小学生代理(2)
まぁ、中学一年生の鳩尾キックがモロに決まったところで、気絶だなんて情けないことにはならないが、気絶の振りをしつつちょいとゆっくりと出来事を整理していこう。
あけましておめでとうの月が終了し、いい加減正月スペシャルというタイトルを飾ったテレビ番組も無くなりつつある月の正午、俺、「瑞山弥一」が面白く無さそうにテレビのチャンネルをイタズラに変えまくっていると、思春期絶賛到来中だろう一人目の我が妹、「瑞山美黒」が自慢のツインテールを揺らしながらやってきていた、別段珍しい話ではない、だってここリビングだし。
んで、別段珍しいのはここから、冷蔵庫から俺の好物、コーヒー牛乳を取り出したかと思えば、俺専用のマグカップを手に取り、並々と注いでいく。何が始まるのやらと観察していると、美黒は「…………んっ。あげる」っと差し出してくれたのであった。……まあ、ここはよしとしよう、普段無い出来事で、最近可愛げがないなーとか思ってはいたが、こんな不意打ちサプライズとは……お兄ちゃん大感激である、今まさに抱きついてサンキューな美黒!っと叫びたいくらいに。
そして、面白そうで面白くない番組を付けつつ、並々と注がれたコーヒー牛乳を飲んでいると、今度は美黒が何を思いついたのかしらないが、開けっ放しにしていたドアを、ゆっくりと閉めてから1、2、っと深呼吸。
ふぅむ、今の番組よりも美黒の謎行動を目で追う方がよっぽど楽しい、そこで、試しに美黒を見つめてみることにした。
「……っ」
美黒と視線が交わったとき、いつも通りの罵声を飛ばすかと思いきや、頬を染めながら目をそらしてしまう、これは一体……。
さらに観察を続けていると、美黒は俺の顔色を伺いながら恐る恐る「隣に女の子座りをした」……………………さて、と、こいつは誰だ、美黒ではないだろう、さすがにここまで来ると不気味の一言。
半年前ほどならさほどでも無かったが、最近ならば「ありえない」の五文字。なぜなら、俺と会話すら避けようとするし、横を通るだけというのに、痴漢をやたら恐れる男性不振のOLの如く身をちぢこませながら目線を下げつつ横を通るのだ。いや、まさか妹属性ばっちりなエロ本をかき集めていることがばれているのでは、っと疑ったこともあったが、勿論ハズレ、この俺以外にあの秘密の花園の在り処は分からないはず。
っと、今はそんなことどうでもいい、今は何故こいつが絶賛デレ期(?)到来中なのかを――――。
「あのさ、お兄ちゃん」
「……はい、なんでございましょう」
「ちょ、喋り方きも」
こんな言葉の「キャッチボール」は慣れております。どちらかといえばドッジボールか。
「あのさ……あの……私」
「うわぁ、凄い恥じらいだな、何言い出すんだろうか」
「……いっぺん死ね」
会心のボケにストレートな突っ込み入りました。
「……小学生に戻りたいんだけど、どうすればいいか分かる? 小3なんだけどね」
っと、ここで最初に戻るわけだが、どう答えるべきか、とりあえずここはこういっておくべきだと俺は思う。
「よく分からんが、お兄ちゃんに任せとけ、なんとかしてやる」
「ほ、ほんと! それマジで助かる!」
うむ、好感度上げるつもりはさらさら無いが、ここは兄として当然の答えだろう、もっと言うなれば、年頃の女の子とはいえ「マジ」って言葉響き悪いから使わないで欲しいってことくらいである。