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さよならマーチェンナイフ  作者: 湯島結代&水鳴倫紅
幼女編
10/28

ひと時の夢

蜘蛛男がいた部屋から、次の部屋へ。

その部屋は、とても暗かった。

でも、恐る恐る、包丁を振り回しながら、奥に進むと、ゆらゆら動くカーテンがあった。

「?」

なんだろう?と、考えていると、フッと誰かの影が映った。

ピアノを弾きながら歌っている、女性の声?

「・・・綺麗な歌声」

子守唄にも聞こえるその歌は、別に聞いたら死ぬとか、危ないものでもないようで。

でも、なんだか怖くて、薄気味悪くて・・・。

「ちゃんと姿を見せなさい!」

カーテンをジャーっと切り裂いた。

「・・・あれ?」

けれども、女性の姿はなくて、それでも歌声は聞こえる。

バラバラになったカーテンは、もうただの布。そんな布をヒョイっと拾い上げて、首をかしげた。

終わらない、止まらない。

次第に、眠くなってきた。眠た目をこすっても、睡魔は襲い続ける。

「・・・うー」

ヘタリと、床に座り込む。

そのまま、夢の世界へ。






その映像は、まるで泉に写る映像のようだった。

女性が、包丁を持っている。

「・・・気持ち悪い」

そう呟いて、お腹めがけて包丁を振り下ろす。

「ダメ!」

どこからともなく現れた男性は、女性のお腹をかばうようにして、女性を抱きしめた。

「離して!」

構わず、包丁を振り下ろす。

それは、男性の腕に刺さり、男性は痛そうな声を上げた。

「気持ち悪いのがいるの!私の中に!何か!気持ち悪いものがっ!動いてて!嫌なの!!」

言葉の区切り区切り事に、男性の腕に包丁を突き刺す女性。

腕が血まみれになっても、男性はその手を離さず、ただただ女性の全てを受け止めているようだ。



あ、映像が変わった。

男性は腕に包帯を巻いて、怪我の手当を自分でしているようだ。その左肩に頭を乗せる、さっきの女性。

「ねぇ・・・×××」

名前を呼んでいても、私には聞こえない。

「ん?」

「私って、おかしいのかな?」

「・・・みんな、君のことを知らないだけさ」

包帯を巻いた腕で、優しく頭を撫でる男性。

「そう?」

「例えばさ、ひとつのあんぱんがあるとして、外側からじゃ、それが粒あんかこしあんかわからないでしょ?つまりはそういうこと」

「私、こしあんが好き!」

「え?あ、僕は粒あんかな」

「えー!」

ムーと、ふてくされる女性。

あ、どうやら、男性の包帯を巻く作業が、終わったみたい。

「ねぇ、施設を出たら、パン食べに行かない?最近、美味しいと評判の、パン屋さんを見つけたんだ」

「それって・・・デート?」

「あ、いや・・・ただの買い物、だよ」

「そっか、それなら行く!」

「うん、約束、ね」

「うん!」

2人は、指切りをする。

そこで映像は終わった・・・。



「・・・・ん?」

体を揺さぶられる感覚、目を覚ますと、ヘタレが目の前にいた。

「うわっ!」

急なことで驚いたんだもん。だから、飛び上がった。

でも彼は、なんだかショボンとしてる。

「・・・ごめん」

「え?」

「ごめんって、言ってるの」

「あ、いや、大丈夫だよ」

「・・・」

なんだか、懐かしい匂いがする。

ポスン、と、彼に体を預ける。

「だ、大丈夫?」

「・・・うー」

抱きついて、少し泣く。

彼は黙って、抱きしめてくれた。、優しくもあり、懐かしい。

そしてそのまま、少し眠ってしまったようだ。でも、夢はもう見なかった。

目を覚ますと、彼は笑ってそばにいた。

「あなたは、寝なくていいの?」

「大丈夫だよ」

また、撫でられた。恥ずかしくて、照れくさくて、私は。

「ばーか」

「ご、ごめん・・・」

何も変わらない、いつもどおりだ。

私は、フッと笑って、彼の手をつないだ。

「行こっ!」

「あ、うん」

2人で手をつないで、見つめ合って、笑いあった。

そして、目の前のドアを、2人であけた。


10話目担当&10話目サブタイトル担当 楓

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