どっちがいい?
気付くと、おもちゃ箱をひっくり返したような世界にいた。
幼女はふらふらと歩き出し、目の前の亀裂にはまりそうになった。
「あ、危ない」
急いで落ちないように支える。
目が合い、恥ずかしくなって、目をそらす。
幼女の目ににあったのが「信頼」だったから。
……え。
顔を挙げると、仮面の男性がいた。
「ああ、来たのか。ようこそこの世界へ」
両手を広げて静かに笑ってやがる。
何なんだ……? こいつは「誰」だ?
何となくわかる気がするのに、霧がかかったようにつかめないその正体。
ただ、分かることは一つだけ。
それは「幼女をこいつに渡してはならない」ということ。
幼女を自分の後ろに隠す。
そして口元に手を当てて、『喋らないで』と合図する。
「わかるのか、お前は自分が誰か、ここがどこか」
仄かな微笑まで浮かべて語り掛ける仮面。
その言葉で過去を、切り離したものを思い出す。
霧の中から現れたのは、幼女と僕との記憶。
――この世界で幼女に刺されたことなんて軽く飛んでしまうような、そんな記憶だ。
「全て……わかっているさ」
そう、僕は思い出してしまった。
「それを疑問に思わず従うってことは……そいつを守るためか、お前が弱いか、どちらだろうな」
守るためだ、守るために決まっているのに声が出せない。
「なぁ、チビもそう思うだろ?」
彼女は黙ってくれた。
これなら仮面と渡り合えるかもしれない。
「あの子を・・・巻き込まないでくれ」
「むしろ巻き込まれているだろ」
軽口の応酬、巻き込んだのは本当はどっちでも良い。
ただこの世界に来ただけだ。
「それよりも、お前、四つん這いになれ」
「は?!」
あれ?なんだか急におかしい方向へ。
意味が分からないままに急かされた。
「さっさとしろ!」
「痛っ!」
尻の後ろを蹴られた、普通に痛い。
「よし、動くなよ」
「へ、変なことするなよ……」
何をされるのだろうか……。
幼女だけは守りたい、あんまりひどい状況は見せたくない。
「するかボケ!」
突然上に乗られた、苦しい。
恥ずかしいことに崩れ落ちてしまった。
「・・・役立たずが」
「いや、何だったんだよ今の」
仮面は起こるというか呆れた様子で、苦々しげに言うが僕にはさっぱり事情が分からない。
仮面の男性は、クイッと首を上にあげて、『上を見ろ』のジェスチャーをする。
何があるんだろうか……?
するとそこには、壁と天井の間に隙間があった。
もしかして、出口なのか……?
「このまま3人なんて無理だな」
「決めつけなくても……」
「お前はヘタレ過ぎて使えないんだよ」
「……っ!」
踏み台になってへしゃげてしまう僕は、幼女を助けるには力不足。
その事実を目の前に見せつけられた気がした。
「チビ、お前が選べ。力もあって、ドアをこじ開けることが出来たり出来る俺様かこいつか」
仮面は自信ありげに、堂々とした様子を崩さない。
僕は、僕に出来ることは……。
「えっと……僕は何も出来ないけど、頑張って君を守るよ」
これで信じてもらえるか、僕と幼女になってしまった彼女には、旅での付き合いがあるけれど。たとえ彼女の記憶が消えていたとしても。
彼女は……
仮面を選んだ 僕を選んだ




