シヴァの日常~猫娘との出会い・中①
シヴァを誘うドワーフのガイことオッサン、キース、エルフのカリストフに待ったをかけたのは、オッサンたちと一緒にいたシヴァの見知らぬ青年であった。
年のころは二十歳といいたところ。
生意気そうな顔をしているが、短く刈り上げた髪の色は顔に似合わず清廉さを漂わす青。
身長はシヴァとそう変わらないが、体の作りはシヴァよりもガッチリとしていることは、全身に着ている金属鎧の上からでも容易に分かる。だからといって鈍重そうな印象は受けず、むしろ機敏な兎を髣髴とさせた。
装備は腰のベルトに佩いたブロードソード一振りに背中に背負うラウンドシールド。その装備をみて、青年は恐らくアスリートタイプの軽戦士なのだろうとシヴァは当たりをつけた。
そんな彼が、再び口を開く。
「コイツを連れて行くって? 冗談じゃないっスよ、何言ってんスか三人とも。顔見知りだかなんだか知りませんけど、こんな弱っちそうな奴連れてっても邪魔なだけっしょ」
片手を腰に当て、もう片方の手をヤレヤレといった感じで振る青年に、
「あぁん? 先月ようやっとスキルの一つ覚えてついこの間ランクが【P】に上がったばかりのペーペーがナマ言ってんじゃねえぞ!」
オッサンが吼えた。
「い、いいじゃないっスか別に! スキルの一つも使えないようなこいつよりなんて絶対約に立ちませんって!」
「いや、オィンガス。それは間違いでござる」
どうやら青年の名前はオィンガスというらしい。彼の言葉を、キースが首を横に振って否定した。
「シヴァ殿はスキルを扱えるでござるよ。それも一つや二つでは無いでござらん」
「ハァ!? だってコイツのランク【V】でしょ!?」
オィンガスはキースの言葉に目をひん剥いた。それほどまでに、スキルを一つ覚えるのは苦労することなのだ。
「おいシヴァとか言ったかっ、お前、幾つのスキルを使える!」
「ん~……結構沢山だな」
「沢山ってなんだよ!?」
オィンガスの問いかけに、シヴァは曖昧に返した。今選択しているWGⅢにスキルはないが、シヴァが扱えるスキルの数は、EFⅩⅥだけでも六十を越える。PZ5に入れているソフト全てのスキルを含めれば、軽く百を越えるだろうが、それを言うつもりはない。
シヴァとてスキルを習得するためにこの世界の者が必死になって努力しているのは知っているつもりだ。
反面、シヴァの持つスキルは全てゲームのものであり、習得に必要だったのは必要レベルとスキルポイントだけであった。全てを習得するのには時間こそ掛かったが、この世界の人たちがするような苦労や努力とは程遠い。
だからこそ、シヴァは自身が持つスキルの数を正確には言わなかった。
「……ダーー! やっぱガイさんたちがなんと言おうとやっぱ納得いかねえ! やいお前、ちょっと俺様と勝負しろ!」
「俺様って――」
実際に言う奴、初めて見たぞ。さすがは異世界だとシヴァは妙に感心した。
「それに勝負しろっていわれてもなあ……」
面倒くさそうにオッサンたちを見やる。あんた等の仲間だろ、どうにかしろと視線にこめて。
実はこうしたことは初めてではない。
シヴァが冒険者になったその日、絡んできた中位の『クラン』を一人で瞬殺したことや、初依頼で魔物を百匹近く狩るという離れ業で派手にこなして以来、こうやってシヴァに突っかかってくる者が結構いたのだ。
冒険者は魔法使いでない限り、見た目と実力がほぼ一致する。つまり、強い者ほどガチムチ、あるいは細マッチョなのである。
対してシヴァはそのどちらでもなく、良くも悪くも平凡な体つき。
簡潔に言えば、弱そう。
そんなシヴァが単独で中位のクランを瞬殺したり、魔物を百匹狩ったという。俄かには信じ難い。
そして冒険者の大半が、ガチムチな外見同様、脳みそも筋肉の塊であった。いわば単細胞なのだ。
だから彼らは単純に思った。
ならばその力、本物かどうか俺らが試してやる! と。
そして突っかかってきた冒険者全員を、シヴァは叩きのめしてみせた。
それ以来、この街に拠点を置く冒険者たちはシヴァに喧嘩を売るようなことはしなくなった。今ではそんな真似をするのは、他の街からやってきた冒険者や傭兵などだ。彼らの大半はシヴァの噂を小耳に挟んで見に来ると、実物を見て突っかかってくるのだ。
こんなひょろっこいのに返り討ちにあうなんざ、ディンクの街の冒険者も腕が落ちたもんだ。と馬鹿にしながら。
そして、瞬殺されるまでがオチであった。
が、最近はそれも見なくなりつつある。身をもってシヴァの強さを体感した余所の冒険者達が吹聴しているお陰である。曰く、「ディンクの街にはシヴァという悪魔がいる」「見た目に騙されるな」「痛い目にあいたくなかったら喧嘩を吹っかけるな。吹っ飛ばされるぞ、マジで」と。なので、シヴァの名前は本人の与り知らぬところでそこそこ有名だったりする。
シヴァからすれば、良く分からない理由で絡まれることが激減したので万々歳であるが、周囲の冒険者からすれば面白くない。なにせ彼らはそれをネタに酒を楽しんでいたり賭けをしていたのだから。
