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さよならマーチェンナイフ  作者: 湯島結代&水鳴倫紅
ヘタレ編
20/28

どっちがいい?

気付くと、おもちゃ箱をひっくり返したような世界にいた。

幼女はふらふらと歩き出し、目の前の亀裂にはまりそうになった。

「あ、危ない」

急いで落ちないように支える。


目が合い、恥ずかしくなって、目をそらす。

幼女の目ににあったのが「信頼」だったから。


……え。

顔を挙げると、仮面の男性がいた。

「ああ、来たのか。ようこそこの世界へ」

両手を広げて静かに笑ってやがる。


何なんだ……? こいつは「誰」だ?

何となくわかる気がするのに、霧がかかったようにつかめないその正体。

ただ、分かることは一つだけ。

それは「幼女をこいつに渡してはならない」ということ。


幼女を自分の後ろに隠す。

そして口元に手を当てて、『喋らないで』と合図する。


「わかるのか、お前は自分が誰か、ここがどこか」

仄かな微笑まで浮かべて語り掛ける仮面。

その言葉で過去を、切り離したものを思い出す。

霧の中から現れたのは、幼女と僕との記憶。

――この世界で幼女に刺されたことなんて軽く飛んでしまうような、そんな記憶だ。


「全て……わかっているさ」

そう、僕は思い出してしまった。

「それを疑問に思わず従うってことは……そいつを守るためか、お前が弱いか、どちらだろうな」

守るためだ、守るために決まっているのに声が出せない。


「なぁ、チビもそう思うだろ?」

彼女は黙ってくれた。

これなら仮面と渡り合えるかもしれない。

「あの子を・・・巻き込まないでくれ」

「むしろ巻き込まれているだろ」

軽口の応酬、巻き込んだのは本当はどっちでも良い。

ただこの世界に来ただけだ。


「それよりも、お前、四つん這いになれ」

「は?!」

あれ?なんだか急におかしい方向へ。

意味が分からないままに急かされた。

「さっさとしろ!」

「痛っ!」

尻の後ろを蹴られた、普通に痛い。

「よし、動くなよ」

「へ、変なことするなよ……」

何をされるのだろうか……。

幼女だけは守りたい、あんまりひどい状況は見せたくない。

「するかボケ!」

突然上に乗られた、苦しい。

恥ずかしいことに崩れ落ちてしまった。


「・・・役立たずが」

「いや、何だったんだよ今の」

仮面は起こるというか呆れた様子で、苦々しげに言うが僕にはさっぱり事情が分からない。

仮面の男性は、クイッと首を上にあげて、『上を見ろ』のジェスチャーをする。

何があるんだろうか……?


するとそこには、壁と天井の間に隙間があった。

もしかして、出口なのか……?

「このまま3人なんて無理だな」

「決めつけなくても……」

「お前はヘタレ過ぎて使えないんだよ」

「……っ!」

踏み台になってへしゃげてしまう僕は、幼女を助けるには力不足。

その事実を目の前に見せつけられた気がした。


「チビ、お前が選べ。力もあって、ドアをこじ開けることが出来たり出来る俺様かこいつか」

仮面は自信ありげに、堂々とした様子を崩さない。

僕は、僕に出来ることは……。

「えっと……僕は何も出来ないけど、頑張って君を守るよ」

これで信じてもらえるか、僕と幼女になってしまった彼女には、旅での付き合いがあるけれど。たとえ彼女の記憶が消えていたとしても。


彼女は……

仮面を選んだ 僕を選んだ

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