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8話 自責の念

 「で?私を殺しかけた落とし前はどうつけてくれるんだ?」

 神崎の必死の回復(ヒール)により意識を取り戻した井上が言う。

 「ススス、スミマセンでした!!!」

 縄で縛られたアシラが助命懇願する。

 「でも、なんでこの階にある校長室に縄なんてあったのでしょう?」

 …もう犯罪臭しかしない。

 「まあ、校長先生の趣味なんてものはどうでもいい」

 おい、校長先生を変態扱いすんな。

 校長先生は誠実な方だぞ。多分。

 「お前らの顔が原型を留めなくなるまで殴ってやる刑に処する」

 「ひぃー。ご勘弁を」

 「なら私のクラスメートのスライムに服を溶かされる刑」

 おい、モブAくんを変態扱いすんな。

 「いや、オーク以上の獣欲を持ち、真希曰く中学生時代、『下着ウオッチャー』という二つ名を保持していたこの片野で…」

 おい、俺を変態扱いすんな。

 あれ、こいつ今始めて俺の名(姓だけど)呼んだぞ。

 いつも根暗野郎とか言ってた癖に。

 まあ、俺を舐め腐った態度はほぼほぼ変わらないが。

 「まあまあ、沙也加落ち着いて」


 神崎が宥め、この場は一応収まったのだが…


 「さあ、お前らが何故ここを襲撃しに来たか吐いてもらおう」 

 悪役感満載の井上に、アシラは不敵に笑いかけ、 

 「私達がダンジョンに来た理由。それは……そこにダンジョンがあったからだ!」

 「ス ラ イ 厶 呼 ん で こ い」

 「沙也加落ち着いてー」

 と、井上が本気でロブAくんのいる第一階層に駆け出そうとしたり…

 

 「で? 何なんだ理由は」

 「教えられない。たとえ我が魂が朽ちようとしても」

 「よし、片野。『下着ウオッチャー』の実力を見せてやれ」

 何か俺を変態扱いしたり…


 「で、早く言わないと…」

 「私には帰りを待っている彼氏が…」

 「知るか。リア充乙だわ。死ね。別に僻んでるわけじゃないからな。そう」

 男嫌いの井上が意外なリア充への嫉妬を見せたりした。



 「まあ、別に報告によると死人は出ていないらしいですし」

 どうやら皆上手く逃げたらしい。

 井上は安心したように息を吐くと…

 「仕方ない。ホントは落とし前をつけたかったが桜の顔に面じ」

 刹那、1本の何かが神崎の身体を貫いた。

 「なあっ!?」

 俺達は驚愕の表情を隠しきれない。

 目の前にいたのは、2人の人間ではなく―――

 

 ―――1人と1体の得体のしれない何かだった。




◇

 



 センド。奴のユニークスキル『身体組織改変』は、自分の身体組織を組み換え、改変し、人間ではない別の存在になる厄介なスキルだったわけだ。

 畜生。相手の戦力を見誤った結果か。不甲斐ない。

 「ーーーーーーーーッ!!!」

 声帯まで上手く改変できないため声が出ないのだろう。触手をうねらせて言う。

 別に声を出せない俺と変な同情感を持ったわけではない。

 ただ、怒り、その一言に尽きる。

 殺しにかかってきた相手を広い心で許そうとした矢先のこれである。

 俺は奴らを許さない。たとえ向こうにどんな野望があったとしても。


 「死ね、死ね、死ね、死ねえ!!」

 「片野。何をするのですか」

 俺はこの間真希にもらった聖剣を持つと、敵を罵倒し、近づく。

 「ふん。負け犬はそこで吠えてなさい。さあ、センド。殺しなさ」

 「死ねえーーーー」

 大声でその声をかき消すと、聖剣を放り捨てる。

 「なあっ!?」

 まさか聖剣を捨てるとは思っていなかったのだろう。驚愕するアシラ。

 「『汝、輪廻の輪に入る資格なし』」

 「マズイ、禁呪よ、センド、逃げるよ」

 そんな制止も聞かず、センドは触手を俺に向けるが―――

 

 ―――その触手は一瞬にして溶かされた。

 「ーーーーーーーっ!?」

 あわてふためくセンド。

 逃げようとするが、そこの空間は障壁が立ち逃げられなくなっている。

 

 「『汝、我が手で“無”へ送還す』」

 「や、やめろーー」

 この魔術はただの魔術ではない。

 まず、詠唱を始めた途端、一定範囲内に空間障壁がはられ、その中ではその人物へのいかなる攻撃も無効化される。

 

 「『乃(すなわち)、汝の魂の終焉を意味する』」

 「そんな外道なーー」

 障壁の内の人間は逃げることも叶わず、ただ呆然と死を待つしかない。

 

 「『ここに汝の“無堕ち”を通告す』」

 「やめーーー」

 そして死んだ者を待つのは輪廻のサイクルでも無ければ天国地獄でもない。

 どんな概念も存在しない『無』の世界。

 そこに、問答無用で叩き落とす魔術。

 そのあまりの非人道さに、禁呪指定されている。

 それが禁呪の中でも特に極悪な、闇禁呪『無への送還』

 

 「外道はどっちだあーーーーっ!逝ねぇ!『禁呪・無への送還』」

 周辺一帯、効果範囲内が漆黒の魔法陣に包まれ、

 「嫌だあーー!待ってくれぇー!」

 そして…

 「この外道め、禁呪を使うなんて…」

 魂を吸われたかのように、血の1滴も流さず倒れたのであった。

 



◇




 俺達は勝利した。

 だが、勝利の余韻なんてものは無く、皆俯いていた。

 無堕ちさせたのだから当たり前だ。

 そこまでしなくても、そう思った人もいたかもしれない。

 「この外道。悪魔め、死ね!どうしてそこまで…」

 誰かが、そう騒いでいた。

 振り向くと、そこには、12、13ぐらいだろうか、女の子がいた。

 その金髪はとても艷やかで、ある人物に似ていた。

 さっき無堕ちした。アシラだった。

 だが、見た目からウザさを出していたアシラと違い、その娘は上品な印象であった。

 悪魔か。否定できない。悪魔だってやらないような最低な事をしたのだから。

 そう、自責の念に囚われていた、その時。

 「危ないですわ!」

 鈴原が叫んだ。

 金髪の娘の上の天井が崩落しかけていた。

 そして、

 「きゃーーー!!!」

 俺達の助けも間に合わず、女の子は瓦礫の下敷きになった。




◇




 女の子は、いつもは他人に絶対私物に触れられたくない鈴原のベットで治療されていた。

 鈴原も彼女なりに反省があるのだろう。すんなりベットを貸した。

 「皆さん。この娘目覚めましたよ」

 良かった。胸を撫で下ろす。

 まずは全身全霊、心からの謝罪だ。

 みんなの共通意識であった。

 「ほほ、本当に申し訳ございませんでした!」 

 そんな俺達を完全に無視した娘の第一声。

 それは、俺達を驚かすものであった。


 「失礼ですが、貴方達どなたですか?」

 そう、娘は記憶を失っていた。

 主人公最強!にはならない予定です。



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