正しい包丁の使い方
編みぐるみの片づけが終わると、世界がぱっと光り輝いて切り替わる。
豪華なお城、へと……。
「……褒め殺す気、なのかな」
また綺麗な世界、騙されたような気さえしてくる。
光り輝くシャンデリア、宝石のきらめき。
影……黒子の料理人たちは、大胆に巨大な料理を並べていく。
「どうぞお食べ下さい」
顔の見えない影たちは、それでも微笑む。
「うぅー、どうやって食べよう?」
大きな鶏肉の塊、それからホールケーキ丸ごと。
それから寒天を固めた、頭ほどもあるゼリー。
パンもスコーンも、ひどく大きい。
アリスの世界みたい、なんだか正常な感覚を見失ってしまいそうだ。
ある意味それは会っているのかもしれないけれど……異世界に迷い込んだ問う意味で。
まぁ、何にせよ食べるためには。
「切ればいいんじゃないかな……。包丁を出してくれれば、いいよ」
幼女の持っている包丁で、切り刻んでしまえば良い。
いや、食べられるサイズにね?
「包丁は、出すけど……。私上手く、切れないよ」
彼女は不安そうだった。
だったら、手を添えてあげよう。
ケーキ入刀、そんな言葉が思い込んで恥ずかしくなった。
それでも恥ずかしさで手が震えないように、気を付けながら。
「うぅ……」
少しずつ食べ物が減ってきたが、幼女はもう苦しそうだ。
口の周りもべたべたになってしまっている。
うーん、拭いてあげたい。
ちょうど反対側の席にティッシュペーパーが置いてある。
流石にこれは罠では無いよな……?
触った感じ、大丈夫そうだったから幼女の口を拭いてみる。
少し甘やかしすぎかもしれない、元の姿を覚えているから余計そう思うけれども。
「無理しないで、余っちゃったら僕が食べるし……。
食べきれなかったら謝ろう? ここならきっと許してくれるさ」
なんだか少し恥ずかしそうな幼女が可愛くて、自然に笑えた。
寒天ゼリーもケーキも、二人手を合わせて切った。
……ケーキ入刀が来てしまったよ、恥ずかしいにきまってるだろ!
ウェディングケーキっぽくないから、何とかなったけど。
もしも、もしもウェディングケーキを切れたら……恥ずかしい考えが浮かんだ。
「ありがとうございましたー!」
笑顔でお城の出口へ行く、ヘタレと手をつないで。
「頑張って……下さい」
見送る黒子の瞳が、残忍に光った気がした。




