63.その強欲は世界を望む
「ファイヤーアロー!」
小手調べに放ったデュオの炎の矢がジャクスを襲う。
だがジャクスは防御の素振りすら見せず為すが儘に炎の矢を体で受け止める。
だが予想通りと言うか、着弾の炎が消えるとそこには全くの無傷のジャクスが立っていた。
「無駄ですよ。僕には貴女方の攻撃は一切効きません。大人しく降伏して罪を認めた方がまだ数日は生きられますよ」
「ふぅん・・・あたし達が悪で貴方が正義の執行者だから攻撃は一切効かない、だったっけ? で、ちょっと疑問に思ったんだけど、その悪と言うは誰が決めた事なのかしら」
「・・・? 言っている意味が分かりません。僕が悪と決めたなら悪なのですよ」
「貴方が悪と決めたならね」
デュオはジャクスのこれまでの言葉一つ一つを頭の中で反芻しながら攻略を練っていく。
流石に全くの無傷だったジャクスに戸惑いを隠せないアイリスとミュリアリアはデュオへ詰め寄っていく。
「ちょっとデュオ、どうするのよ。あれ完全に無敵モードじゃない。あそこまで啖呵切ったなら勝てるんでしょうね」
「勿論。いい、アイリス。物事には絶対ってないのよ。あのジャクスにも攻略方法はあるわ。アイリス達は勘違いしているみたいだけど、何も勝敗を決めるのは武力だけじゃないのよ」
「どういう事ニー?」
ジャクスは力無き正義は無力の言葉に従って力を示せとこの善悪の判決による決闘を始めたのだ。
その為には力――武力を示さなければならないのだが、デュオはそうじゃないと言う。
その答えに先に辿り着いたのはベルザだった。
「なるほどね。武力による攻撃は今の通り通じない。一見勝ち目が無いように見えるけど、武力とは別にジャクスに通じるものがある。それは言葉ね」
「言葉って・・・何? 口喧嘩による精神攻撃でもしようって言うの?」
「違うって言いたいけど、うーん、あながち間違ってないのかな?
つまりあたしが言いたいのはジャクスの認識=正義の書だから上手くその隙を突こうって事なの」
正義の書はこの金曜都市を支配するルールを記載しているが、そのルールの主観はジャクスによるものである。
先程の正義の執行者には悪の攻撃が効かないと言うルールを見せつけられたわけだが、ジャクスがデュオ達を悪と認識しているからだ。
もしジャクスがデュオ達を悪と思わなければ、正義の書のルールには引っかからないことになる。
「言われてみれば確かに正義や悪の定義はあのジャクスが全部決めているわね。書いた本人の認識が変わればルールも変わる。なるほどね」
「でも暴力行為を禁ずるとか絶対変えられないルールもあるから気を付けないといけないニー」
「ま、その辺は上手く言いくるめれればこっちにも有利に働くわよ。例えばジャクスの言い方をすれば『これは正義の裁きであって暴力ではありません』ってね」
「うわぁ、デュオよくそんな事思いつくわね。こういうのって異世界人が思いつきそうなことなのに・・・デュオってもしかして結構黒い?」
どちらかと言うとこういった事は異世界ではよくある話で異世界人が思いつきそうなのだが、思ったよりも異世界人よりも黒かったデュオにアイリスは少し引いていた。
そんな風に聞かれない様に作戦を立てているデュオ達をジャクスは余裕の表情で待ち構えていた。
先程まで自分が正義だと喚いていたのが嘘のようだ。
それ程までに正義の書による正義の執行者に絶対の自信を持っているのだろう。
「好きなだけ作戦を練って下さいと言いたいところですが、何時までもこうして時間を無駄にするわけにもいきません。
もしよろしければこちらから攻撃させてもらいますよ」
ジャクスは呪文を唱えデュオ達に向けて魔法を放つ。
「サンダーストーム!」
「マテリアルシェル!」
だがベルザの唱えた魔法――古式魔法による半球状の防御壁により、ジャクスの放った雷の嵐を防ぐ。
見たことの無い防御魔法に驚きつつもジャクスは次なる魔法を放つため呪文を唱える。
「デュオちゃん、ジャクスの攻撃は私達で受け持つからデュオちゃんはジャクスの説得に集中して頂戴」
「分かったわ」
デュオはベルザ達に防御を任せ、無防備にジャクスの前に躍り出る。
ジャクスはそんなデュオ目掛けて魔法を放つもベルザ達の援護により攻撃を一切受けることが無くジャクスの前に到達する。
ジャクスはデュオの行動に不審に思いながらも距離を取ろうと後方へ下がろうとするが、デュオの言葉により思わずたたらを踏む。
「あら、正義の執行者なのに逃げるのかしら?」
「逃げてなんかいない!」
「じゃあ、あたしが目の前に立っても大丈夫よね?」
