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「リエン様、女神様はどうでしたか?」


ベティには二人きりの時は名前で呼んでもいいと言ってあった。

外出した時も、彼女に勇者という称号の代わりに名前で呼ばれたことがあったではないか。

そのせいか、名前で呼んでもいいと言うと、自然にそう呼ぶようになった。


それが嫌なわけではなかった。

むしろ、知り合いのいない殺風景な王宮で、気兼ねなく言葉を交わせる人がいることに感謝していた。


「後光のせいでまともに見えないほどでしたか? お綺麗でしたか? いえ、女神様なのですから当然お美しかったのでしょうね?」

「さあ」


覚えていることがあってこそ言えるものだ。

教えてあげたくても、私にもよく分からない。


「綺麗だったと思う」


ふと思い出したかのように、記憶が定かではなかった。

けれど、母の姿を見たのだから私は満足だった。

神殿で会ったおじいさんが言っていた。

女神様は人によって違う姿で現れるのだと。

だから、誰かに女神様の姿がどうだったか聞かれたら。

私は迷わず、女神様の姿は綺麗だったと答えるだろう。


「それでは、お力はどうですか?」

「力? 何の力?」

「女神様に勇者として認められれば、強くなると聞きましたが?」


そういえば、いつかクラドもそんなことを言っていたな。

女神様に認められて勇者になれば、先代の勇者の力を受け継ぐとか言っていたか?

聖剣に封印された力が目覚めると言っていたか?

正確には覚えていないが。

似たようなことを言っていた気がする。


ベティの言葉を聞いた私は、拳を握ったり開いたりしてみた。

そしてテーブルの角を掴んで力を込めた。


「ふんっ!」


いくら力を入れてもテーブルが持ち上がらないのを見ると、筋力が強くなったわけではないらしい。

かといって、魔力が急に増えたわけでもない。

使えなかった火属性の魔法が急に使えるようになったわけでもなさそうだ。


私は感じたままを口にした。


「前と変わらないみたい。変わったところがあるのかも知れないけど、よく分からないわ」

「ええ? それじゃあ、迷宮にはどうやって入るのですか? 危険ではないですか?」


私を心配するベティ。

今の私の実力で、迷宮の悪魔が危険なら、女神様が入れなんて言わなかっただろう。


「私、強いから」


そうですよね?

信じていますよ、女神様。

迷宮に入って担架で運ばれてくるようなことになったら、私、顔を上げられませんから。


女神様に勇者だと認められて以来、人と顔を合わせるたびに「勇者様」という言葉をより頻繁に耳にするようになった。

本来なら頭を下げて通り過ぎていた人々も、私の名前を呼んだり一度言葉を交わそうと、もじもじしている様子から、自分の人気を実感するというものだ。


しかし、なりゆきで勇者になった手前、自分の剣が聖剣であるかさえ確信が持てない今。

私が成し遂げた業績で「勇者」と認められたわけでもないので、その言葉を聞いてもそれほど嬉しくは感じられなかった。


女神様が勘違いしているのではないだろうか?

だから私が聖剣の力を使えないのかも。


もし私が不敬な考えを抱いているのなら、天罰を下してください。

しばらく待ってみたが、雷が落ちるようなことは起きなかった。


「それはそうと、厨房を借りる件はどうなった?」


一流の料理人が作るご飯も美味しくて良いけれど。

これまで贅沢なものばかり食べてきたせいか、久しぶりに自分の口に合う料理が食べたかった。


「使用は可能だそうです。ただ、夕食の時間は仕事が多くて難しく、遅い時間なら大丈夫だそうですよ」

「それで十分よ。ありがとう」

「いいえ。私はリエン様の言葉をお伝えしただけですから」


そうしてベティと遅い時間までお喋りしているうちに、厨房を借りる時間になった。


「行こうか」

「はい!」


予約した厨房に到着した。

そこにはお腹がふっくらとして、頭が半分ほど禿げた男が私たちを待っていた。


一目見ただけで料理人と分かる姿だった。


「料理長のヨシェフです」


案の定。

ここの料理長だという。

心の中で少し驚いたのだが、下の人間に任せればいい仕事を、役職が一番高い人間がわざわざ残っている必要があるのだろうか?

ともかく、彼から厨房の道具や使い方、食材など、料理に必要な全般的な知識を教えてもらった。


さて、弾む心で料理を作ろうとした矢先。


「……あの」

「?」


教えることはすべて教えたのだから、もう行けばいいのに。

私の前でもじもじしている料理長。


「何か用ですか?」


急に腰を低くすると。

ハンカチとペンを差し出してきた。


「娘が勇者様のファンなのですが、サインをお願いしてもよろしいでしょうか!」


厨房に響き渡るほどの力強い声だった。


私の頼みで遅くまで残ってくれたのだから、サインくらい。

そういえば、私、サインなんてしたことないけれど?

サインというのは貴族がするものじゃなかったか?

ここに名前を書いてあげればいいのだろうか。


「お嬢さんの名前は何というのですか?」

「ナナです!」


私はペンとハンカチを受け取り、彼の娘であるナナの名前と共に、自分の名前を書いた急造のサインをしてあげた。


「ありがとうございます! 家宝として大切にいたします!」


急造の私のサインを見て、明るく笑う料理長。

娘にあげるのだと言いながら、料理長の方が喜んでいるように見えるのは私の錯覚だろうか?

ハンカチが宝物でもあるかのように大切に抱きかかえて厨房を去る料理長を背に、私はベティの手を借りて料理を作り始めた。


途中で小麦粉が舞い。

潰れたトマトの汁がエプロンに跳ねたが、料理は完成した。


「それほど良い材料は入らないのですね」


私が作った料理を見たベティが、意外そうに言った。

それもそのはず、主な材料といえばトマト、ナス、ズッキーニ、パプリカといった野菜を薄く切って準備し。

ソースはフライパンにオリーブオイルを引いて、みじん切りのニンニクと玉ねぎを炒め、入れたトマトに塩と胡椒で味を整え、切っておいた野菜を見栄え良く重ねてオーブンで焼いたものだけなのだから。


「食べてみようか」

「いただきます」


まずはフライパンにあるラタトゥイユをお皿に取り分けた。

そして皿に盛られたラタトゥイユをフォークで取って食べた。


「うーん……」


野菜の食感が柔らかく、それぞれの材料が調和して、口の中で深い味わいを生み出した。


「おいしい! お肉がないのに、お肉よりおいしい気がします」


一緒に作った料理が美味しいのか、驚いた顔をするベティ。


「こんなの初めて食べました。リエン様はこんなに美味しいお料理をどうやって知ったのですか?」

「故郷で食べていたものだから、時々作って食べるの」


ラタトゥイユは母が作ってくれた料理だ。

味は完全に同じではなくても、子供の頃に母を手伝って作ったことがあるので、どんな材料が入るかは知っている。

私は最大限似た味を再現しただけだ。


お皿のソースは、今作ったばかりの温かいパンをちぎって、ソースを拭うようにして食べた。

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