ニーナとお師匠様・前編
超絶美少女ニーナちゃん。
帝都の便利屋家業の最先端、ギルドに現れた期待の新人。今日はそんな彼女の1日を紹介しよう。
「ん……」
ボクの朝はとある宿屋から始まる。この辺りで一番安い宿だ。
鬼人種であるボクは食事の必要があまりない。そのため、日々の暮らしで必要になるのはその宿代と、わずかな食費となる。
そして、それら費用分の金銭を稼ぐため、毎日便利屋として働いているのだ。
「ふわぁ……」
朝は弱い。鬼人種は日光が苦手……ということもないので、これはただの個人差だ。
顔を洗い、腰まで伸びた銀髪の寝癖を自前の櫛で溶かしていく。そろそろ邪魔になってきたし、切っちゃおうかな。
ぱぱっと支度を終えたボクは、今日もギルドに行く前にとある家に寄ることにした。
普通に歩いて20分くらいの距離を5分程度で走破し、すでに恒例となった挨拶と共にその家の扉を開く。
「やっほー!」
突撃するように玄関をくぐり、そのまま台所に直行。
「ニーナさん。いらっしゃい、ご飯の支度はもうすぐですから、少し待っていてください」
いつものようにボクを迎えてくれたのは、ミリィだ。
今日もエプロン姿で、朝食を作ってくれている。彼女は女のボクから見ても、非常に可愛らしい。頭でぴこぴこと動く獣耳も非常にグッド。
「あ、ニーナさん。兄さんを起こしてきてくれませんか? ちょうど今、手が離せないので」
「りょーかいー」
ミリィの言う兄さんとはこの家の主であり、ボクの師匠でもある青年、ユーマのことだ。
自室にいた師匠はいつものように、布団にくるまってグーグーと眠っている。すでに朝日も完全に顔を出しているというのに全く起きる気配がない。
仕方ないので、
「師匠起きろー!」
寝ている師匠に飛び込みからの肘鉄を、その無防備などてっぱらにブチかます!
「ぐぶふぁッ!」
割とヤバイ感じの声を上げて、ぴくぴくと痙攣し始める師匠。
「あ、起きた」
「あ、起きた……じゃねえよ! 永眠させる気か!?」
師匠は、飛び上がっておなかをさすりつつ抗議する。
美少女に起こしてもらえることの何が不満だというだろう。
「兄さん、ニーナさん。ご飯の支度できましたよー」
「はーい」
台所のほうから、ミリィの声がしたのでタタタと小走りで向かう。ミリィの料理はおいしいから好きだ。
「ったく」
師匠も、ぼやきながら後を着いてくる。
そうして、ボクたちは毎朝のように3人で食事をとる。あ、名誉のために言わせてもらうと、わずかな食費っていうのはここに入れてるお金だからね! ただ飯食らいじゃないよ!
ミリィと師匠は、いらないなんて言っているけど、借りは借りっぱなしでいられないため、半分無理やり押し付けているのだ。
食事が終わりゆったりとした空気の中、ボクは師匠に毎日言っている質問を投げかける。
「師匠、今日はどうするのー」
このどうする、とは便利屋家業のことだ。
「今日は、朝から寝込みを襲われたんでな、療養することにする」
師匠の返事にミリィの小さなため息が聞こえる。やれやれ、って感じだ。
朝食後、師匠がギルドに向かうなら一緒に行くのだが、今日は自主休業ということなのでボク1人で向かう。
ギルド内には、朝早くから何人もの便利屋が訪れる。基本的に、朝張り出される依頼の受注は早い者勝ちだ。そのため、少しでもよい依頼を入手しようとして、朝は激戦区となる。
師匠は人ごみが嫌で、わざと遅くに行くとのことだったが、単純に朝早く行くのが眠たくて面倒なだけだと睨んでいる。
まだまだ人の多いこの時間帯、その人ごみの中に見知った人物を見かけたので声をかける。
「やっほー、アルベルト」
声をかけられた男、アルベルトはボクの声に反応してこちらを向き返事を返す。
「よう、ニーナか。おはようさん。今日もユーマはサボりか?」
「いつものようにね」
馬鹿にした口調で笑いあうボクたち。
