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ループ100回目の悪役令嬢、今度こそ完璧なハッピーエンドを目指します!  作者: 希羽


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第十話:奇跡の代償と、王子の来訪

 ラトクリフの町は、団結していた。


 私がもたらした「奇跡の薬草」と、裏切り者への怒りを燃料に、人々は夜を徹して畑の土壌を浄化する作業に没頭した。子供たちは薬草を運び、女たちは炊き出しを作り、男たちは畑を耕す。その光景の中心には、泥だらけになりながらも、彼らと共に汗を流す私の姿があった。


「スカーレット様、少しお休みください」

「大丈夫です。この畑が、私たちの未来そのものですから」


 人々の私を見る目は、もはや単なる領主の娘へのものではなく、共に戦う「仲間」への信頼に満ちていた。


 セオドア殿下が贈ってくれた薬草の効果は絶大だった。黒穂病の進行は完全に止まり、土には再び生命力が戻り始める。しかし、それは魔法ではなかった。一度病に侵された小麦は、その多くが枯れてしまった。今年の収穫は、例年の三分の一にも満たないだろう。


 私たちは、飢えという最悪の事態は免れた。だが、厳しい冬を越すための経済的な体力は、もはや残されていない。一つの戦いには勝った。しかし、戦争全体で見れば、私たちは依然として崖っぷちに立たされていた。


 そして、侍従長ヘムロック伯爵の次なる一手は、剣よりも、毒よりも、遥かに厄介なものだった。


 それは、「噂」という名の見えない刃だった。


『南部の領地は、公爵令嬢の浅はかな改革のせいで、大飢饉の危機にある』

『スカーレットという女は、隣国から持ち込んだ怪しげな薬草で、民を惑わしている。いずれ、その土地は毒に汚染されるだろう』


 王都から流れてくる悪意に満ちた噂は、じわじわと、しかし確実に、ラトクリフを孤立させていく。他の領地からの支援は途絶え、商人たちは私たちの町を避けるようになった。ヘムロック伯爵は、私たちを経済的に干上がらせ、自滅させようとしているのだ。


 打つ手はないのか。焦りが募る、ある晴れた日の午後だった。

 町の入り口が、にわかに騒がしくなった。土埃の舞う道に、不釣り合いなほど豪華な、王家の紋章を掲げた馬車の一団が現れたのだ。


 町の人々が、何事かと遠巻きに眺める中、その馬車から降り立った人物を見て、私は息を呑んだ。


 銀色の髪を風に靡かせ、寸分の隙もない、完璧な王族の礼装に身を包んだ、セオドア殿下その人だった。


 彼は、私の前に進み出ると、大げさなほど恭しく、私の手を取った。そして、集まった全ての人々に聞こえるように、朗々と宣言したのだ。


「スカーレット嬢。あなたの見事な手腕により、このラトクリフの地が、厄災から奇跡的な復興を遂げたと聞き、我がシルヴァランド国王陛下も、いたく感銘を受けておられた。これは、陛下からの心ばかりの贈り物だ」


 彼が合図をすると、後ろの馬車から、小麦や豆が詰まった麻袋が、次々と運び出された。


「そして、これは、贈り物ではない。正式な『投資』だ。我が国は、あなたの管理するこの南部地域と、大規模な経済協定を結びたい。まずは、この町の特産品である織物を、通常の倍の価格で、我々が全て買い取らせていただこう」


 その宣言は、ラトクリフの民衆にとって、まさに天からの福音だった。広場は、割れんばかりの歓声に包まれる。


 その夜、宿屋の一室で、私たちは二人きりで向き合っていた。


「……殿下。なぜ、ご自身がここまで?」

「手紙だけでは、意味がなかったからだ」


 彼は、紅茶を一口飲むと、静かに言った。


「ヘムロックは、噂という檻で、君を社会的に閉じ込めようとしていた。その檻を壊すには、俺自身がここへ来て、世界に示さなければならなかったのだ。『スカーレット・ロックフォードは、我がシルヴァランド王国が、公式に支援するパートナーである』と」


 彼の、あまりにも大胆で、完璧な一手。それは、ヘムロック伯爵の陰湿な策略を、真正面から打ち破る、最強のカウンターだった。


「あなたは、本当に……」

「恐ろしい男でしょう?」


 悪戯っぽく笑う彼の顔に、私は思わず笑みを返した。


「いいえ。最高に、頼りになる、わたくしの『未来の王』ですわ」


 私たちの間には、もはや探り合いの緊張はない。あるのは、共通の敵と戦う、絶対的な信頼と、そして、それ以上の、名前のない温かい感情だった。


 セオドア殿下は、窓の外に広がる、月明かりに照らされた畑を見つめた。


「ヘムロックは、これで理解したはずだ。彼が戦っている相手は、もはや公爵令嬢一人ではない。この国の未来を憂う者たちと、そして、隣国シルヴァランドそのものである、と」


 彼の言葉は、新たな戦いの始まりを告げていた。


 侍従長という巨大な敵を前に、私たちの小さな同盟は、今や、二つの国の運命を巻き込む、大きなうねりへと変わろうとしていた。


 この百回目の人生、退屈している暇など、一瞬たりともなさそうだ。私は、隣に立つ頼もしい共犯者の横顔を見上げ、静かに微笑んだ。

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