4.日比谷 悠真
結局、遊ぶのは来週ということになり、週明け、バス停に着くと、ゆいはいつもと変わらずに立っていた。
ゆいの栗色の髪が風と遊んでいる。ゆいは、髪を少し鬱陶しそうにしていて、手で何回も払っている。俺の視線に気づいたのか、「柊翔~!おはよう!」と言ってきた。毎回、この大きい声で挨拶してくるゆいに、恥ずかしさはないのか、と聞きたくなるが、今日は少し気が軽くなる思いだった。
学校に着くと、夏見休み前のテストが終わったことで皆、お祭りムードに入っていた。
「柊翔、なんか皆テンション高くない?」
「まあ、他に楽しみなことがあるんだろ。」
ゆいは「楽しみなこと?」と言い、首を傾げている。ゆいは転校生なのだから知らないのも無理はない。
俺は「多分、先生から、何かしらの連絡があると思うよ。」と言った。ゆいが何か言いかけたところで教室に先生が入ってきた。
「ほら~、席座れ~」
クラス全員が慌ただしく席に着く。全員が席に着いたことを確認して、先生が口を開く。
「今から夏休み前に行う合宿について説明するぞ~。」
先生の言葉に教室中が湧き上がる。隣にいるゆいを見ると、皆が騒いでいることと『合宿』という単語に驚いて、口が間抜けにもぽかんと開いている。
「まず、合宿の目的は生徒の学力向上を目的として、昨年から同様の3泊4日で行うぞ~。日にちはプリントに書いてある通り…」
「ヤマセン~俺らまだプリントもらってないんだけど~!」
今、発言したのは、このクラスの中心人物である日比谷悠真だ。ヤマセンとは、先生の名前である山田隼太の山と先生の先で略した呼び名である。このあだ名で一部の男女はそう呼んでいる。先生は大きな声で「えっ⁈」と驚き、続けて、「ごめんな!」と言いながら合宿について書かれたプリントを配り出した。
プリントが行きわたったことを確認して、先生は咳を一つし、気を取り直して話始める。
「え~、プリントを見た通り、日にちは7月19日から7月22日で、合宿前の7月16日は事前説明と学校側の諸々の確認のため、生徒は午前中に下校となる。今日、この時間で決めるのは、合宿中の部屋割りとバスの座席…まあ、各々で決めてくれ~」
「ヤマセーン、それ職務放棄じゃね?」
悠真の発言に先生は「じゃあ、俺の偏見と気分で決めて良いのか~?」と言うと、クラスの女子や男子がダメダメと勢いよく首を横に振りながら騒ぎ出した。
各自が席を立って仲が良い人と話している。俺もゆいに話しかけようと横を向こうとしたとき、ゆいが勢いよく、「柊翔!えっ、凄いね!合宿があるなんて!私、柊翔と隣の席が良い!」と一息で話しかけてきた。俺はそれに圧倒されて目を何回も開けたり閉じたりした。一呼吸して、「ゆい、落ち着いて」と言う。ゆいは自分が勢いよく立ち上がっていることにやっと気づいて、少し恥ずかしそうに、ゆっくりと座る。ゆいが落ち着いたことを確認して、俺はこう続けた。
「そうだな、俺もゆいが隣だったら話しやすいかも。」
ゆいはそれを聞いて嬉しそうに「じゃあ、バスは私と隣ね!」と言った。
その後、ゆいは「私、一緒の部屋になりたい子がいるから、ちょっと行ってくるねー。」と言って、すたこらと、お目当ての子の所へ行ってしまった。俺は一人、席に残され、部屋割りをどうしようかと考えていた。だが、考えていても、行動しないことには何も起こらないと思いたった俺は、席を立ち、歩き出そうと足を前に出すと、後ろから「おい、ちょっと良いか?」と声を掛けられた。
その声の方向に目を向けると、日比谷悠真が腕を組んで立っていた。
「柊翔ってさ、朝比奈さんと仲いいよな。」
朝比奈は唯香の苗字だ。日比谷が俺に話しかけてきたことは今回が初めてだ。しかも、第一声がゆいと俺の関係を聞くなんて、と少し不信感を抱きながら、「…仲は良いと思う。」と短く言った。日比谷は俺が不信感を抱いて警戒していることに気づいたのか、「あ!ごめん、最初にこんなこと聞かれるなんて、嫌だよな!」と言った。
日比谷が勢いよく謝ってきたことに思わず拍子抜けしながら、「まあ、良い気分ではなかったけど、そう言ってくれるなら…うん、大丈夫。」と告げた。日比谷は安堵し、気を取り直して再び口を開いた。
「えっと、改めて俺が柊翔に話しかけたのは他でもない朝比奈さんのことだ!」
「うん、それは第一声聞いたからわかってる。で、俺に何の用?」
少し、尖った口調になってしまった。俺の悪い癖だ。小学生の頃は誰とでも話せていたのに、中学に上がってからは初対面の人と喋るとこうなってしまう。少し反省して、日比谷の方を見ると、そんなことを気にも留めないで、「それは~」と少し照れながら話し出している。自分が予想していた反応とは全く違っている日比谷を見て、俺とは正反対な性格なんだなと少し羨ましく思った。
「俺さ、実は朝比奈さんのこと気になってて…でも話しかけて、もし変な態度とっちゃったらヤバイじゃん?そうこうしてるうちにさ、もう夏休み前になって、会える機会も減るし、いい加減、話さないと!って思うんだよ!」
話が長いな、と思いながら「そうだな。」と相槌を打つ。
「今回の合宿で絶対、接点を作りたくて…」
「要は、俺を利用したいんだよな?」
日比谷は目を見開いた。自分から話に行けない時点でこいつの恋は叶わないんじゃないか?良い奴なんだろうけど、俺にそこまでする意味は無いな。断ろうと再び口を開こうとすると、日比谷は「いや!そんなわけないだろ!」と言い出した。俺の頭にはてなマークが浮かぶ。
「利用ってさ、その時だけ仲良くするってことだろ?そうじゃなくて、俺は普通に柊翔とも仲良くなりたいんだよ!仲良くなって、普通に朝比奈さんとも仲良くなって…」
こいつ、ゆいと付き合いたいんじゃないのか?
