9話 伝わらない想い
本日3発目!!!
「ええっ!ええええ!!!」
井上の絶叫が響き渡る。
肉体的なダメージは神崎が癒やした。
だが、記憶喪失は無理だったのだ。
「ここ、どこですか?」
こっちのことをお構いなしに聞く娘。
しかし、芯はきちんとしてるのか、それとも単純に無神経なのか、狼狽える様子は無い。
その金髪を触りながらキョトンとする娘。
「君、自分の名前覚えてる?」
「はい、それだけはわかります。ラーニルと言います」
その娘、ラーニルは、不思議そうに辺りを見回し、
「助けていただいたみたいですね。ありがとうございます!」
そう笑いかけながら言う。
「何も…思い出せないのか?」
「はい。残念ながら」
肩を落とすラーニル。
そんな様子を見ていると、守ってあげたくなる。
しかし、俺はラーニルの姉を殺した身。
「ラーニル。ここはダンジョンって言うんだ!」
せめてもの罪滅ぼし、俺は慣れない優しい口調で言う。
「このロリコンめ」
誰かホントにどうでもいい事言ったが気にしない。
「ダンジョン?」
「知ってる?」
「うーん。何か私の大切な人がそんな事話してたような…」
心が痛い。
「それより、あなた方のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
その言葉に、井上が明るい口調で、
「そうだな、自己紹介でもするか!」
そう言ったが、顔の暗さは相変わらず抜けていなかった。
◇
一通り自己紹介を終えた俺達は、本当のことを言うか迷っていた。
この娘は怪我が完治するまでここで生活することになる。
俺達が苦悩している中、
「やあ、久しぶり」
空気の読めない奴が現れた。
まあ、相談する奴は真希しかいない。俺達は意を決して相談することにした。
◇(菅原真希目線)
「へえー。それは困ったね」
素っ気なく私が言う。
「真希、お前」
何か言いかけた井上を遮り、
私は、陸の左頬に平手打ちをした。
陸の体が真横に吹っ飛ぶ。
「お、おい真希!?」
3人の驚愕を横目に、私は淡々と話し始める。
「確かに陸の気持ちはわかるよ。その状況だったら私もキレてた。でもね」
そんな私の様子に驚く俺達。
「『無堕ち』これはどんな死よりも残酷で卑劣な事なんだよ」
暗い口調で続ける真希。
「冷静に考えて、陸ならそこまでしなくても解決できたわけだよ。絶対!」
最後の『絶対』の言葉を強調する。
「一時的な感情に走って最善の手段を見落とすことは間違っている」
私がこんなこと言うのはガラじゃないとは思う。
だが、今、この場で陸のためになる事ができるのは私だけなんだ。
「それを黙って、隠して、偽って、そんなんでこの娘との生活ができる?」
正論だ。陸は拳を握りしめる。
「でも…」
「でも、じゃないよ!それに私、そんな虚偽に支配された陸なんて見たくない」
陸は黙り込む。そして考え、言う。
「ありがと、真希。おかげで目が覚めたわ」
久しぶりの陸の声。そして、ラーニルの元へ駆け寄る。
「あのな、ラーニル」
良かった。わかってくれたんだ。
「そう、好きな人が嘘付くなんて見てられないよ」
ボソっと、思わず口に出てしまった言葉。
側にいた3人はギョッと私の方を見る―――
――しかし、そんな声は離れている陸には届かなかったのでした。
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