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第17・5話 異世界

 異世界バニイップ――


 世界は一つの巨大な大陸アトラージュ大陸と、その周辺に散らばる大小さまざまな島で出来ている。

 海の向こうには未踏の大陸や島があるかもしれないが、今はこれが人類の『世界地図』である。


 アトラージュ大陸には六つの大国が存在する。


 大陸のほぼ中央に宗教法王国、『ロマネー』

 中央から北、法王国に就き従う様に隣接する騎士王国、『モラン』

 騎士王国のさらに北、カーラ山脈の向こうに位置する軍事帝国、『ガルディア』

 中央から南西寄りに通商連合国、『ブリタイ』

 大陸東部の広大な森の中には、エルフが建国した森の国、『エン・テ・ローニ』

 大陸南部に広がるひび割れた不毛の大地に唯一存在する灼熱の国、『ウル』

 他にも小国が二十程あるが、いずれも何某(なにがし)かの大国に属している。


 その六大国の内が一つ、通商連合国『ブリタイ』。


 ブリタイは、その名が示す通り、商業を主とする幾つかの国が集まって出来た大国である。

 建国は約四百年余り前、穀物商を中心とした人間の国と、鉄鋼業を中心にした亜人ドワーフの国が通商条約を結んだのが始まりである。

 以降十四年の間に、周辺の八つの国がその条約に参加し、今の形となる。


 異なる種族、国家がこのような連合諸国の形を執るようになったのには、理由がある。

 建国当時、大陸の治安は今ほどに安定しておらず、魔物や盗賊、軍人崩れの傭兵が溢れていた。

 そんな世の中、弱小国は、もろに被害を受けやすく、商いを主力としていた国はその性質上、狙われやすかった。


 それらの被害から国を守るために手を取り合い、条約を結んだのが、最初の二ヶ国である。

 条約の内容としては―――


 一つ、加盟国が侵略、及び攻撃を受けた場合、他の加盟国は直ちに援軍を派遣するべし。


 一つ、加盟国同士の商いに限り、通行税、貨物税等を徴収しない。


 一つ、連合国の運営には、加盟国から代表を三人ずつ選び、その代表者らをもって会議を開き運営すべし。


 他にも細々としたものはあるが、大凡〈おおよそ〉このような内容である。


 加盟国が増えるに連れ被害が減り、大陸全土に通商網を拡大し、生活用品から鉱物までを一手に取り扱うことで、他の国から干渉を

 ほぼ防ぐ事に成功し、今現在に至り、連合国は大国に名を連ねるまでになったのである。



 シヴァが現在いるのが、通商連合国ブリタイの東部に位置する商業都市ディンクである。

 ディンクは、周辺の町や村で収穫された麦を初めとした穀物を集める集積所として発展して来た都市である。



「――なるほど」


 シヴァは頷き、本を閉じた。


 冒険者ギルドの二階にある蔵書室――ここでシヴァはバニイップと呼ばれるこの異世界のことを簡単にではあるが、色々と調べていたのだった。

 シヴァが陣取る机の上には何冊もの本が積み重なっている。

 神話から世界情勢、周辺国家やこの国のなりたち、言葉や文字のことまで、気になったことは一通り。

 先ほども言ったように簡単に、ではあるが。


 それで分かったことが、上で述べた六大国のことと、自分がいる通商連合国ブリタイのことであり、身を置く商業都市ディンクのことであり、ディンクがブリタイの東部にあるということだ。


 また、文字についても面白いことが分かった。

 文字や言葉はやはり国毎に違うようだが、こと、文字に至っては共通の『飾り文字』なるものがあるようだ。

 見本として本に載っている飾り文字自体の書体を見る限り、地球でいう所のインカ文字に近いかもしれない。シヴァには文字と言うよりは一種の絵に見える。

 飾り文字とは、文章の始めに付けるもので、何種類かある。

 付ける飾り文字によって、文体が丁寧になったり、逆に挑発的になったり変化するらしい。

 例えば英語の『you』。「お前」と訳するのを普通としたとき、『you』の前に『A』の飾り文字を付けると、「あなた」と訳することになり、また『B』の飾り文字を付けると『貴様』に変化する具合だ。