「あ・当たり前だ!」
「流石、正義の執行者。
・・・ね、ジャクスは常々正義って言うけど、ジャクスにとっての正義って何?」
「何を言うかと思えば・・・正義は正しきことを行う者です。弱きを助け強きを挫く。弱者に救いの手を差し伸べ強者には毅然とした態度で臨むのが正義ですよ」
「ぷっ」
その言葉にデュオは思わず吹き出してしまう。
それを見たジャクスは自分の正義が馬鹿にされたと思い怒りを顕わにする。
「僕の正義を馬鹿にしているのですか!?」
「いや、だって、貴方の言う正義って全然実行できていないじゃないの」
「そんな事とはない! その証拠に僕の正義によってこの都市の平和は保たれています!」
「これの何処が?」
デュオはこの善悪の判決を見に来ている金曜都市の住人を見渡してそう呟く。
闘技場の観客席に居る住人はまばらで、その表情は殆んどが昏い表情をしていた。
「地下牢に閉じ込められてたから都市内の様子は見たことないけど、この観客席に居る住人の顔を見れば活気があるように見えないわね」
逆にこの一方的な裁判を喜んで見ているようであればそれはそれで住民の質が問われるので、ジャクスの正義とはかけ離れていると指摘できるのでデュオにとってはどちらでも良かったわけだが。
だがこの指摘にジャクスは少しばかり顔を歪めた。
どうやら自分でも僅かばかりに疑問を抱いていたようだ。
「それに弱きを助け強きを挫くって、「自分の言う事を聞け」「逆らう奴は容赦しない」なんて言う人に言われたくないわね。
この都市の平和って正義による平和じゃなく、強権による偽りの平和じゃない」
「そ、そんな事ありません。そうやって僕を誑かそうったってそうはいきません」
先程までと違って言葉に力が無くたどたどしくなりながらもデュオを排除しようと魔法を放つも、後方より援護しているベルザ達に阻まれる。
「ねぇ、貴方が本当に正義を行うのなら真っ先に立ち向かわなければならない悪がいるのに貴方は何故その悪を許しているの?」
「・・・何の事ですか?」
「貴方も気が付いているでしょ。貴方にとって一番の悪は金曜創造神よ。
挨拶にもあった「俺が正義だと言えば正義だし、悪だと言えば悪になる」って誰がどう見たって完全独裁者で悪じゃないの」
「・・・そんな事はありません。小金井様は神ですよ。神に逆らうなんて悪のすることじゃないですか」
「神は神でも邪神ね。そして貴方はその邪神にいいように使われている邪神の手先ね」
ジャクスはデュオの言葉に怒りの表情を見せるも、これまでと違って否定する言葉を発しなかった。
その様子にデュオは少し手応えがあった事に安堵し、更なる追撃に出る。
「そして金曜創造神――小金井は貴方の自己満足だけの正義を利用して神秘界の騎士の力を振るっているのよ。
つまり小金井に正義は無い。貴方は小金井のただの駒」
「・・・違う。僕の正義は自己満足じゃないし、小金井様は僕の正義に共感して共に正義を目指してくれている。それに神の配下が神の駒なのは当たり前じゃないですか」
ジャクスは絞り出すように言葉を口にするが、その表情は悔しさが滲んでいた。
デュオの指摘もまた間違っていない事を理解してしまっていたからだ。
「違わないわよ。でもそうね、貴方の正義が自己満足の為だけに成り下がっているのも、小金井が貴方を利用しているのも全ては貴方の神秘界の騎士としての能力の所為ね。
もし貴方が正しいと言うのならそれを証明する方法があるわ。貴方の正義を貫く覚悟があればね」
その言葉にジャクスはハッと顔を上げる。
デュオの言う正義の証明は何のしがらみも無い状態で正義を実行しろと言う事だ。
そしてジャクスにその覚悟があるかとデュオは問うたのだ。
ジャクスは熟考し、どうするか答えを探す。
だがそれに待ったをかける人物が居た。
「おいおいおい。俺の可愛いジャクスをこれ以上虐めないで欲しいな。
この善悪の判決はジャクスに一任していたが、これ以上変な事を吹き込んでジャクスを使い物にならなくなるようにするのは避けたいんでな。
悪いがこの場はここからは俺が仕切る。ジャクス、お前はもう下がれ。少し頭を冷やしてどうすれば一番いいのか考えな」
デュオとジャクスのやり取りを邪魔したのは観客席から降り立った小金井だった。
流石にこれ以上のジャクスへの干渉を見過ごせなかったのか、まさかの八天創造神の降臨だった。
「ちょっと、この善悪の判決は部外者の乱入も認める訳? それって公平な判決にならないんじゃないのかしら」
元々力を証明するための善悪の判決なので公平も何もあったものじゃないが、流石にこの乱入は看過できるものではないのでデュオは抗議の声を上げる。
