70.その企みは全て主の為に
クロは無表情のまま伸びた蛇腹剣を引き寄せ、再び振るう。
それがウィルの問いに対する返事だった。
「ちぃ!」
鞭のように上下左右から襲い掛かる蛇腹剣を弾きながらウィルは少しずつ間合いを詰めていく。
そして外側を警戒していたアルベルト達もクロの奇襲により敵と判断し、直ぐに迎撃態勢を取った。
とは言っても、状況が判断し辛いので倒すと言いうより確保する方向で動いた。
もしかしたら操られているとか何か事情があるとかの可能性もあるからだ。
「ふっ!」
クロは蛇腹剣を巧みに操りウィルを退けながら縛ろうとしていたアラキネの蜘蛛の糸を切っていく。
アルベルトは最近使えるようになったハルバートに秘められた力を解放して振り降ろしの一撃を放つ。
その一撃は衝撃波となってクロへ襲い掛かるも、蛇腹剣を元の剣状態に戻し衝撃波を斬り裂く。
ウィルは蛇腹剣を引き寄せた際に間合いを詰めようとしたが、クロが衝撃波を斬り裂くさまを見ては思わず足を止めた。
アルベルトが放った衝撃波はそう簡単に打ち消せるほど弱い訳じゃない。
本人もよく分かってないが、アルベルトがハルバードは神槍と呼ばれるグングニルと雷斧と呼ばれるゼウスケラウノスを融合した2つの伝説級の力を持っているのだ。
そのハルバードから放たれる衝撃波は並みの冒険者なら防ぐことすら敵わない。
もし防ぐことが出来るのならその蛇腹剣が並みの武器じゃないか、防いだクロが並みの冒険者じゃないか。或いはその両方か。
「貴女・・・クロじゃないわね」
そして動揺を落ち着かせクロの真意を探ろうと伺っていたデュオがその様子を見てクロじゃないと気が付いた。
そして当の本人も隠すつもりはないのかあっさりとその正体を現した。
「あは♪ あっさりバレちゃった♪ そうでーす。貴方の親愛なる隣人・The Hermitことレンヒットちゃんでーす」
「なっ!? The Hermitだと!? 爺さんを狙ってたんじゃないのか!?」
「あっれー? あたしは謎のジジイの首は取るって言ったけど、こっちは狙わないって言ってないわよー?」
確かにデュオはThe Hermitは謎のジジイを狙うからこちらに向かってくる可能性は低いとは言った。
が、あくまで可能性が低いのであって皆無ではないのだ。
「ごめん、あたしのミスだわ。こっちを襲う可能性ももっと考慮しておくべきだったわ」
「いえ、それよりも・・・The Hermitがクロさんに化けていたと言う事は、クロさん本人は何処に行ったのでしょうか?」
ルーナに指摘され、今更ながらにデュオとウィルはその事に気が付いた。
それ程あまりにも自然にクロが居るように見えたのだ。
「うーん、クロなら今頃地面の中で安らかに眠っているんじゃないのかな? 昨日の夜から♪」
「・・・ちょっと待って、それじゃあ昨日の会話は・・・」
「うん、それあたし♪ どう? クロっぽかったでしょ?」
「てめぇ・・・!」
「Hermit!!」
昨日の夜、眠れないと言ってデュオ達に話しかけてきたクロは実はレンヒットの変装で、当の本人はその時には既に死んでいたと言う事だ。
そしてそれはその気になればレンヒットはデュオ達を暗殺する事が可能だったと言う事でもある。
その事実にデュオ達はレンヒットに舐められたと言う事と、クロが殺されたことに気が付かなかった自分たちに怒りを顕わにする。
「うふふ♪ それじゃあ遊びは終わり。
――これからは本気で行こう」
陽気なレンヒットの口調から暗殺者モードのThe Hermitの口調に変化する。
そして暗殺者に相応しくない殺気を撒き散らしながらThe Hermitは手にした蛇腹剣を振るう。
「無弦モード」
トリニティの蛇腹剣のギミックの内の1つ。本来なら分割された剣の刃が1本の弦によって結ばれる蛇腹剣だが、この無弦モードは弦を無しに分割された刃が自在に宙を舞う。
もしこの場にアイリスが残っていればファ○ネルかドラグ○ンと言っていたかもしれない。
「くそっ! マジでThe Hermitか!」
The Hermitはクロの姿をしたまま攻撃をしてきている。
ウィルとしては実はクロが操られていた可能性を期待したが、この蛇腹剣のギミックはトリニティが持っていた蛇腹剣だ。
