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第17話 「――だが、君の場合は違う」



 私が説明し終えると、舘林は突然、森中に響くような高笑いを上げた。


「ハーハハハハッ!!」


 笑われたことに、私は困惑と怒りで顔が真っ赤になる。


「な、何が可笑しい!?」

「いや失敬……だが君がそこまで複雑なことを考えていたわりに、こんな短絡的な行動を取ろうとしていたのが、あまりにも可笑しくてね」

「だからって、ホントに“可笑しい理由”を答えなくていいっての!!」


 今更ながら、正直に話したことを後悔する。

 私は舘林を睨みつけた。


「私だって、自分のしたことにびっくりしてるんだっ……こんな行動力ある人間でもなかったのにさ……」


 恥ずかしさと苛立ちで、顔がどんどん熱くなっていく。

 すると彼は急に、今度は穏やかに微笑んだ。


「なあに。“いきなり・唐突・突拍子もない”という僕のチャームポイントに、君も魅了されたということだろう。気に病むことじゃない。むしろ誇りに思いたまえ」


 それこそ最悪なんだけど。

 私は嫌悪を隠さず顔を顰めるが、舘林は気にする様子もなく続けた。


「……確かに、あの家で僕が養っていた者たちが、開花することなく去ってしまったのは事実だ。だが、それは彼らが己の価値を見定めた上での決断であり、その意思に僕が口出しするつもりは毛頭ない」


 おもむろに歩き出した舘林は、私の前で屈み込む。


「――だが、君の場合は違う」


 彼はコートの胸ポケットから小箱を取り出した。

 静かに開けられた細長い箱の中には、ペンダントが収まっていた。


「え……何、それ」


 トップの宝石は、紅とピンクが斑に混ざった透明の石で、見たことのないものだった。

 宝石特有の派手さはないが、どこか温かみのある、優しい輝きを放っている。


「これはピンクエピドートと言ってね。この石単体の価値は、三万円にも満たない代物だ」

「エピドートって……え? その緑の石と同じ?」

「ああ。外見は違うが、同じ種類の鉱石さ」


 片方はいかにも“緑色の石”だというのに、もう片方は“可愛らしく光る宝石”だ。

 原石は磨けば光るとは聞いていたが、ここまで違ってくるものなのかと、思わず見入ってしまう。


「何万()する石だろうと、何万()()価値のない装飾品だろうと、僕にとってはどちらも価値ある品だよ」


 舘林はゆっくりと、二つの鉱石を私の前に差し出した。


「君もこれらと一緒さ。例えクソつまらない小説を書き続けようとも」

「おい」

「……周囲がそれ以上に君を否定することがあろうとも。君を見つけ、それを気に入って買っているのは、この僕だ。だから君の価値は僕が決める。誰にも文句は言わせない」


 いつになく穏やかな微笑み。


 私の顔が、全身が、急激に熱を帯びていく。

 破壊力のある微笑を至近距離で見せられた私は、慌てて視線を逸らした。


 ……危なかった。

 こんな状況じゃなかったら、流石に私も()()()しまっていたかもしれない。


「……それ、ただの“暴君”発言だからな」


 火照りを誤魔化すように私は悪態をつく。

 だが舘林は気にした様子もなく、苦笑混じりに言った。


「さて。小日向くんへの説明は、明日僕からしておくとして」

「だから、私が直接言わないと意味ないって言ってるだろ」

「……では僕も同行するとして。今日は一旦、家に戻るとしようじゃないか」


 そう言って彼は立ち上がり、私に手を差し出した。

 どうしても私と帰りたいらしいが――本当は、怖いから一緒に帰りたいだけなのだろう。


 ……ホント、これくらい分かりやすい方が可愛げがあるんだが。


 私は苦笑しながら、その手を掴もうとした。

 次の瞬間。


「いっ、たあっ!!」


 足首に鋭い痛みが走った。


「見せたまえ」


 すぐに舘林が屈み、足首に触れる。

 一緒になって見てみるが、どうやら軽く捻っただけのようだ。


「ねんざだね。歩けないことはないだろうが……」

「歩く! 這ってでも歩くから救急車は呼ばないで!」

「呼ぶわけないだろう。救急隊も君のねんざに付き合うほど暇じゃないんだよ」


 いつもの調子に戻ると直ぐ嫌味(これ)だ。

 なんて思いつつ、私が眉を顰めていると、舘林は私へ背を向けて屈んだ。


「いや、待て。それって……」


「どう見ても“おんぶ”じゃないか。この方が早く帰れるからね。まあ、この僕がおぶってあげると言っているんだ、ありがたく受けたまえ」


 おんぶなんて四歳で卒業している私にとっては、恥ずかしいことこの上ない行為。屈辱と言ってもいい。

 全身が熱を持ちすぎて、倒れてしまいそうだ。


「ヤダって……私、結構重いから……」

「なあに問題ない。見ての通り日頃から鍛えているからね。君くらいならば余裕さ」


 少しばかり見せる優しさが返って迷惑だ。と言うのは流石に言い過ぎか。

 戸惑う私を他所に、舘林は強引に腕を引っ張り、そのまま勢いよく担ぎ上げた。 


「……お、重くない?」

「君の標準体重よりはやや重く感じるようだが、想定内だよ。安心して担がれていたまえ」


 ……本当にコイツは。

 これが弟だったら、迷わず殴っていたところだろう。

 

 それでも、されたのが“お姫様抱っこ”ではなかっただけ、まだマシか。


 私は舘林に担がれながら、冷静にそんなことを考えていた。




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