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国王が主催した夜会が終わり、平穏な日々が続いた。
人間としての最も基本的な生理活動を繰り返すだけの日々も、束の間。
私が王都にある神殿を訪問する日がやってきた。
「沐浴の儀がございます」
名目上は女神様に会って、自分が勇者であることを認めてもらうためだったが、すぐに拝謁できるわけではなく、手続きがあるのだという。
その手続きの一つは、私が来る前にすでに神殿で進められていた。
私がすべきことは、聖水で心身を清めることだそうだ。
それで私は、神殿のどこかにある浴場へと足を踏み入れた。
一人で使うには広すぎる浴場に、二人の女司祭と共に。
「一人でできますけど」
見ず知らずの人の助けを借りて、体を洗うことになるとは。
「女神様にお会いする前に、心身を清める儀式の一環です」
赤ん坊でもあるまいし、他人の手に体を預けるということに抵抗を感じたが。
儀式の一部だと言って、一歩も譲らず私を洗おうとする姿に、私は降参した。
女司祭が瓶に入った水を私に注ぐと。
ほのかな香りが漂う水が、肩を、背中を、肌を伝って流れ落ちた。
一人でもできることを手伝ってもらっているという事実に、気恥ずかしさを覚えた。
しかし人間は適応の生き物だと言うように、他人の助けを受けているうちに、すぐに慣れてしまった。
心地よい湯加減と、落ち着いた雰囲気の中。
体の緊張がほぐれるにつれ、心も穏やかになっていった。
そうして終わった沐浴。
女司祭たちが清潔な布を手に、私の体の隅々まで拭いてくれた。
「礼服に着替えましょう」
神殿で用意された衣装。
普段着ている生地とは全く違っていた。
普段なら、着るのが気後れして身につけられないような服だった 。
神殿で飼育している虫から作られたというが。
シルク生地の服が肌に触れるたび、ひんやりとして滑らかで、くすぐったいほどだった。
神殿から与えられた礼服に着替え終えると、ようやく女神様にまみえるための場所へと移動することができた。
コツ、コツ。
女司祭の後をついていった。
天井が高いせいか、歩くたびに足音が清らかに響く。
何メートルあるか見当もつかないほど高い天井と、大木よりも太い柱が神殿全体を支えていた。
片方の壁には、ガラスで作られた色とりどりの窓が長く続いていたが。
ステンドグラスと呼ばれるそれは、単なる装飾ではなく、何かの物語を綴った絵のように見えた。
色ガラスを通り抜けた光が床に散らばり、神殿に神秘的な趣を添えていた。
「私はここまでです」
いつの間にか、女神様がいらっしゃるという部屋の前に到着していた。
ここなのか。
私が王都まで来た理由が。
もう少しすれば分かるだろう。
部屋には私一人で入らなければならないと、司祭が扉を開けてくれた。
私は司祭に軽く会釈をし、女神像のある部屋へと足を踏み入れた。
ギィィ。
バタン。
扉が閉まり、一人きりになった空間。
部屋の中には、膝ほどの高さの女神像があった。
私は女神像の前に立った。
こうして見ている分には、何も感じられないのだが。
本当に、言われた通りにすれば女神様に会えるのだろうか。
私が本物の勇者ではないと言って、神罰が下るわけではないだろうな。
疑念と不安、そしてわずかな期待を抱いたまま、私は女神像の前に跪いた。
そして両手を合わせ、目を閉じて、心の中で女神様に会えるよう切に祈った。




