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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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086 - 水晶の試練


 無事にクリアした徘徊ボス戦。

 今回はメンデルの機動力に救われた戦闘だった。トーテムゴーレムのいる場所まで相手を誘導できる機動力がなければ、あのまま物量に押し潰されていただろうな。


 それはさておき、リザルト確認である。


 まずはドロップ。

 色んな植物系素材、大量の岩塩などを落としているが、中でもレアそうなのがこれ。



 Item:カーマンの結晶核

 Rarity:ボスドロップ

 

 カーマンの球根から取り出された塩の結晶。宝石化しており、砕けず、水に溶けることもない。


 削り上げれば良質な刃となり、宝石として磨けば土と海の魔法触媒となる。いずれの形でも植物型のモンスターに大きな特攻を有する。


 

「……ウーリに見せたくねえなあ、これ」


 嬉々として活用してくるだろう。

 とはいえ、こちらもこちらでカーマンの排塩機構はしっかり獲得済み。もはや塩水なんて何の脅威でもない。


 そんな状態のメンデルに、この塩結晶で作った武器がどこまで通じるかは未知数だ。


 

 ……ああ、ちなみに。

 どういう仕組みかは知らないが、塩喰らいカーマンは岩塩からミネラルを抽出し、エネルギーに変える力を持っていたらしい。


 本来、植物がミネラルだけで活動できるわけないのだが……カーマンはこのあたりがきわめて効率的だったのだろう。

 その食塩能力は、もちろんメンデルにも受け継がれている。


「ほら、メンデル。食べるか?」


 ドロップした巨大な岩塩を投げれば、メンデルはそれをツルでキャッチ。粉々に潰して吸い上げ、嬉しそうに花を咲かせた。


 濃度いくらの塩水が云々なんてもはや関係ない。塩の塊ままでイける。

 それも肉ほどではないがスタミナの回復している気配まである。


「なかなかいいな、これ」


 今度フルルに頼んで、いつもの飴玉も少し改良してもらおう。今ならより効率いい形にできるかもしれない。



 さて、リザルトがもうひとつ。

 スキル進化である。


「ようやく進化できるか〈蹴術使い(スタイル:キックス)〉!」


 普段そこまで足技をメインで振ることがないから成長が遅くなったが……今回はがっつり草刈りに利用したからか、ようやく進化のときだ。



剛脚(スタイル:)使い(ハードレッグ)

 既存の動作アシストに加え、足技の威力強化、下半身の常時強化を行う。


柔脚(スタイル:)使い(ロウキックス)

 既存の動作アシストに加え、脚を利用した攻撃の受け流し、不安定な足場での移動時にもアシストを発生させる。



「どっちも正規進化って感じだな。こういう分岐になるのか」


 威力重視か、補正重視か。

 まあ威力重視の〈剛脚(スタイル:)使い(ハードレッグ)〉にしておこうか。もともと蹴りの動作アシストなんて空中戦でしか使っていないし、不安定な足場にはメンデルがいる。


 メンデルと夜魔法による強化に加えて、スキルでも筋力を増強できるようになってきた。フィジカルはかなりいい感じだ。



 俺のもとにシザーから連絡があったのはちょうどそのとき、一通りのリザルト確認を終えたときだった。



「シザー? どうした?」

『ああ、トビくん。よかったです、連絡がつきましたね。お出かけのところ申しわけありませんが、今すぐハウスに戻ってくることは出来ますか?』


 通話越しのシザーは少し焦った様子だった。

 俺の今いる位置からファストトラベルポイントまではやや距離がある。今すぐ──というのは難しいが、とにかく俺は移動しはじめながらシザーに質問をする。


「何があった?」

『孤島周囲のモンスター状況を調査しに出たタカツキさんから連絡がありました。近海でボスらしきモンスターと接敵してしまったようです』


 ……ボス?

 封鎖型なら調査初日の時点で割れているはずだろうから、まさか徘徊型か? だとすると厄介だな。移動ルートが広い上に、悪ければ港のすぐそばを通る可能性だってある。


「どういうボスなんだ?」

『現在戦闘中らしく、通話の余裕がないのか具体的な報告はありません。なので、全貌はまったく把握できていないのですが……』

「わかった、どうにか戻るよ」


 さて、まさかまた連続ボス戦か?