 まあ、シヴァの場合は翻訳ソフトが勝手に翻訳してくれるので覚える必要は無いのだが、知識は大事である。


 次にシヴァが調べたのは、ギルドカードをスキャンした際に出たエラーメッセージ。そこに書かれていた『ノンモ文明』。

 文明とある以上、調べるのは歴史書であり、シヴァの予想通り確かにノンモ文明のことは書かれていたのだが、その内容はぶっ飛ぶようなものだった。

 なにしろ、ノンモ文明は、遠(・)く(・)の(・)星(・)か(・)ら(・)渡(・)っ(・)て(・)来(・)た(・)新(・)し(・)い(・)神(・)々(・)とあったからだ。

 アトラージュ暦千九百九十一年の七月――ノンモ人たちは空飛ぶ船に乗って大地に降り立ったと歴史書にはある。

 ノンモ人たちは緑色の関節のない体をし、下半身は蛇のようであり、目は赤く、肌はすべすべしていたという。

 ここまで読んで、シヴァが思ったことは、ノンモ人は新しい神々ではなく、宇宙人なのでは? ということだ。

 もしかしたらこの世界にはまだ、宇宙人という発想はないのかもしれない。

 また、ノンモ人たちは接触したこの星の人々に自分たちの技術を教えたようで、その後、また星々の海に帰って行ったらしい。

 そのノンモ人ゆかりの技術こそが、ギルドカードを始め、ニアーツなどにも転用されているらしい。

 なのだが、まだまだ解明されていない技術も多く、ノンモ人たちが残していった、用途不明の魔法具も数多いという。

 ちなみに、各ギルドにはその用途不明の魔法具が幾つか保管されているらしく、ギルド会員であれば、申請すれば誰でも見られるというので、近い内に見てみようと決めているシヴァである。

 以上がノンモ文明についてだ。


 神話に関しても中々に興味深い。

 大地の神がエルフを創り、冥府の神が人間を創り、その人間がエルフを唆(そその)して、空、大地、冥府、宇宙へと赴き、神々から知恵の炎を盗み出して魔法が使えるようになる。宇宙に行ったエルフは戻ってこなかったようだが。

 そのことに激怒した神々は人間とエルフに罰を与えて洞窟へと追いやることで、ドワーフが誕生したというのが大まかな流れだ。

 シヴァの知る大抵の宗教において、神が作り出した命は人間というのが多いが、この世界の神話において、最初に作り出された命はエルフである。

 また、人間は優秀とされることが多いなか、この世界では生み出された瞬間から愚かとされている。

 その人間がエルフとともに罪を犯したすえ、ドワーフとなるのも面白い。ドワーフの祖は人間なのだ。

 ちなみに、エルフやドワーフの他にも、多くの亜人種がいる。

 有名なところでは、シヴァも知る半人半馬のケンタウロス、小人族のハーフリング、狼男(ワーウルフ)、リザードマンの他、アヒル人間とも言うべきダックマン、兎の耳を持つラビットリングなどの多種多様な獣人。吸血鬼と人間の混血児のダンピール、ドラゴンと人間の中間に位置するドラゴニュートといった亜陣たちがいる。特にダンピールとドラゴニュートは生まれつき優秀な頭脳と堅牢な肉体に加え、特殊な技能(ユニークスキル)を持っている種族だ。