そこに今回の件だ。
気付けばシヴァたちの周りには野次馬と化した冒険者達が集まってきていた。そしてやんややんやと盛り上がっている。無責任にオィンガスを煽る輩も多い。すでに賭けも始まっているようだ。
だからと言ってそれにシヴァが付き合ってやる道理もないので、もう一度面倒くさそうにオッサンたちを見やる。
が、オッサンたちからも面倒くさそうに見られた。そして言われた。
「シヴァよ、ちぃと悪いがそこの阿呆ぅに現実ってもんを教えてやってくれ」
「うむ、それがよかろうなあ」
「見事な放り投げですね、二人とも。あ、自分も異論は無いのでやっちゃってください、シヴァさん。相手の力量を見抜けないお間抜けさんなので、遠慮はいりませんよ」
シヴァはその物言いに脱力した。
どうやらオィンガスと勝負しないといけないようだ。
シヴァが「分かったよ」と渋々言うと、周りの野次馬から喝采が起こった。
とはいえ、オッサンとキースの言い分は分かるが、カリストフの言葉は色んな意味で酷い。
なので、アイツもオィンガスをぶっ飛ばした後にぶっ飛ばそう。そう心に決めると、なんだかやる気がでてきた。
一方、オィンガスもまた、やる気を漲らせていた。それもそのはず、周りからの無責任なたきつけと、オッサンたちの自分が負ける前提の会話を聞いていたのだから。
(なんだよガイさんたち! 俺よりこんなひょろっちい奴の方が強く見えるッスか!? ……負けねえ。ぜってー負けねえ!! 負けらんねえ!!)
無駄に気位が高いのが冒険者という生物。オィンガスもその例に漏れていなかったようだ。
オィンガスが両の拳を握り、構えを取る。
ギルド内では武器の使用や攻撃魔法の行使はご法度だ。使えばギルドの脱退及び重い刑罰が科せられる。
なので、残るは純粋な格闘術。
オィンガスは剣士だが、しかし格闘術もそれなりに自信があった。それを裏打ちするように彼の構えはなるほど、様になっている。
オィンガスが構えをとるのを見て、シヴァもまた準備を開始する。
PZ5のホームメニューを呼び出すと、世界がとまった。静寂の中、【ゲーム】の項目から格闘ゲームの『ストリートソルジャー5』(通称スト5)を選択。
喧嘩を吹っかけられた時はいつもデッドライブ5を使っているのだが、そろそろ飽きてきたので今回はスト5をチョイスしたのだ。
ストリートソルジャー5は格闘ゲームながら、以前にシヴァが使ったデッドライブ5とは趣が違い、二十一世紀末においては珍しい2Dタイプ。しかも飛び道具ありだ。
視界が暗転した後、キャラ選択画面が目の前に現れた。
総勢四十人のアイコンがずらりと並ぶ様は圧巻だがシヴァは迷う風も無くキャラを選択。
選んだのはこのゲームの主人公でもある『リョウ』。
外見は薄汚れた胴衣に素足。設定では修行のため世界中の猛者と戦い続けているらしい。
キャラ選択が終われば、次はウルトラ必殺技(通称ウル必)の選択。スト5では、各キャラごとに二種類のウル必が用意されている。
ウル必とは、一定のダメージを受けることで発動できる超威力の必殺技のことである。
リョウのウル必は、飛び道具の『殺・波動掌』と、多段ヒットが特徴のアッパー技『殺・昇竜掌』である。
シヴァが愛用しているのは『殺・波動掌』だが、魔法と認識されたら不味い。ひょっとしたら飛び道具系のスキルがあり、そのスキルと認識されるかもしれないが、未だこの世界のスキル全般を把握していないので、今回は安全策をとって『殺・昇竜掌』を選んだ。
(飛び道具禁止ってのはちょっとキツイけど、まあどうにかなるだろ)
デッドライブ5ほどやりこんではいないものの、スト5もそれなりにやりこんではいるのだ。上級者相手には殆ど勝てない腕前ではあるが、初心者というわけでもない。
全ての選択が終わると同時に世界が動き出し、シヴァの姿がWGⅢ仕様からスト5仕様へと瞬時に切り替わった。周囲がざわつく。オィンガスも驚きに目をひん剥いていた。
――また見慣れない衣装になったぞ! ――いつものやつじゃねえな!
周囲のざわめきを無視して体の調子を確かめる。
薄汚れた胴衣に素足。ロビーの冷たいタイルの感触が直に伝わってくる。
(えっと……体が自由に動かせないってことは、デッドライブ5と同じく脳内コントローラーで操作するつもりで……あ、動いた。やっぱ、格ゲーキャラはコントローラー操作なのか)
格ゲーキャラといっても、外見はシヴァのままではあるが。
ともあれ、自分の体の操作方法は分かった。
シヴァが体の確認が済むと同時に、体が勝手に右半身を引いて構えつつ、リズムを取り始める。テレビ画面で見慣れたリョウの動きだとすぐに分かった。
「格好が変わるだけの魔法なんて!」
オィンガスの声が上げる。
「拳で語れ!」
シヴァが返す。……というよりも、今の台詞はリョウの登場デモシーンで流れる台詞であり、今も勝手にシヴァの口から飛び出したのだが。周りは大盛り上がりであった。
Round 1 ――Fight!
脳内に響くアナウンス。試合が始まった。