それがどういう経緯かThe Hermitに渡った話は聞いている。
なればこそ、目の前のクロは間違いなくThe Hermitだろう。
「ルーナは下がって」
デュオはルーナをブルックに乗せ、The Hermitの反対側に下がらせる。
自由自在に襲い掛かる刃を弾きながらウィルはどうにかして近づこうとしているが、The Hermitの攻撃は何も蛇腹剣だけじゃない。
時折目に見えない透明な10cmもの針を飛ばしてくるのだ。
そして魔法すらも飛んでくる。
「ブラックニードル」
こちらは闇属性魔法で、闇の針を飛ばす魔法だ。
蛇腹剣の無弦モード、透明の針、闇の針。徹底した距離を取った攻撃でウィルは近づく事すら出来なかった。
だがウィルとしても黙ってやられっぱなしと言う訳じゃない。
1人で戦っているなら兎も角、今はデュオやアルベルト、アラキネが居るのだ。
アラキネは斬られるのを承知で蜘蛛の糸を飛ばし蛇腹剣のリソースをそちらへと大きく奪う。
アルベルトもハルバードの衝撃波を断続的に放ち、ウィルが攻め込むための遠隔攻撃の隙間を作ろうと頑張っている。
そして何よりもこれまで長年共に戦ってきたデュオの魔法の援護がウィルを助ける。
「シャイニングフェザー!」
数で押してくるのならこちらも数で。光属性魔法の無数の光輝く羽がThe Hermitの放つ3種の攻撃を迎撃していく。
「ゲヘナストーン!」
そして土属性魔法による六角柱の大質量の一撃がThe Hermitを襲う。
無論、The Hermitはその一撃を難なく躱すが、躱した先には待ち構えていたウィルが居た。
「スラッシュインパクト!」
ウィルの一撃は見事The Hermitを上下に分断した。
が、ウィルはすぐさま踵を返しその場から離れる。
ウィルがさっきまで居た場所に土属性魔法で作られた杭――キャノンスパイクが生えていた。
「よく気が付いた」
地面に突き刺さったゲヘナストーンの先にThe Hermitが佇んでいた。
その姿はクロの姿ではなく、これまで見慣れていたレンヒットの姿をしていた。
但し格好は露出部分は多いものの黒で統一された暗殺者スタイルだった。
どちらかと言うとくノ一に近いか。
「手応えが妙だったからな」
実際に斬った感触は間違いなく人の物だったが、ウィルはその中に僅かながらに手応えが均一すぎる事に気が付いたのだ。
「影法師。我の分身を作る技だ。無論我と同等の実体のある分身だ」
そう言うとゲヘナストーンの上に立つThe Hermitの真下に同じような姿のもう1人のThe Hermitが現れた。
「分身の術!?」
The Hermit本人と影法師は無言のままデュオ達に襲い掛かる。
流石にThe Hermitと同等の力を持つと言うだけあって影法師の攻撃はかなり厄介だった。
但し特殊ギミックが組まれた蛇腹剣までは模倣できなかったようで、影法師の持つ蛇腹剣は普通のものだったが、それでも影法師の攻撃は的確にデュオ達を追い詰める。
「くそ、自分の分身だけあって連携がハンパねぇ」
「うーん、こっちは急ごしらえのパーティーだからね。連携も練度が低いのはしょうがないよ」
この中で一番新参とも言えるアラキネがそれでも何とかするしかないと言いながら蜘蛛の糸を飛ばし的確にウィルとアルベルトを援護していた。
「ボルティック・グラヴィティスラッシュ!」
アルベルトがハルバートの雷斧の力を解放し、雷を纏わせた一撃を斧戦技で放つ。
その一撃は重力を伴った雷が地面を抉りながら影法師へと迫る。
影法師は迫りくる雷には気にも止めはせず無表情のまま蛇腹剣を振るい、戦技を放ったアルベルトの側面から穿つように狙う。
アルベルトは技後硬直により影法師の蛇腹剣を交わせそうになかったが、そこはアラキネのサポートにより糸で引っ張られ辛うじて直撃を免れる。
そして影法師を狙っていた雷はThe Hermitが無弦モードで飛翔する蛇腹剣を次々と雷にぶつけ、そのまま地面へと刃を突き立て避雷針代わりにしてやり過ごされていた。
「レーザーキャノン!」
デュオの放つ光属性の閃光がThe Hermitを狙う。
