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夏の雪 1話 灯

「私、横井君のことが好きなの!」放課後の教室、夕暮れの光の中で赤面しながらそう言い放ったのは、クラスで一際目立つ美少女、須応朱莉すおうあかりだった。


明るくて、優しくて、男子の間では「クラスのお姫様」と崇められている彼女の言葉は、どうやら横井丈――つまり、この僕の体に向けられているらしい。


「す、き?」待て、なんの話だ。周りにはクラスメイトがまだ十数人も残っている。まさに先ほど、数人が演劇部から帰ってきたところだった。


彼らにも聞こえていただろう。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。今、この顔はどんな奇妙な表情を浮かべているのだろう。


だが幸いなことに、彼女は恥ずかしさからかギュッと目を瞑っており、僕の不格好な顔は見えていない。


後から見れば、この「告白」は、「リンゴ」だった。


 ここで僕と彼女の関係性について少し話そう。


彼女とは、じゃんけんによって決まってしまった委員で一緒になり、初めて言葉を交わした。


実を言えば、彼女のことはあまり好きではなかった。


眩しそうな人間は嫌いだ。


ただ、それだけの理由で人間を嫌うというのは、自らの気に食わないものを頭ごなしに否定するようで好かない行為である。


しかしながら関わることは避けたい。消してしまいたいと思っていた。

それでも、同じ委員になってしまったからには仕方がない。そう割り切って、最初の活動日に彼女に話しかけてみた。


しかし、話を重ねるうちに、彼女は僕が最も嫌うタイプの人間だと思うようになった。なんというか、自分がない。もちろん、勝手に他人の「中身」を決めつけ、分類するという行為は好かない。


だが、とにかく彼女に魅力を感じなかった。人の魅力とは、一体どこに宿るものなのだろうか。なんにせよ、僕の閉じられた世界には決して入れない――そう思っていた。


一方、彼女の方はやけに距離を詰めて話しかけてくる。


「横井君、今度の日曜日ってお暇? もしお暇なら、委員の仕事を一緒にやらない?」


などと誘われ、


「いいよ。ぜひ」と返してしまい、そんなことが続いた結果、この告白に行き着いたわけだ。


「えっと、今なんて言った?」


「今年、同じクラスになってからずっと好きでした。付き合ってください!」何を言っているんだ。僕と彼女がそんな関係になるなんて、当然いやだ。


だが、考えてみればこれはチャンスだ。彼女という人間を間近で観察し、今までの認識を改めるいい機会かもしれない。


「いいよ」僕は答え、結果として付き合うことになった。


3日後に早速デートをしようという約束を交わして。その日から夏休みに入るため、時間の調整は容易だった。デートの場所に選ばれたのは、美術館だった。


 当日、待ち合わせに現れた彼女の姿を見て、不覚にも美しいと思った。世界で一番、綺麗だ、と。それくらい、夏の日差しに当てられた彼女は、白く、綺麗で、儚かった。


美術館で彼女と話すうちに僕は彼女に対する認識を誤っていたと言わざるを得ないと思った。


彼女は、美術においてとても深い知識を持っていた。


素人の僕にさえ、彼女の美術に対する純粋な情熱は、十分伝わってきた。特に、抽象画が好きらしい。


ワシリー・カンディンスキーが描いた『コンポジションVIII』の前に立った時、彼女は子供のように目を輝かせて、弾んだ声でその魅力を語った。


鋭い直線と、いくつもの円。その幾何学的な模様には、僕も強く惹かれた。僕は元々、初等幾何が好きで、そこから微分幾何や多様体論にのめり込み、今はなぜか代数幾何にハマっている。


彼女との共通点かもしれない。そんなことを考えていると、彼女がハッと我に返った。


「ごめんね、つい夢中になっちゃって……」


「大丈夫。意外な一面が見れて、俺は嬉しかった」デートの帰り、美術館の閉館時刻から少し過ぎた17時30分頃まで近くの公園で話していると、彼女が美術部員であることや、彼女と仲がいい人物の話を7人ほど聞いた。


彼女の話はとても明るく希望に満ちたそんな気がした。一方、


「……ねえ、横井君。実は私ね、美術部のみんな……あの7人のことが、最近ちょっとだけ怖いの」


「怖い? クラスのお姫様が、部活じゃいじめられてるのか?」


僕が少し意地悪く返すと、彼女は儚げに首を振って、声を潜めた。


「違うの。みんな、私の描く絵に……ちょっと異常なくらい執着してるっていうか。コンクールが近いからって、ずっと凛の家に集まって、みんなで私の過去の作品やデッサンを『研究する』って言って囲んでるのよ。特に鳥頭と凛は、私が他の男の子と話してるだけで、すごく冷たい目で見てくるの。特に横井くんと話していると。もし私と横井君が付き合ってるって知られたら、あの中の誰かに…な、なんてね」


彼女は冗談めかして笑ったが、その瞳は本気で怯えているように見えた。帰り道、彼女


はいきなりキスをしてきた。触れ合った数秒が、やけに長く引き延ばされる。


「なん、で?」


「うーん、丈くんが王子様みたいだったから!」


と嬉しそうに言う。


「じゃあ、私こっちだから。またね!」


彼女は赤面し、逃げるように走って帰っていった。3日後、彼女は無惨な姿で見つかった。

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