「…普通って、それ友達になるってこと?付き合いたいんじゃないの?」
「そりゃ、付き合ってみたいけど、欲を丸出しにして近づくなんて、普通に怖いだろ?それに、まずは友達から始めて、朝比奈さんの好きな食べ物とか趣味を知りたい!」
ゆいは小学校の頃から、まわりの男子の視線を集めていた。だが、ゆいを好きになる奴らは大抵、外見だけを見て好きだとか、付き合いたいだとか言っていた。だが、日比谷はゆいの外見だけでなく、中身も見ようとしていることに気づく。最初に話していた時も、『好き』ではなく、『気になっている』だった。そう思うと、少し日比谷の気持ちを応援したいと思ってしまった。
「だからさ、今回の合宿の部屋割り、俺も柊翔のところに入れてくれない?」
両手をパン!と勢いよく顔の前で合わせ、お願いされる。
「入れるも何も、俺もどっかに入れてもらおうと思ってたし、別に良いよ。」
日比谷は目を見開いて、「まじ?やったー!」と嬉しそうに言う。日比谷は感情が顔に出やすいのか、ゆいのようにわかりやすい。思わず少し笑うと、日比谷は「あ!今、笑ったな!」とすかさず突っ込んでくる。本当にそういうリアクションがゆいと似ていて、また笑ってしまう。日比谷は俺が笑っていることが嬉しいのか、にやにやしながらいじってくる。その行動に俺はツボってしまい、「ふっ、ふふ」と声を我慢しながら、沢山笑っていた。
「柊翔~!凄い笑ってるけどどうしたの?」
お目当ての女子と話し終わったらしいゆいが席に戻ってきた。
「柊翔が私以外の友達と話してるなんて珍しいね。…えっと、日比谷悠真くんだっけ?」
ゆいが戻ってきてやっと笑いが収まってきた。ふぅと一呼吸して日比谷のほうを見ると、ゆいが自分の名前を呼んだからか、はたまた、ゆいが近くに来たからか、固まっている。ゆいもなんで何も言わないんだろう、と少し違和感を感じているようだ。やれやれと思いながら、日比谷の左腕に肘でつつき、小声で「このままだと、不審がられるぞ。」と一つ忠告してやる。日比谷はハッと我に返ると深呼吸して話し始めた。
「ああ。俺は日比谷悠真で合ってる…。柊翔が笑ってたのは俺もよくわかんないけど、こいつがこんな笑ってるとこ初めて見たから、ちょっといじりたくなっちゃって。」
日比谷は最初こそ緊張していたが、話を始めると俺と話しているときと同じようにすらすらと言葉が口から出ていて楽しそうに話している。
「そうなんだ!…確かに、柊翔がここまで笑ってたのは、久しぶりに見たな~。ねっ、何で、何で?」
ゆいが、にんまりとしながら質問してくる。それに乗っかるように、日比谷も「それ、俺も気になる!」と食いついてくる。二人が前のめりになって聞いてくる様子がおかしくて、再び笑い出してしまう。「「あ~、また笑った~!」」と二人の声が重なって、ツボに入りそうになる。笑いを堪えながら、「ふっ…それだよ、二人がすごい似てて…」と言うと、二人は「そうかな?」、「え、どうなんだろう?」と話していて、その間に胸に手を当て、息をつく。
「俺が日比谷と話してた時、日比谷は感情が顔に出やすいのか、ゆいが百面相してる時とよく似てたり、いじり方とかタイミングとか重なるとこが多くて、それがおかしくて笑っただけ。」
ゆいと日比谷は俺の顔からお互いの顔を見て「柊翔が言うならそうなんだね~。」「そうだったのか…!」と言っている。俺が日比谷にすぐに心を許しそうになったのは、ゆいと似ていて、話しやすく、本音が分かりやすいからなんだなと一人で納得した。そういえば、こんなにも笑ったのはいつぶりだろう。日比谷もゆいも楽しそうに笑っていて、こんな穏やかな時間がずっと、続けばいいのに、俺はそう思った。
ありがとうございました!
今回では、日比谷悠真という、新たなキャラクターが加わりました!(≧▽≦)
日比谷はシンプルに良い奴なので、書いているときも、「良い子やなぁ」と思いながら、書いている次第です(笑)
次回は、もうちょっと、三人の距離が縮まるお話になります!
ぜひ、ご覧ください!




