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難易度ベリーハードの異世界生活  作者: 秋野 錦
第二章 帝都邂逅篇

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新たな出会い

 

 数日後のある日、薬草採取の依頼を受けた俺は、帝都の外にある森に足を運んでいた。

 帝都の外なので、魔物と遭遇する可能性がある。そのため、戦闘用の服装に身を包んで辺りを警戒している。


 黒の外套に、何本かのナイフを投擲用にとベルトに取り付けておく。

 そして愛用の小太刀を背中を通すように納め、両手にグローブを嵌める。

 これが俺の完全戦闘モードだ。


 この格好はパッと見では戦闘できるように見えない。

 武器が全て見えるところにないからだ。


 この世界では、防犯の意味を込めて武器を見せびらかすようにすることが多い。そんな中、この装備は戦闘用として珍しい部類と言える。

 これは、俺が暗殺専門に鍛えられた故に辿り着いた装備だ。

 正面から戦っても、勝てないやつには勝てない。

 自分の戦闘力が低いことを理解している俺は、このひねくれたとも言える装備を結構気に入っている。


「大体こんなものでいいかな」


 ギルドで預かった袋のほとんどが薬草で埋まる。そろそろ帰るとしよう。

 すでに夕方といえる時間帯だ。

 夜になれば、魔物が活発化する。これ以上、外にいるのも危険だろう。

 賢明な判断を下したつもりだったが……


「ちっ、もっと早く帰るべきだったか」


 その帰り道、俺は狼のような魔物・ヴルフに遭遇していた。夜行性のヴルフは時間帯さえ気にしておけば避けられる魔物だ。

 くそ、ゆっくりしすぎた。


 小太刀を構え、ヴルフを待ち受ける。

 まさに狼といった体躯のヴルフはうなりながらこちらを警戒している。


 すぐには飛び掛ってこない。

 ヴルフは集団で狩りを行う魔物だ。目の前には1匹しかいないが、周囲への警戒は怠れない。後方へと意識を動かしたその瞬間に、目の前のヴルフが飛び掛ってきた。


「ちっ」


 野生の感か、絶妙のタイミングで飛び込んできたヴルフに対応が遅れる。

 せめてもと小太刀を盾のように突き出し、ヴルフを向かえ討つ。

 鋭い犬歯が俺の足を噛み付かんと迫る。


 素早く足を引き、バックステップで距離をとりながら、腰のベルトから取り出したナイフをヴルフに向けて投げつける。


 ヒュッ……ザンッ!


 銀のナイフは空を噛んだヴルフの頭部に命中し、その命を絶つ。


「よしっ!」


 敵の増援を警戒しながら、ヴルフの頭部に深々と刺さったナイフを回収する。


「しかし、何でこいつは1匹だけだったんだ」


 ヴルフの習性を知るものからしたら、1匹だけで行動していたヴルフに疑問を覚えるのは当然だ。

 もしかしたら、こいつの狙いは俺じゃなかったのかもしれないな。


「だとすると、他に狙われているやつがいるかもしれないってことか……」


 その可能性に気付いた時、遠くで狼の遠吠えが聞こえた。

 間違いない。あれは……仲間を呼ぶ声だ。


 どうする……

 これ以上、遅い時間になれば俺も危険だ。それに、襲われているやつが自力でなんとかする可能性、そもそも襲われているのが杞憂である可能性もある。

 すぐにでも帝都に戻るのが賢い選択だろう。だが、俺は、


「これで後日、遺体でも見つかれば夢見が悪いからな……」


 誰にともなく言い訳のようなことを呟いて駆け出す。遠吠えの聞こえたほうを目指して。

 ああ、キャラじゃねえ。そんな風に自嘲しながら。




 足場の悪い森の中を走りながら、ようやくその人物を見つけた。

 あいつは……ギルドにいた新人の子か。

 見覚えのある銀髪に駆け寄る。


 新人の周りには大量のヴルフが群がっている。ヴルフは、新人の体力を少しずつ奪う作戦なのか、一気に攻めるようなことはせず少しずつ攻撃している。

 俺の接近にはまだ気付いていない、チャンスだ。 


「失せろワンコロ!」


 俺は大きな声を上げてヴルフの注意を引きながら、新人の元に駆け寄る。そのときにはすでに新人は肩で息をしており、俺の登場に驚きの表情を浮かべる。


「あんた……」

「質問は後だ、今は手を貸すっ! 切り抜けるぞ」


 飛び掛ってきたヴルフの1頭を小太刀で切り伏せながら叫ぶ。

 ヴルフと戦うときは、退路を確保しながら戦うのが鉄則だ。

 今のように囲まれてしまえば、身動きが取れなくなり、どんどん増えるヴルフにジリ貧に追い込まれてしまうからだ。

 俺はところどころ出血して満身創痍な新人と群がるヴルフの数を見て、やはりアレを使うことにした。


「おい新人っ! 伏せろ!」

「は、はいっ!」


 左手を振るう。

 ミリィが襲われていたときにも使った技だ。


 下準備はここに着いたときに既に完了している。

 周囲を木々に覆われたこのフィールドでは、この技が凶悪に機能する。


「喰らえ」


 『鋼糸術・天崩し』

 

 左手を握ると同時に、設置していた鋼糸に魔力を通す。

 四方に散らした鋼糸が木々を、大地を、ヴルフの群れを次々に切り裂いていく。

 そして……無残な死骸と倒れた木々だけが残る。


「うわっ、なにこれっ!」


 起き上がった新人が声を上げ、台風でも通り過ぎたのかという、辺りの惨状にはしゃぎ始める。


「いいから帝都に戻るぞ」


 お、思ったより……酷いことになった……

 久しぶりに広範囲に行ったため、予想以上に酷い有様になった周囲に冷や汗を流しながら帝都への道を急ぐ。


 新人はたびたび、「どうやったの?」だの「ボクにも教えてくれ」だのと言いながら付いて来る。

 俺はそれらの言葉を全て聞き流して、帝都に戻った。

 帝都に戻ってしまえばもう魔物の危険はない、俺は新人の方を向いて、らしくもなく説教を始めた。


「ヴルフは際限なく沸いてくる。あんな視界の悪いところで交戦するのはあまり利口じゃない。そもそも、魔物の活動時間と生息地域を確認してだな……」


 新人は俺の言葉を素直に聞いていた。


「……分かったか?」

「うん、決めた!」


 新人は意を決したように頷いてから大声で宣言した。


「ボクは兄ちゃんの弟子になる!」


 ……はい?



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