⑧ 彼の観察眼
「せっかくですから、もっとよく顔を見せてください。」
レオナルドから言われるままに、京子は彼に近づく。
「……ああ、やっぱりそうだ。貴女は少しも歳をとっていない。何故かな?貴女は天使なのか妖精なのか…それとも何か時間を 超越するチカラを持っているのかな?」
さすがは万能の天才だ。
もう異変の核心に近づきつつあった。
京子は、いいの?という顔をしてサン・ジェルマンを振り返るが、彼はニコニコしながら黙って微笑んでいる。
「それに、あの空飛ぶ馬車も不思議だ……全然空を飛ぶ形を成していないのに、あんなに自由に飛べるなんて。」
そして彼はチラリとサン・ジェルマンの方を見た。
「ああ、そうか。キミが彼女を導いていたのか。なるほどね……。」
彼は一度目を細め、次に眼光を鋭くして言った。
「キミは、あのサン・ジェルマン伯爵だね?」
「ご明察。さすがです。」
サン・ジェルマンは、何も隠す気が無いようにそれに答え、その場で軽く会釈した。
「少し前にフランスの宮殿でキミの肖像画を見たよ。何となく気になる顔だったので、当時の妃、名は何と言ったかな?まあ、いい。その女性に誰の肖像か尋ねたのだよ。すると色々な不思議な話を聞かされた。」
「……そうですか。それは光栄なことです。」
「キミは時間の中を、自由自在に旅することができるそうじゃないか。」
「はい。その通りです。私は貴殿よりも少々未来から、ここへやって来ているので、そのような道具を持っているのです。」
「なるほど。その道具をぜひ見せて欲しいところだが……やめておこう。死ぬまでにいつか、自分で考案した方が楽しそうだ。」
彼はそう言うと、薄く笑ったようだった。
「賢明なご判断をしていただけて助かります。こちらのルールといたしましても、あまり多くのことを教えて差し上げられないので……大変心苦しく、申し訳ないことです。」
サン・ジェルマンは、❝万能の天才❞の好奇心と自制心に敬意を表し、最上級の形で返答した。
「同じ理由で、キミの姿が若い頃の私の父にそっくりな理由も、訊いてはいけないのだね?」
「正に、その通りです。私が貴殿の父君とは別人であることだけは、明言しておきますが……。」
「……よかろう。今となっては、大した問題でもないことだ。」
彼は少しだけ寂しげな顔をした。
そしてもう一度京子の方に向き直り、彼女に語りかけた。
「彼が貴女のパートナーというわけだ。それなら安心かな。」
「さあ、どうでしょう。まだこれから見極めるところですが。」
「うん、うん、いい心がけだ。何事もまずよく観察する。それが肝要だ。」
レオナルド本人から笑顔でそう言われると、何だかとても嬉しくなる京子であった。