無弦モードの蛇腹剣がアルベルトの雷に捉われている隙を狙い、守りが薄くなった隙間を狙っての一撃だ。
その一撃は見事にThe Hermitの右肩を貫いた。
「ち・・・」
そしてその隙を逃すウィルは逃さなかった。
このパーティーでの連携はまだ未熟なれど、デュオとの連携は阿吽の呼吸で会わせることが出来るのだ。
デュオが放つ一撃に合わせてウィルは多少の傷がつくのも構わずに強引に間合いを詰めていた。
「スラッシュインパクト!」
2度目のスラッシュインパクトは見事にThe Hermitの体を斜めに斬り裂く。
しかしウィルは手応えがさっきと変わらない事に気が付いた。
そして今度の狙いはウィルではなく、デュオだった。
「デュオ! 離れろ!」
ウィルの警告を聞くまでも無く、デュオは背後に現れた気配に振り向きもせずにチャージアイテムの卵の十冠からストーンウォールを放ち慌ててその場から離れた。
ストーンウォールが間一髪で間に合い、無弦モードの刃がガガガとストーンウォールに阻まれていた。
「ちっ、影法師は1体だけじゃないのか」
そう、ウィルが斬ったThe Hermitは影法師で、影法師を斬る前にデュオの背後にThe Hermitが現れていたのだ。
当然その間にもアルベルトがもう1体の影法師を相手にしていたのでこの場には影法師が2体居たことになるのだ。
「1体だけだと誰が言った?」
The Hermitの言葉に背後からもう1体の影法師が、ウィルが斬った影法師の影からも1体の影法師が、そしてアルベルトを挟むようにもう1体の影法師が現れた。
「「「「光あるところに影があり。影の数は無限なり」」」」
「こりゃあ、ちょっと厄介だな」
The Hermit本体と3体もの影法師に囲まれ流石にウィルも状況が悪い事に焦りを感じていた。
The Hermitの先程の言葉を信じるのなら影法師は幾らでも生み出せると言う事なのだから。
「皆、フォーメーションLよ!」
だがデュオは冷静に、決して慌てず皆に指示を出す。
とは言え、フォーメーションLは誰も聞いた事も無かった。デュオの咄嗟の判断だった。
事前に打ち合わせをしていた作戦はクロに変装したThe Hermitに聞かれているのだ。当然その作戦は使えない。
デュオはウィルなら自分の作戦を読み取り適切な行動をしてくれると信じていた。
そして悪態をつきながらもウィルを慕うアルベルトも、ウィルの行動に習ってくれると。
アラキネに関してはこれは賭けでもあった。
僅かな間ではあるがウィルと行動を共にしていたのだ。そこから読み取ってもらうしかない。
デュオの掛け声と共にウィルが何の躊躇いも無く行動に移る。
一瞬の熟考のあと、アルベルトとアラキネもウィルに続いて行動に移した。
The Hermitはデュオの出した作戦に一瞬の戸惑いを感じ、その隙がデュオ達に反撃の隙を与えた。
ウィル達が移動した先はルーナだった。
そしてデュオの狙いが広範囲魔法だと言う事に気が付いた。
守りを1点に固め、味方を巻き込まないように影法師たちを殲滅しようとしているのだ。
慌ててそれを阻止しようと動こうとしたが、一瞬の戸惑いが全ての影法師を含むThe Hermitをアラキネの蜘蛛の糸が絡め取り動きを封じる。
その隙にウィル達はルーナを中心に陣形を整え、デュオは待ってましたとばかりに唱えていた呪文を解き放つ。
「アースシェイカー・ロックブレイク!」
デュオ達を中心に、放射状に次々と地面が大岩を隆起させThe Hermit達を押し潰していく。
そしてデュオは続けざまにもう1つの魔法を放つ。
相手は日曜創造神に仕えし神秘界の騎士だ。これで終わるのなら苦労は無いからだ。
「ダイヤモンドダスト・ミラーレーザー!」
周囲の空気が凍り、ダイヤモンドダストが煌めく。
凍り弾けた空気がThe Hermit達を襲い、煌めく氷の破片に光属性のレーザーキャノンが乱反射し次々と周囲を貫いていく。
「・・・やったか?」
「・・・ウィル、それ、やってないフラグよ」
乱反射によるレーザーとダイヤモンドダストが立ち込めた空気が晴れ、デュオ達の目の前には隆起した大岩が無数に生えている光景が広がっていた。
