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クロース・トゥ・ユーが流れている

18話です。宜しくお願い致します♪

 僕は電車に乗って何事もなく発車を待っていた。


 駅員、数名が真梨の周りを囲んで心配そうに介抱していた。


 絵莉は泣きながら「ごめん真梨。大丈夫? なんともない? ねぇ大丈夫?」と言って真梨を抱きしめて頭を撫でて背中を擦って肩を揉んで、右足の脹ら脛を押してあげていた。


 「痛てててて!」と電車内の椅子に横たわる真梨は瞬間的に右足をバレリーナのようにピンと綺麗に伸ばして持ち上げた。真梨は右手で右足首の痛みを緩和させるために掴もうとしていたが届かなかった。


 「お客様、医務室まで行きましょうか?」と駅員は帽子を取っておでこを掻きながら言った。


 「いや、大丈夫です」と真梨は恥ずかしそうに言った。


 「不審者の男に押されたとのことですが、何処にいますか?」と駆け付けた警察官3人が怒った顔をして辺りを見た。


 「そこの自動販売機の前にいたのですが、逃げた見たいです」と絵莉は言ってから僕を見つめた。


 「分かりました。調べてみます。複数の目撃者がいますので、犯人の確保は早いですよ。心配なさらないで下さい。必ず捕まえますからね」と血気盛んな若いパワーをみなぎらせた警察官は真梨の肩を優しく叩いて言った。


 『えー、只今、緊急事態のために発車時刻が遅れています。ご了承ください。もう間もなく電車は動きますので、今しばらく御待ちください。お客様、宜しくお願い致します』ホームにある白い小さなスピーカーからノイズなボイスの連絡があった。


 僕は時計を見た。時刻は午前11時20分になろうとしていた。


 『大丈夫だ。間に合う。もし、撮影現場に遅刻をしたら、僕は自分で自分を3日間は罵るだろうね』と思いながらセリフを思い出していた。


 真梨は「大丈夫です。助かりました。御心配をお掛けしまして」と言って、体を起こすと駅員たちに頭を下げてお礼を言った。


 電車は事件から20分後にようやく動き出した。


 僕の前の席に座る絵莉と真梨は、椅子に座ってボンヤリとしていた。


 「あの男、今度会ったらただじゃ済まんよ。ブッ飛ばしてやる」と絵莉は開いた左の掌を、右手の拳で何度も殴る真似をした。


 「怖かったよ。あの男、ずっーと、自宅からついて来たんだよ」と真梨は口を尖らせて文句を言った。


 「一体、何処に消えたんだろうねえ?」と真梨は絵莉の肩を組んで言った。


 「……」絵莉はしばらく僕を見つめていた。


 「どうした? 絵莉? お腹でも減ったのかな?」と真梨は絵莉の顔の前で指を鳴らしながら言った。


 「うん。減った。よくわかったねえ」


 「次の駅で降りて、チョコレートパフェを奢っちゃうよ。あはは」と真梨は笑いながらチョコレートパフェの素晴らしさを熱弁していた。その間、絵莉は僕を時折、盗み見をしていた。


 「ねえ絵莉、出来たはがりのね、カフェ『ツー・ショット』ってさあ、ストロベリーパフェも捨てがたいしさあ、バナナパフェなんていうのもあるし。どう思う? ねえねえ絵莉はどう思うのさ? 迷う〜っ。チョコミントパフェなんてクールなパフェもあるしさ、あそこのカフェはアップルパイが美味しいのよねえ。

 アップルサンドや、はちみつレモンパフェなんていうのもあるし、ねえ絵莉はどうするの? やっぱ、チョコレートパフェで決まりなの?」と真梨は言って、カフェ『ツー・ショット』のメニューが載っているチラシを見ながらヨダレが出かかっていた。