ひとしきり挨拶した後アルベルトが、
「そうだ、暇ならパーティを組まないか? 討伐系の依頼を受けたんだが、今日は戦力的に少し不安があってな」
と、興味深い提案をしてくる。
「そうなの? ボクは別に構わないけど」
このおっさんとは前に喧嘩して以来、気が合うところもありよく一緒につるんでいる。パーティに誘われるのも今日が初めてではない。そんな知人からの要請ならば、手を貸してもいいと思えた。
ボクが返事をしたそのときだ、受付のほうから2人の少年がこちらに向かって来ながら声をあげる。
「アルベルト先輩! 依頼受注してきました!」
「おう、ご苦労」
1枚の紙を掲げる少年と、それに手を上げて返すアルベルト。
その様子から察したボクは、
「その2人が今日のパーティメンバー?」
と、尋ねる。
「おう、駆け出しの新人だからよろしくしてやってくれ」
「まーた、おせっかい焼いてるんだね……ボクは、ニーナ。よろしくね」
アルベルトににやにやと笑いかけてから、少年達のほうを向き自己紹介する。
「「よ、宜しくお願いします!」」
少し裏返った声で返事をする2人はそれぞれ、ソルト、シュガーと名乗った。
……何故だろう、この2人はそれぞれが出会うべくして出会った相手のような気もするし、決して相容れない宿敵のような気もする。なぜだ。
「よし、それじゃあ早速行くか」
「あれ、ギルドの人は待たないの?」
討伐系はギルドの人間が監視でつかなければ、受諾できないはずだが……
「ふっふっふ……聞いてくれか?」
なにやら含みを持たせた笑みを浮かべるアルベルト。何か、自慢したそうな雰囲気を感じたので端的に返してやる。
「別に聞きたくないかな」
「少しは興味持てや!」
憤慨気味なアルベルト。なんとからかい甲斐のある男か。
「冗談冗談、それで? 何を自慢したいの?」
「そ、そういう言われ方すると、自分で言うのが凄く恥ずかしいんだが……おほん……実はオレ、認定冒険者に選ばれてな」
「おお! 凄い!」
「ふふ、そうだろうそうだろう」
自慢げに言って、鼻の頭をかくアルベルト。
少し疑問になったボクは、アルベルトに質問を投げかける。
「ところで、認定冒険者ってなに?」
「知らないなら、適当に相槌打つなや! 恥ずかしいだろうが!」
絶叫するアルベルトの話によれば認定冒険者とはその名の通り、認定された冒険者だそうだ。何を認定されたかといえば、その実績であったり能力が、だ。
認定されることで受ける恩恵は特別依頼の推薦、微量ではあるが報酬の増加、そして討伐以来の単独受注が認められる……つまりは、ギルドの監視なしでも討伐系の依頼を受けることができるようになったとのことだ。
「へー、凄いねえ」
説明を聞いたあとなら分かる。これは本当に凄い。
……まあ、真っ直ぐに褒めてやるかどうかはまた、別の話だけどね。
「なんかお前、態度とか話し方とか、だんだんユーマに似てきてねえか?」
「え、ホントにっ?」
なんだろう、少し嬉しい。
「あのボンクラのどこがいいんだか」
「むー、師匠はすっごい人なんだよ? 普段はエネルギーの消費を抑えてるだけでさ」
「物は言いようだな」
「あ、師匠のことで思ったんだけど、アルベルトが認定冒険者になったこと言わないほうがいいかも」
それを知れば、師匠のことだ。その権利を悪用してサボろうとするかもしれない。いや、間違いなくするだろう。
忠告に対しアルベルトも「言われるまでもない」と深く、深く頷いている。
「それじゃあ、行こうか。ごめんね、待たせちゃって」
「い、いえ。全然構いません」
ぞろぞろと移動を開始する、ボクたち4人。
アルベルトと並んで前を歩いていると、後ろから「あれが白銀狼……」「わずか数週間で、アルベルト先輩に並ぶほどの実力を認められた、超新星……」「「まじ、かっけえ!」」という会話が漏れ聞こえた。
……白銀狼って何のことだろう?




