第15話 冒険者ギルドで無双・上
明くる日の朝。
「ほるっほぉー! ほるっほぉー! ほっほっほー!」
「いてっ、いてっ! 何事!?」
シヴァはけたたましい声と、頭を何者かに突かれる痛みで目を覚ました。
まどろみの余韻も余裕も無い強制的な覚醒である。
だが、自分を叩き起こした正体が魔石仕掛けのフクロウだと分かると、そんな不満も吹き飛んだ。
「おお、ちゃんと起こしてくれたか!」
フクロウのお腹から露出している時計を確認すると、午前八時一分。
シヴァががばっと起き上がるのを確認すると、フクロウは役目を終えたとばかりに時計を収納すると、ミスリル製の翼を広げてベット横の円卓へと舞い戻り、待機状態になった。
「飛べもするのか!」
それを見たシヴァはさらに欲しくなるのだった。
テンションが高まったシヴァは、受付の男から魔石仕掛けのフクロウを購入した店を聞き、そのまま宿を後にした。
その店は、宿のある大通りから一つ向こうの大通りにあった。
二階建てのレンガ造りは年季が入っているようで落ち着いた風合いを醸し出し、扉の上に掛けられた看板は洒落っ気が効いたデザイン。
店を潜ると、扉に付けられていた鈴が『カランコロン』と耳に心地よい音を奏でて迎えてくれた。
「――ほぉ」
店内を見渡し、シヴァは感嘆の息を漏らした。
二十畳ほどの店内には沢山の飾り棚が置かれ、魔石仕掛けの置物と思われるものやランプ、果てはトランプなどのカード類が並べられていた。
それら一つ一つを眺めていると、
「――いらっしゃい。『夢の園』へようこそ」
店の奥にあるカウンターから初老の男が声を掛けてきた。
カウンターの奥には部屋があるようなので、鈴の音を聞き出てきたのかもしれない。
「朝早くからすまない。少し店内を見てまわっても良いだろうか」
「構いませんよ。何か分からないことがあったら聞いてくださいな」
店主の柔和な笑みに「助かる」と返し、シヴァは店内の商品をスキャンしながら見てまわった。
店の大半は魔石仕掛けの置物らしく、宿で見たフクロウ型の他にも猫、犬、獅子など、種類は豊富だ。
(まあ、欲しいのはフクロウ一択だがな)
置いてあるランプは全て携帯型の魔石灯のようだ。
(ふむ、これはその内にでも買わないといけないだろうな)
普段、WGⅢ仕様でいるシヴァには暗視装置があるので必要のないものだが、もし魔石灯が生活必需品であるのならば、他の人に合わせる意味でも持っていたほうが良いだろう。
少し気になっていたトランプは、どうやら不正防止の魔法がかけられているようで、他のカード類は占い用のものらしく、それ専用の魔法がかけられていた。
(ここらへんは必要ないか)
他にも色々とあるが、今日の目的は魔石仕掛けの置物の値段を調べることなので、スキャンしてまわるのはこれくらいで切り上げることにした。
ただ、値段を調べようにも困ったことに、どこにも値札がないのだ。スキャンのデータでも、流石に値段の項目はない。
「主人、魔石仕掛けの置物の値段を知りたいのだが」
「ああ、付いている機能によって値段は様々ですからな。どういった物をご所望で?」
なるほど、機能によって値段は変わるらしい。
「逆に聞きたいのだが、どのような機能があるのだ?」
シヴァの物言いから、この男が魔石仕掛けの置物のことを全く知らないと判断した店の主人は、丁寧に説明を始めた。
「そうですな。大半は生活を助ける機能が多いです。例えば時刻を教えてくれる、設定した時間に起こしてくれる、自分の代わりに火の番をしてくれるなどです」
他にも、と店の主人はシヴァの姿を眺めながら
「お客人は武芸を嗜む方と見受けられますので、戦闘を助けてくれる機能などもありますな」
「ほう、そんなものまであるのか」
「はい。搭載している魔石に充填した攻撃魔法や回復魔法を使わせたり、敵の注意を惹かせたり」
「中々の芸達者だな」
それよりも魔石に魔法を充填するというのに驚きだが。