 話が逸れてしまったが、神話の中で興味深いのは、知恵の炎を盗みに宇宙に行ったエルフが帰ってこなかったことと、先に述べた星を渡ってきたというノンモ人についてだ。

 もしや帰ってこなかったエルフがノンモ人になったのでは? というシヴァの推測は飛躍しすぎだろうか。

 かつて洞窟に追いやられた人間がドワーフになったのだから、ありえるような気がするのだ。

 とはいえ、当のノンモ人がすでに飛び去ったあとなので、真相は分からないが。


 ちなみに神話には知恵の炎からもたらされたのは魔法とあるが、実際にはスキルや他の知識もあったらしい。

 スキルと魔法は同時期にもららされた物だったのだ。


 そのスキルや魔法についても調べてみたところ、スキルは攻撃系、防御系、強化系、補助系の四つに分けられ、魔法は白、赤、黒の三つに分けられるようだ。

 スキルにしても魔法にしても、さらに細分化していくらしいのだが、大別すればこんなものらしい。

 ちなみに、スキルも魔法も体内に流れる魔力、もしくは大気中の魔素(マナ)を消費して扱うようだ。

 スキルや魔法に関しては、戦闘していれば勝手に習得するではなく、ギルドや個人でやっている修練場で習って覚えるもののようだ。もちろん有料である。

 とはいえ、スキルは得て不得手があるにしても基本的には誰でも覚えることができるらしいのだが、魔法に関しては一定の魔力量がないと覚えられないらしい。

 例えば、Aという人物は100の魔力があるとする。次に、魔法使いになるために必要な魔力量は200とする。炎の魔法を使うには10の魔力が必要としたとき、Aの魔力量は足りているが、そもそも魔法使いになるための条件を満たしていないので、炎の魔法を使うことは出来ないのだ。

 魔法使いの条件を満たしていれば、スキルも魔法も覚えることが出来る。いわば魔法戦士になれるのだ。

 とはいえ、どちらも魔力を消費して使うため、大抵はどちらか一方を優先して覚えるのが一般的らしい。


(ここら辺は俺の方が有利だな)


 シヴァがそう思うのも仕方ない。

 なにせE(エンドレス)F(ファンタジー)ⅩⅥや一攫千金! ジョブ☆チェンジにおいて、スキルと魔法は別の要素だからだ。

 スキルはどちらのソフトでも基本的に無(・)制(・)限(・)。

 魔法は魔力(MP)を使うが、シヴァのキャラのMP総量はどちらも実に八(・)千(・)万(・)オーバー。

 この世界の人間が聞けば確実にホラ扱いされるだろう量であるが、紛れもない事実である。

 その気になればいくらでもこの世界のスキルや魔法を覚えることができるだろうが、今のところその予定はない。

 なぜならどちらのソフトでも扱えるスキルや魔法の数は百近くあり、既に過剰気味なのだ。さらに増えても使いきれないだろう。


(……まあ、それでもその内にコンプリートしたくなって手を出すかもしれないが)


 そう思ってしまうのはゲーマーゆえだろう。


「今のところ、調べたいものは粗方終わったかな」


 疲れを感じ、吐息一つに眉間を揉むシヴァ。

 PZ5のホームメニュー右上にある時計を見れば、午後の二時を周っていた。調べ物を始めて三時間は経っている。

 どうりで目が疲れるわけだ。

 こんなに集中して調べ物をしたのは大学の卒業論文以来かもしれない。


 時間が知れた途端に鳴り出すのは腹の虫。考えてみれば今日は朝から何も食べていない。


「調べ物は終わったし、何か食べに行くか。その後で適当な依頼を受けよう。目指せオーダーメイドの機械仕掛けの置物! だけど今はご飯が優先! ……その前に本を片付けないとな」


 山積みになった本を、げんなりしながら片付けるシヴァ。

 終わったのは十分ほど後である。


 空腹を抱えながらロビーに下りてきたシヴァを受付のリリィが目敏く見つけ、笑顔で会釈してくる。

 美人に笑顔を向けられて気を悪くする男はいないだろう。シヴァも笑顔で会釈を返す。

 だが、美人に笑顔を向けられない男たちは気を悪くする。が、突っかかって来たギルドランク『P』の冒険者四人をあっさりと伸(の)し、実力を示したシヴァに挑(いど)む挑戦者(チャレンジャー)は残念ながらこの場にいないようだ。

 こうして男たちの怨嗟の視線を背中に浴びながら(本人は気付いていないが)、シヴァは冒険者ギルドを一先ず去るのだった。

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