そしてその数ある大岩の1つにThe Hermitがただ1人立っていた。
但し全くの無傷とはいかなかったみたいだ。
「・・・少々デュオの実力を甘く見ていたようだ。まさかここまで見境なく広範囲に破壊を撒き散らすとは。
いいだろう。ここは一度引こう。だが次は無いと思え」
The Hermitはそう言って闇属性魔法のダークミストを放ち周囲に闇の霧を生み出した。
「あ、霧に紛れて逃げるだか!」
アルベルトが慌てて立ち込めた闇の霧に突っ込もうとするが、ウィルがそれを止める。
「待て待て待て。無闇に突っ込むな。逃げるように見せかけ待ち伏せしている可能性もあるんだ。ここは視界を確保してから行動するんだよ」
ウィルの言葉に応える様に、デュオが闇の霧を吹き飛ばす魔法を放つ。
「ウインドブレス!」
デュオを中心に巻き起こす強風が闇の霧を散らす。
そしてそこには既にThe Hermitの姿は無かった。
言葉の宣言通りこの場を引き上げたようだ。
「周囲に糸を飛ばしてみたけど間違いなく居ないわね」
アラキネも探索用に蜘蛛の糸を飛ばし反応が無いため間違いなく撤退したと告げる。
「ち、マジで引いたのかよ。何か腑に落ちないな」
ウィルも気配探知で周囲を探っていたが本当に居ない事に些か信じられずにいた。
尤もThe Hermitの隠蔽がウィルの気配探知を上回っていれば見つけることは敵わないが。
そしてデュオもウィルと同じく素直にThe Hermitが引いた事を信じられずにいた。
何よりも疑問なのが、引き際にダークミストを唱えた事だ。
これまでThe Hermitがデュオ達の前から居なくなるときは唐突に消えるのだ。
それが何故今回はダークミストを使ってまで。
「取り敢えず居なくなったのは間違いないんだから、作業の続き・・・ってこりゃあ酷いわね。魔法陣の魔の字もないわ」
流石に大岩が隆起した状態では折角書いた魔法陣は無事とは言えなかった。
また最初からやり直しだろう。
「こうしてみると爺さんも苦労してたんだな・・・」
「じっちゃんも何回も襲われて書き直したって言ってだな」
ウィルとアルベルトは謎のジジイも同じように何度も書き直していたことを思いだし、決して諦めずに何度も書き直していた謎のジジイに感心していた。
ウィル達は早速作業に取り掛かろうと行動を開始したが、デュオだけはまだThe Hermitの最後の行動を考えていた。
「ブルッ! ブルルッ! ガフゥッ!」
そんな中、唐突にブルックが暴れ出した。
いや、唐突にではない。The Hermitが撤退したあたりから落ち着かずに足踏みや身震いを何度も繰り返していたのだ。
それがここに来てより顕著に現れ出したのだ。
「ブルック、落ち着いてください! 何をそんなに怯えているのですか?」
ブルックの背に乗ったルーナは必死に落ち着かせようと宥めるが、何故かルーナが必死に話しかければかけるほど暴れ出す。
その動きはまるでロデオのように上下に揺さぶられる。
ウィル達も慌ててブルックを抑えようとするも邪魔をするなとばかりに暴れ出す。
特にアルベルトはブルックの背に乗ったルーナを心配して自らが傷つくのも厭わずに必死になってブルックを抑え込もうとする。
だがアルベルトの奮戦も空しく、ルーナはブルックの背から落とされ地面へと叩き付けられた。
「あぐっ!」
「ルーナ様!」
アルベルトが慌てて駆け寄ろうとするも、何故かブルックがそれを遮り頭にある青水晶の角をルーナへと突き付けた。
「な、何をするだ、ブルック! 止めるだ、ルーナ様に何をするだ!」
「や、止めてください、ブルック。正気に戻って下さい」
このままではルーナが傷つけられてしまうと焦ったアルベルトはハルバードを掲げブルックを攻撃しようとした。
流石にそれはマズイとウィルはアルベルトを止め、代わりにアラキネは糸を使いブルックを縛り上げようとする。
「待って」
アラキネがブルックに糸を伸ばそうとするが、デュオがそれを止めた。
デュオの言葉にアラキネやウィルは訝しむ。そして当然アルベルトは何故止めるのかとデュオに抗議する。
「何故止めるだ! このままじゃルーナ様が傷つけられてしまうだ!」
「待って」
それでも尚、デュオは止める。