 メヌエラのときといい、クックノールのときといい……俺、なんかこういうボス攻略ばっかりだな。

 



 *



 ──今日はアダンが休みでよかった、とタカツキは心の底から思っていた。


 付き添いの師匠NPCは休息、そもそも今日は仲間も少ない。

 プロ志望とは、つまりは現時点ではプロではないという意味であり、それぞれに生活があるのだ。だからメンバーの揃わない日は多かった。



 小型帆船での調査中、彼らが()()()()と出会ったのはそんな平日の夜であった。



 逃げる彼らを追うのは、水面すれすれを滑空する、深い藍色の翼竜だ。

 いわゆるワイバーンという、前足が翼になっているタイプのドラゴンである。全身のあちこちには淡く発光するクリスタルを生やし、明らかに魔法的な風を操りながら迫る。タカツキたちの乗る小型帆船では到底振り切れない。


「なあタカツキ! このゲームでドラゴンって俺たちが初じゃないか!?」

「るッせえな、言ってる余裕あったら兄貴たちに連絡してくれよ!」

「無理ぃ! ウィンドウ操作の余裕はない!」


 タカツキは風魔法を使った帆船の操作。

 他のメンバーは、弾幕のように放たれる水晶の弾丸を剣で撃ち落とす。あるいは尻尾による叩きつけ攻撃に対して、魔法をぶつけて軌道をわずかにずらすことで、帆船操作と連携してすれすれで躱す。


 一瞬の隙も見せられない。

 ひとつでも亀裂を入れられれば、この戦線は即座に崩壊する。


「いいか、とにかく情報集めてから死ぬぞ!」

「おうッ!」


 かつてトビと共に戦ったムーンビーストにも匹敵しそうなボスの存在感に、タカツキは息が詰まりそうだった。

 メッセージや通話入力の余裕はないが、彼はかろうじてログを確認する。



()()()ボス〈水晶竜クアルアーラ〉が確認されました』



「し、試練型──? なんだそれ!?」


 その身に無数の水晶を生やし、きらきらと輝く青光を散らしながら、竜は堂々と空に座す。




 *



 ──そんなタカツキたちを、システムの上から俯瞰して眺めるものたちがいた。



 彼らは真っ白い空間に棲んでいる。

 何もない空間に棲んでいる。


 否、実際にはその空間に漂っているのは "情報" であり、彼らは現実には実在しない。


 そう、運営側の管理AIである。


『早いな、思いの外』


 ひとつの頭がそう言った。

 白い空間にたったひとりで鎮座する彼は、さながら仏教における阿修羅のようなデザインを与えられている。


 三つの頭に六本の腕──

 頭のうちのひとつが話し出せば、他のふたつも連鎖するように口を開く。


『試練型ボスか。発生条件が満たされるのは、あと一ヶ月は先だろうと思っていたけど』

『プレイヤーによる土地の占有、貴族NPCによる後ろ盾と都市計画の公認、建造物の完成、NPCの定着と一定支持率超過、一定収益超過──』

『うん、たしかに。条件が達成されてしまっている。驚くべきことに』


 そんな内容を、彼らは照らし合わせる。



 ──試練型ボス。

 それはある特殊条件下で発生し、プレイヤーたちに試練を与える──封鎖型とも徘徊型とも違う第三種のボスモンスターだ。


 その挙動は試練の内容によって様々だが、多くの場合は()()である。


 つまりはプレイヤーたちが集落を築き上げたとき、そこに襲撃イベントを発生させる──

 水晶竜クアルアーラもまたそうした役目を与えられ、長らく条件の未到達によってデータの海に眠っていた存在であった。


『勝てるかな。想定していた推奨レベルは少し先だけど』

『トビくんだよ? 狂い啼くノームさえ初見で封殺してしまった、あのトビくんだ。アバターのレベル分布だけで彼を図るのは不可能だと、前に話し合ったじゃないか』

『だが夜の魔法使いだ。彼の敵はボスモンスターだけじゃない』


 三つ首は相変わらず仲睦まじい。けれど会話の内容は物騒だ。


『たしかにそうだ』

『シナリオ調整はイヴの仕事だが、夜の魔法使いに対する "試練" はやや難度が上がる』

『ああ。ボス以外にもやってくるだろうね、()()が』


 彼らはその口元を、同時ににっと吊り上げる。柔らかい笑みを浮かべて、戦況を見下ろす。


『みんな、楽しんでくれるといいんだけど』


 彼らはただ、たったひとつの目的のために。

 ユーザーの皆様へ、より良い満足度を提供するために。



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