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セーラー服と雪女Ⅹ 「雪女の婚前旅行」  作者: サナダムシオ


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4/10

④ 万能の天才

 少年は一心に目の前の虫の動きを見ていた。

 かと思うと、そよぐ風に揺れる草花を注視したり、木々の間から降って来る枯葉の動きを見つめたりしていた。

 その一つ一つの視線には、鬼気迫るような集中力が込められていた。


 そして近づいてくる京子に対して、始めにチラリと目を向け、次にしっかり顔を向けて凝視した。

 中世のイタリアの田舎に住む彼にとって、黄色いワンピースの上からコートを羽織った東洋人の女性は、さぞや珍しい姿だったのだろう。


※ 注意


 以下の会話は全てイタリア語で行われています。

 しかし、物語の進行上、日本語で書かれています。


「こんにちは。お姐さん。」

 健気にも彼は、まず自分から京子に挨拶をした。

 私のことを❝おばさん❞と言わなかったから、合格よ。

 勝手ながら、京子はそう認定した。


「こんにちは。初めまして。私は京子です。あなたのお名前は?」

「僕はレオナルド。ここでお父さんがやって来るのを、待っているんだ。」

「そうなのね。ところで、さっきから何を見ていたの?」

「この世の全て。僕は僕の世界の全部のことを知りたいんだ。そしていつか僕の想像することを、全てやってみたいんだ。」

「そう。それは素敵な野望ね。」

 まるでどこかの❝永遠の17歳❞が言っていたようなセリフだな、と京子は思った。


「お姐さんは、ここで何をしているの?ここは外国の人なんか滅多にやってこ来ない田舎だよ?」

「そうなんだ。今私は旅行中で、とても遠くからやって来たのよ。ねえ、ここは何という村なの?」

「ヴィンチ村だよ。やっぱり大した観光地も無いし、あんまり外国じゃ知られて無いよね?」

「!?」


 京子は驚いた。

 サン・ジェルマンがわざわざ接触させたということは、間違いない。

 この少年はレオナルド・ダ・ヴィンチだ。

 後の世で❝万能の天才❞と呼ばれる、正にその人だった。


「ねえ、お姐さん。」

「何かしら?」

「お姐さんはキレイな顔をしているね。僕はお姐さんの絵を描いてみたいな。」

 今すぐにでも飛びつきたくなるような、何とも光栄な話である。


「…でも、今日はダメだな。また今度ね。」

 あらあら、乙女心をくすぐるのが上手なこと。

「もうすぐお父さんが帰って来るんだ。お父さんはウチに時々しか帰って来ない。だから、都会の珍しい話が聞ける今日みたいな日は、とても貴重なんだ。」


 5歳にしては語彙が豊富だ。

 さすがは天才の片鱗、と言ったところかしら。

 京子は勝手に少年を値踏みした。


「…まあ、でも、近いうちに私なんかが足元にも及ばない、凄い天才ぶりを発揮するのよね。」

 京子はつい、口に出して言ってしまった。

 レオナルドはそんな京子を、不思議そうに眺めていたのだった。


挿絵(By みてみん)

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