「ですな。冒険者から傭兵の方まで、一定の支持がありますよ。ただ、戦闘用なので少々値が張りますが」
あとは、
「今言ったような既製品ではなく、自分好みの外見や機能を付けるオーダーメイドもあります」
「オーダーメイド!」
「値段は高いですがね」
その発想は無かったと頭を叩くシヴァに、店主が苦笑を漏らす。
「それで値段ですが、生活用が大体2500から8000Gほど。戦闘用が6000から25000Gのものが、当店で扱っている商品です」
店主の説明も耳に入らず、何やら考え込んでいる様子のシヴァだったが、
「……オーダーメイドはこの店でも受け付けているのか?」
「ええ、まあ――希望する機能によって使用する魔石の大きさや素材も変わりますのが、戦闘用は最低でも30000Gはしますよ?」
その質問に生返事を返した店主だったが、シヴァの真剣な表情に気付き、改めて説明をした。
「いや、俺が欲しいのは生活用のヤツだ」
戦闘用も気になるが、WGⅢにしろEFⅩⅥにしろ、シヴァの使うキャラの能力を考えれば無用の長物にしかならないだろう。
「それでしたら20000Gからといったところでしょうか」
「それで構わない……と言いたいところだが、今は金が足りんので、いずれだな」
「そうですか。では、その内を楽しみに待っております」
肩を竦めるシヴァに、店主はまた柔和な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。使う魔石は自分で調達したら安くなるのかな?」
「ええ、もちろんです。魔石だけでなく、素材の持ち込みでも値引きさせていただきます」
シヴァの言いたい事を察した店主は、変わらぬ笑顔で答えたのだった。
「そうか、分かった」
言って、シヴァは『夢の園』を後にした。
「さて、今度は冒険者ギルドだな。確かどの通りからでも行けるんだったか」
昨夜、オルドから聞いたことを思い出すシヴァ。
オルドによると、冒険者ギルドを含む様々な業種のギルドは街の中心部に固まっているらしい。なので、どの通りからでも中心に向かっていればその内に着くという分かりやすい場所であり、通称『ギルド街』と呼ばれていると、オルドが教えてくれていた。
「路面ニアーツも乗ってみたいが、今日のところは歩いて行ってみるかな」
路面ニアーツがどのような経路で街を走っているのか分からないのだからしょうがないと、隣を走るニアーツを残念そうに眺めながら足を進めた。
「ここがギルド街、か」
大きな円形の道路を挟んだ先にある建物群を見て、シヴァが呟いた。
商業都市ディンクは、大雑把に言えば三つの円から成る街である。
中心の円の内側が行政区。
外周の円が防壁であり、二番目の円までが繁華街や商工業区、住宅街からなる一般区域。
そして、行政区と一般区域の間にある円が、ギルド街だ。
ちなみに、行政区から防壁に向かって放射線状に八本伸びているのが大通りであり、行政区とギルド街を囲む円は環状大通りである。
さて、そのギルド街だが、さきほども述べたように様々な業種のギルドから成っている。
冒険者ギルド、傭兵ギルド、オルドが所属している商業ギルド、工業ギルド、魔法ギルド、錬金ギルド、野伏ギルドに考古学ギルドなどなど、有名どころからマニアックなギルドまで存在しているが、その全てが共存体でもある。
シヴァが用があるのは冒険者ギルドだが、こうも建物が多くては探すのに一苦労かと思われた。が、その思いとは裏腹に、あっさりと見つかった。
理由は簡単。四つある大きな建物の一つがそうだっただけである。
ちなみに、他の三つは商・工業ギルドと傭兵ギルドだ。恐らくこの四つがメジャーギルドなのだろう。
高さ3メートルはある、開けっ放しの立派な門構えをした扉をくぐると、そこは大きなロビーであった。
天井は高く、床は大理石調のタイル敷き。
奥に見えるのが受付だろう。五人ほどの男女が座っており、列を成す冒険者らしき者たちの相手をしているようだが、込み合い具合の差は歴然だった。
