⑥ 彼の釈明
京子が慌てて窓の外を眺めると、地上ではレオナルド少年が、口をアングリと開けて空を見上げていた。
「えっ、いいの?ホントに?」
彼女は再度サン・ジェルマンに確認するが、彼は落ち着きはらっている。
「彼の今日の体験が、いずれ飛行機を考えるきっかけになるのです。それが史実なのです。」
京子は、何だか騙されたような気分だった。
やがて気を取り直した彼女は、改めて彼に尋ねた。
「ところでサン・ジェルマンさん⋯。」
「何ですか?」
「先程の少年との会話中に、一部聞き捨てならないセリフがあったような⋯。」
「はて、何のことですかな?」
「彼はなぜ、一瞬貴方を、自分の父親と見間違えたのかしら?」
「幼い子どもには、よくあることでは?」
サン・ジェルマンはしらばっくれる。
「だって、彼はあのレオナルドですよ?観察眼に関しては神がかったものがある人物です。彼に限って、うっかり見間違えるなんてあり得ません。」
「仕方ないですね。少しややこしい話なんですが、説明します。」
サン・ジェルマンは観念したようだ。
「彼の父親は、私の同位体なのです。」
「えぇ!?」
「別時間軸の私が、コチラの5、6年前にやって来て、レオナルドの母親と仲良くなってしまったのです。」
「そんな⋯。」
「そしてあろうことか、彼女に子どもを産ませてしまったのです。」
「いいんですか!?」
「⋯もちろん、良くないことですよ。」
「⋯。」
「でも、出来てしまったものは仕方が無い。だから時々私も、彼のことを気に掛けてはいるのです。」
「つまり、彼の父親が貴方の遠い親戚という話も、あながちウソでは無いのね?」
「そういうことです。そして付け加えるならば、私の同位体の血を引いているが故に、彼は万能の天才に成長するわけです。」
この期に及んで、シレッと自慢をぶっこんでくる彼に、京子はいよいよ呆れてしまったのだった。
「もう一度確認するけど、ヤラカシたのは、貴方じゃないのね?」
「はい。私じゃありません。他の時間軸への介入は、私のポリシーに反しますから。」
いや、貴方もたいがいだけど。
京子はそう思ったが黙っていた。
「さて、次の目的地はどこにしましょうかねえ?」
読心術に長ける彼は、バツが悪そうに話を変えた。
まあ、目の前の彼を責めても仕方ないか。
京子はとりあえず、サン・ジェルマンを信じることにしたのだった。




