もなく、慎二はレインの目配せの合図を確認してからパイプ椅子に座った。

 銀次は「失礼、トイレに行く」と行って部屋から出ていった。

 

 慎二はレインとジュリアの体力の回復を特に確認することもなく、今までの経緯について真剣に話し始ようとした。

 

 レインとジュリアは慎二の疲れ切った顔を心配して唇を強く噛んでいた。

 レインはジュリアのベッドに腰を掛けていたが、慎二の話を聞くために壁に立ててあるパイプ椅子を魔法を使って自分の足元に置いた。 

 

 

 

つづく


ありがとうございました!!慎二、銀次、レインとジュリアが再会をしました。絵莉の姿は、まだ確認ができていません。絵莉もかなり消耗していましたから…。心配ですが、絵莉の向こう見ずなエネルギーは必要になってくるはずです。高校生の絵莉は美少女で、かなり気が強い。ハイブリッドな立場を生かす能力の拡大が待たれるところです。

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