(はやり女性の受付が人気があるんだな)
それはともかく、入り口付近に立っていても仕方ない。受付をしなくてはならないのだが、どこですれば良いのだろうか。
(やはり受付か? そうでなくとも聞けばよいか)
そうと決め、受付に向かって歩き出すシヴァ。WGⅢの装備という、この世界では見慣れぬ装備とあって、ロビーに居合わせる冒険者たちから奇異の視線を浴びるが、割と我が道を往く性格のシヴァは気にしない。
受付に向かう途中、右側から笑い声が聞こえてきたので、シヴァはその方向へと顔を向けた。
そこには楽しそうに酒や料理を食らい雑談する冒険者たちが見える。
敷居こそないものの、どうやらロビーの一角はバーになっているらしく、先ほどの笑い声はこちらから漏れてきたようだ。
(ま、クエストの後の酒なら上手いだろうしな)
そんな彼らを横目に見ながら、受付を待つ列へと並ぶ。もちろん、女性の受付がいる列であることは言うまでもない。
待つこと十分ほどで、シヴァの番がまわってきた。
「ようこそ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
シヴァが椅子に座ると同時、完璧な営業スマイルで訊ねてくる受付嬢。綺麗な顔をしているが、無駄話をさせてくれるような隙は一分もない。
いや、美人だからこそ隙がないのか。勝手な想像ではあるが、彼女たちが相手にしているのは脳みそまで筋肉な冒険者たちなのだから、隙を見せたら獲って喰われそうではある。勝手な想像だが。
ともあれ、シヴァとしても今日のところはナンパしにきたのではないので、用件を伝える。
「冒険者として登録をしたいのだが、ここで良いのだろうか? 一応、パス村の村長から紹介状も預かっているのだが」
「はい、問題ありません。紹介状を拝見できますか? ……はい、確かにパス村の印ですね」
シヴァが懐から取り出した紹介状を受け取った受付嬢は、手元の紋章見本を見ながら、押された蝋印からパス村のものと確認したのち、中を開いて書状を読んだ。
「シヴァ様、でよろしいですか? ……はい、ではシヴァ様。ユニーク二匹を含むゴブリン・ストローの集団十一匹を単独で撃破したとありますが、このことに間違いはありませんですか?」
ユニークモンスターを含むゴブリンの集団の単独撃破という言葉に、周囲がざわついた。
シヴァの名前は書状にでも書かれていたのだろう。受付嬢の質問だが間違いは何もないので、シヴァは頷いて答えた。
「ないな」
「そのさいの討伐証明などは今もお持ちでしょうか? あるのでしたら、ご提示のほどをお願いします」
受付嬢に言われるまま、ゴブリン・ストローとモブ・ゴブリンの討伐証明である右犬歯を十一本、さらに魔石を十一個をカウンターの上に出した。
それを手袋を嵌めた受付嬢が、何かの機械らしき物を手に確認していくこと数分。
「確認しました。確かにゴブリン・ストローの右犬歯と、ユニークゴブリンの魔石を二個含む魔石です――社内規則とはいえ、疑うような真似をして申し訳ありませんでした」
「いや、仕事の内だというのなら、気にしなくてもいい。こちらも気にしてはいない」
頭を下げる受付嬢に、シヴァは緩い笑みを浮かべて謝罪を受け入れた。
「ありがとうございます。討伐証明の右犬歯は使い道がございませんのでこちらで処分しますが? ……分かりました。では、魔石のほうはいかがなさいましょう?」
右犬歯の処分を頼むと、魔石をどうするかを訊ねられた。どうするか言われても、シヴァには他に卸せそうな心当たりもない。それに、受付嬢の言い方から察するに、できればギルドに売って欲しいのだろう。
「こちらで売却を頼もう」
「ありがとうございます。では、魔石の清算はシヴァ様の登録が終わった後にさせていただきます」
「頼む」
受付嬢は自身が座るカウンターの下から一枚の用紙を取り出すと、
