⑦ 時の流れは残酷
「そうだ。面白いものをお見せしましょう。」
また良からぬことを企んだ顔をして、サン・ジェルマンは次の目的地を入力した。
京子がチラ見すると、1503年4月15日の14時。北緯45度85分、東経9度23分となっていた。
またも窓の外の風景が流れて滲む。
今度は割とすぐに到着した。
窓の外は相変わらず郊外の…いやむしろ山麓に近い田舎の風景になっていた。
京子とサン・ジェルマンが車外に出る。
クルマは相変わらず、二頭立ての馬車に見える。
ご丁寧にフェイクの御者まで乗っているのだった。
すぐそこにイーゼルを立てて、小さめの板に絵を描いている老人が居た。
見たところ、目の前の風景を描いているようだった。
京子は邪魔にならないよう静かに後ろから近づいた。
近くで見ると、その人物は老人と言うには、少しばかり若いかもしれないと思えた。たくわえた豊かな髭のせいで、年寄りに見えたのだった。
絵の方はもう人物が描かれていて、緑系統の色を使って、その背景を描きかけているところだった。
「こんにちは。」
京子は後ろから、邪魔しないようになるべく静かに声をかけた。
その人物は一瞬ビクッとなり、次にゆっくりと振り返った。
そして京子たちを見て、少し涙ぐんで微笑み、こう言ったのだった。
「ああ、やっと来てくれた。」
それは、50歳を過ぎてすっかり老いぼれてしまったレオナルド少年だった。
「あれからずっと待っていたのですよ。それにしても、あなたたちは、全然歳をとらないのですね。神か悪魔と契約したのか…どちらにせよ羨ましいことだ。」
そう言う彼に対して、何だか申し訳ない気分になる京子だった。
「ほら、見てください。あの時スケッチだけで終わってしまった貴女の絵を、今まさに仕上げている最中なのですよ。」
彼のその発言は、京子にとって衝撃的なものだった。
何故なら、彼が今描いているその小さな板の絵は、世界中の誰もが知るあの有名な絵だったからだ。
それは❝モナ・リザ❞だった。
「えっ!この絵のモデルは私だったってこと!?」
京子は思わず叫んでしまった。
イタリア人でもなく、フランス人でもない。
どこか東洋系のその顔。
確かにそれは自分に似ていた。
すぐ後ろで、サン・ジェルマンがニヤニヤ笑っているのが、見なくても分かった。
まんまとやられたわ。
宇宙広しと言えど、自分のパートナーをモナ・リザのモデルにするなんてこと、サン・ジェルマン以外にできる気がしなかった。
京子はいよいよ彼に、格の違いを見せつけられた感じがしたのだった。