その間にもブルックは青水晶の角をルーナに向け警戒していた。
「貴女・・・ルーナじゃないわね」
その言葉にウィル達は驚きを顕わにする。
「なっ!?」
「デュオ、何を言っているだ!?」
「なるほど、そう言う事ね」
そしてデュオの言葉を肯定するかのように途端にルーナの表情が無になった。
「よく分かったな。この影真似は寸分たがわず本人に化けるものだが」
ルーナの顔、ルーナの声で淡々と話すその口調はThe Hermitのものだった。
「姿形は真似ても中身が別物じゃ最終的にはバレるわよ。特に野生の勘は馬鹿にしたものじゃないわ」
そう言ってデュオはいち早くルーナが偽物だと気が付いたブルックを見る。
ルーナに化けたThe Hermitは同じくブルックを見ては納得した顔をしていた。
「で、ルーナは何処?」
「言った筈。全ては我は主の為に。
あの永遠の巫女は我が主が望む者。それ故に我が本体が既に主へと届けに向かっている」
「本体って事は・・・ここに居るのは影法師か!」
「た・た・大変だべ! ルーナ様が攫われただ! 早く助けに行かないなと!」
ここに来てルーナが攫われたことに気が付いたアルベルトは大いに慌てた。
なりふり構わずに今すぐにでも向かおうとするアルベルトをアラキネが蜘蛛の糸で強引に縛り上げ取り敢えず落ち着かせる。
「放せー! 放すだー! オラはルーナ様を助けに行くだー! ルーナ様ー! ルーナ様―――!!」
「落ち着きなさい。そんなに慌ててちゃ助けられるものも助けられないわよ!」
デュオはアルベルトをアラキネに任せ、影法師にルーナの行き先を改めて尋ねる。
「貴女の主って確か・・・」
「日曜創造神・日輪陽菜様だ」
「って事は、ルーナは日曜都市に連れて行かれたか」
「お前たち如きに我が主に敵うまい。それどころか主の元に辿り着く事すらないだろう。
精々足掻くといい」
そう言ってルーナに化けた影法師は溶ける様にして消えた。
「迂闊だったわ・・・確かにルーナは八天創造神の誰かに狙われていたわ。もっと気を付けておくべきだったのに」
デュオは天と地を支える世界でThe Worldがルーナを狙っていたことを思い出していた。
The Worldは八天創造神の誰かに命じられルーナの不老不死を狙っていたことを。
「狙いはルーナの不老不死か」
「お爺ちゃんじゃなくこっちを狙ってきたのもルーナを見つけたからね。
おまけにこのパーティーに紛れやすいようにクロが居たってのも付け狙う要素になったのかもね」
今にして思えば、クロの全身黒ずくめの暗殺者の格好はThe Hermitがクロに目を逸らす為だけではなく、いざと言う時にクロに扮して『AliveOut』の内部に紛れ込むためでもあったと言う事だろう。
「一刻も早くルーナを取り返さないと」
「分かっているわ。敵が不老不死を手に入れればあたし達に勝ち目はないからね」
ルーナを手に入れたとしても、一朝一夕で不老不死を解析できるようなものではないだろうが、それでも急ぐこと越したことはない。
そして何よりもアルベルトを落ち着かせるためにも早急に日曜都市に向かう必要があった。
だが、今すぐに向かう事は出来なかった。
「その前に、魔法陣を完成させないと」
そう、ここに来た目的は異世界人が異世界から強制召喚されるのを防ぐための魔法陣を刻むためだ。
アルベルトの心情的に異世界人よりもルーナが大切だろうが、これを無視していくわけにもいかない。
「作業はどれくらいかかる?」
「普通なら2時間だけど、1時間・・・いえ30分で終わらせるわ」
「分かった。日曜都市に向かう準備は任せておけ」
デュオが30分で書くと言えばウィルはそれを信じて直ぐにでも日曜都市に向かえるように準備を整えることにする。
アラキネには申し訳ないが今にでも突進しそうなアルベルトを抑えててもらう。
デュオは直ぐに作業を開始し、まずは地面を均すことから始める。
デュオとてルーナを心配していないわけではない。だが今は自分が出来ることをしなければならない。
焦る気持ちを抑えてデュオは魔法陣を刻む作業を開始する。
――ルーナ、どうか無事でいて――
次回更新は2/26になります。