「では、登録に辺り、私から幾つか質問するのでそれにお答えください」
シヴァが頷くと、質問が始まる。
「お名前はシヴァ様でよろしいですか? ……はい。性別は男性。年齢と出身をお教えください」
「年齢は二十五。出身は……東の果てにある国だと、両親には聞いている」
「東の果て、と申しますと、シヴァ様はこの国の方ではない?」
「ああ、小さい頃から両親に連れられ、色々な所を放浪してきたのでな。すまないが東の果てと聞かされただけで、自分の国の名前すら知らん」
これは、登録のさいに出身地を聞かれた場合を想定して、この前からシヴァが考えていたいい訳であった。下手にこの国の者だと言えば、ではどこの出身かと聞かれれば、地理などしらないシヴァに具体的な名前を挙げられるはずもなく。仮に挙げられたとしても、戸籍を持たないのであれば、いずれはバレるだろうと思ってのことだ。
「なるほど、でしたらシヴァ様のご両親は自由民だったのですね」
自由民というのがなんなのかは知らないが、恐らく国を持たぬ民のことなのだろうと、シヴァはとりあえず頷く。
「失礼ですが、シヴァ様はいつからこの国に滞在を?」
「そうだな……四日前か」
それが、シヴァが異世界で過ごした日数である。
「一月以内ですので、税金は免除ですね」
「税金?」
「はい。自由民の方はどの国でも一月以内の滞在であれば、税金は掛かりません。……あの、ご存知ありませんでしたか?」
それは言外に、自由民の両親から教わらなかったのかと聞かれていると察したシヴァは、
「あいにくと放任主義の両親でな。『知りたいことや行きたい場所は自分の力で為してこそ価値がある』と、小さい頃から教わってきたので、俺はとんと常識が抜けているらしい」
今の言葉は嘘ではない。実際にシヴァが幼い頃、父親に訊ねた時などに言われてきた言葉である。であるが、その大半は、「どうやったら子供ができるの?」「この宿題の問題、教えて」「アフリカに行ってみたい」「友達と隣の町まで遊びに行くから車で送って」など、父親が答えに困った時や面倒な時に使われてきた便利な言葉であった。
「面白いご両親ですね」
「お陰でこうして苦労している」
クスリと営業スマイルではなく自然の笑みを零す受付嬢に、こちらも父親を思い出して自然と苦笑いを浮かべるシヴァ。
「では、出身地には在籍するギルドの地名が入りますが、よろしいですか? この場合ですと、商業都市ディンクになります。……分かりました、ディンクで。では、次で最後の質問とさせていただきます」
頷くシヴァ。
「シヴァ様の得意とする武器やスキルをお教えください」
どうやらこの世界、スキルがあるらしい。どういった種類かまでは分からないが。
「得意な武器にスキル、か」
「はい。それによって、向き不向きの依頼などもありますから、当ギルドとしても把握しておきたいのです。ご了承ください」
(と、言われてもな)
シヴァは思い悩む。別に隠しておきたいから悩んでいるのではなく、得意な武器というのが、ある意味全てに当てはまるからだ。
例えば、今のWGⅢ仕様なら、全ての銃器が得意であるし、EFⅩⅥならば、全種類の武器や魔法が得意といえる。他のゲームも皆同じだ。
となれば、答えは一つだろう。
「全部、だな」
「全部ですか? えっと、すみませんが具体的には……」
「剣に始まり槍、弓、などの武器類、それに伴って、スキルや魔法も等しく扱える、という意味だ」
読んだWeb小説の幾つかでは、目立ちたくないという理由から主人公が自らの力を隠すという作品もあったが、シヴァは特に隠す理由もないので正直に答えたのだが、
「……分かりました。では全適正ということで」
受付嬢の反応から余り信用されていないようだ。
まあ仕方ないかとシヴァが思っていると、
「ガッハッハッハ! オイオイ聞いたかあ? 全適正たぁ、とんだホラ吹きが入ってきたじゃねえか!」
後ろから罵声を投げつけられた。