 「真梨、私は、やっぱり王道のチョコレートパフェ一筋でいきますぜ」と絵莉はメニューを取り上げて上に上げた。


 「いやーん、返してよーん、絵莉ちゃん、大事なメニューを返してよん。あははは」と真梨はキャッキャッ言いながらはしゃいだ。


 『さっきまであんなに落ち込んでいたのに…。女の子って何だろうね?』と僕は思いながら2人の様子をそれとなく眺めていた。


 あと1分ほどで次の駅に着くと分かると、絵莉と真梨は立ち上がって扉に向かった。


 扉が開くと、最初に真梨が降りた。絵莉は立ち止まったまま僕を見ていた。


 「絵莉、早く、早くしなさいよん! もう電車が出発しちゃうからさ、早く降りなさいって」と真梨は言ってから、跳び跳ねて右足の回復ぶりをアピールしていた。


 「うん、分かったよ」と絵莉は頷いた。発車のベルが鳴り響く。


 『ありがとう。助かりました。貴方でしょう?』と絵莉は僕にテレパシーを送ってから電車を降りた。


 僕は後ろの窓を振り返ると、絵莉に向かって微笑みながら頷いた。ゆっくりと電車が走り出すと絵莉は僕に軽く頷き微笑み返した。


 「絵莉〜っ、突っ立ってないでさ、早く行こう!チョコレートパフェが待っているんだって」と真梨は絵莉の腕を引っ張って電車から離そうとしていた。


 景色が流れていくと2人との距離が遠退いていき、主役の後ろを歩いていくエキストラのように小さな点になっていった。


 僕はリュックサックから台本を取り出すと、セリフを確認した。


 撮影現場には、予定より早くて、1時間30分前に無事に到着をした。

 山紙埠頭は撮影準備でスタッフたちが忙しそうに立ち回っていた。


 沢田監督がカメラマンと一緒になって、しゃがみながらカメラの動きを伝えていた。


 「わかったかい。こうだからね。ゆっくりとカメラが移動して、主役の前にカメラを持っていき、真っ正面から捉えて顔のズームだからね。歩く主役の全身像を映してから横にパーンとカメラを回してカモメと海を撮っていく。ズームして陽に当たる波を綺麗に撮るという流れだよ。どう? 分かったかな?」と沢田監督がヤンキー風にしゃがみ込みながら言っていたので足を震わせていた。


 「監督、分かりました」とカメラマンも和式便所のスタイルでいるために足を震わせていた。

 『確実に明日は2人して筋肉痛になるだろうね』と僕は思って見ていた。


 「三杉さん、メイクアップをしますのでトレーラーまで来て頂けますか?」メイク担当の長谷川さんが僕の傍に来て言った。


 「はい。分かりました。宜しくお願いします」と僕は長谷川さんとメイクのトレーラーまで雑談しながら歩いていった。


 途中で映画の脚本家の小田麻美さんとすれ違った。


 脚本家が撮影現場に来るのは珍しい事だった。

 以前、セリフ合わせの本読みで1度立ち会った時にしか、お目に掛かってはいなかったので、僕はメイク担当の長谷川さんに「ちょっと、待ってて」と言ってから小走りで引き返して小田麻美さんに挨拶をした。


 小田さんは笑顔で「お疲れ様です。頑張ってくださいね」と言ってくれた。嬉しくなった僕は元気よく、「ありがとうございます」と伝えた。


 たくさんの方々の力や支えがあって映画は作られていく。

 改めて僕は身を引き締める思いになっていた。良い映画にしたいという気持ちでいっぱいになっていた。

 脚本家にも難しい方がいると話には聞いていたが、小田麻美さんはとても感じの良い方なので凄く安心をした。


 トレーラーに着くとメイクはしている人はいなくてヘア担当のケイコさんがいた。

 ケイコさんは右手の人差し指に皮膚炎の持病があったので、時々、軟膏の匂いがしてきた。


 ヘアカットは一流でハリウッドやフランス映画でも活躍をしている世界的なアーティストだった。


 沢田監督のいとこという話だった。


 ケイコさんは長身で素敵な方で、黒ぶちのお洒落なメガネと、金髪と黒髪が混じり合った配色が綺麗なヘアスタイル、ハート型のネックレスは知人からの誕生日プレゼントで貰った物、左耳のピアスは小さなイチゴをモチーフとしていた。

 明るい方で誰からも好かれるタイプの魅力ある女性だった。


 僕は長谷川さんに顔のメイクを済ませてもらってから、ケイコさんにヘアメイクをしてもらった。


 トレーラーの中ではカーペンターズの歌が流れていた。ケイコさんのお気に入りだそうで、ハミングしながら僕の髪をカッコよくメイクをしていた。


 外れて歌うケイコさんが可笑しくて、僕の顔はどうしてもニヤけてしまう。


 「外れてますか? 変ですかねえ?」とケイコさんは愉快に笑った。


 僕は「降参」と言ってから手を上げて笑った。


 僕はヘアメイク中、カレンの事について、しばらく想いを馳せていた。





つづく


ありがとうございました♪また書きますので、楽しみにしてくださいね!

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