「いいんだよ。俺は神だからな。そしてこの金曜都市の支配者でもある。正義の書にも書いてあるぜ? 支配者の命令には絶対服従ってな」
「何が神よ。あんたはアイリス達と同じただの異世界人じゃないの。この世界を異世界の技術で作り上げただけのただの人間よ。
そんな奴がこの都市の支配者だって? 笑わせないで。貴方のやっている事は強欲を満たす為だけのただの独裁者よ」
「へぇー、いい度胸をしているじゃないか。さっきも言ったが、今のお前は俺の命令1つで何でも言う事を聞く状態なんだぜ? そこんところ分かってんのか?」
それでもデュオは態度を崩さない。
毅然とした態度で小金井を見つめ、そしてジャクスを見つめる。
デュオのその態度が気に障ったのか、小金井は苛立ちを募らせデュオをどう辱めようか考える。
その一方、同じようにデュオに見つめられたジャクスは自分の心を見透かされたかのように感じ、決断を下す。
「小金井様、待って下さい」
「あ? まだ居たのか。早く下がれよ」
デュオの態度に加え、駒としてのジャクスの態度にもイラつきながら下がるように命令するが、ジャクスは下がらずに小金井に問いかける。
小金井はこの時気が付くべきだった。支配者であるはずの自分の命令がジャクスに届かなかった事を。
デュオの揺さぶりにより、正義の書に書かれている支配者が、ジャクスの認識が別の者に変わっていたことを。
「小金井様、1つだけ答えてください。僕は貴方の駒ですか?」
「こいつの言う事を真に受けるなよ。お前は俺の大切な仲間だ。これ以上下らない事を言うならお仕置きだけじゃ済まないぜ」
仲間と言いつつもどこか見下した態度だと言う事に気が付かない小金井は、ジャクスの変化にも気が付かずにその行為を許してしまった。
「これでも仲間と言ってくれますか?」
そう言いながらジャクスは腰に下げていた正義の書を両手に持ち、真っ二つに引き裂いた。
無論そんな事をすれば正義の書の効力は消えて無くなり、金曜都市を覆っていた正義の書のルールもきれいさっぱり無くなってしまう。
「――なっ! てめぇっ! 何てことしやがる! そんなことすればお前の存在意義も無くなるんだぞ!」
ジャクスの神秘界の騎士としての能力は全て正義の書に集約されており、小金井の言う通り正義の書の無いジャクスは最早ただのアルカディア人と同じ存在に成り下がる。
だがジャクスはデュオの言う通り、正義の書の力を借りない正義を行う。その覚悟を決めたのだ。
小金井はそんなジャクスの行為を信じられない面持ちで見ていた。
「さあ、小金井様、証明してください。小金井様の正義を。その覚悟を以って」
「何を言ってやがる。正義? んなもん勝ったもんが正義に決まっているだろ。何でわざわざてめぇの正義に合わせなきゃならねぇんだよ。
てめぇに合わせていたのは正義の書があったからに決まっているだろ。正義の書が無いてめぇはただの生意気なガキだよ」
一縷の望みを期して小金井に覚悟を迫ったジャクスだったが、その望みはバッサリと切り捨てられた。
分かっていたこととは言え、ジャクスはショックを隠せずに項垂れる。
「あー、くそ。これまでの仕込が全部パァだよ。ったくどうしてくれる、俺の世界を支配すると言う望みはよぉ」
「大それた望みね。たかが一人間の分際で世界を支配するなんて傲慢よ。あたしは寧ろこれで良かったと思うわよ?」
「かっ、これだからいい子ちゃんはよ。
取り敢えずまずはてめぇらで憂さ晴らしをさせてもらうぜ」
ジャクスを上手く誘導しここまで上手くいっていた支配力を台無しにしたデュオ達に小金井は敵意を向ける。
上手くいっていただけにこの失敗は面白くなく、少しでも暴れまわらなければ気が収まらないのだ。
「それはこっちのセリフよ。
あんた達の所為でクオを失う事になったんだからその落とし前を付けさせてもらうわよ」
デュオも負けじと劣らず、小金井を敵意を向け戦闘態勢を取る。
後方のベルザ達もその様子に素早くデュオの左右後ろに陣形を展開する。
「ああ? 何の事だ? まぁいい、やろうってなら覚悟しておきな。この【神秘】を司る創造神様の力を見せてやるぜ」
「【神秘】を司る?」
「この世界を作ったのは俺達八天創造神だ。その中で俺は魔法やら戦技やらマジックアイテム等の【神秘】の力を創造した神だ。
つまり俺は全ての魔法・戦技・マジックアイテムの力を使う事が出来るってわけだ!」
「へぇ~・・・それは怖いわね」
確かに小金井の言う事が本当ならそれはそれで脅威だ。
だがデュオは何故だか小金井にそれ程脅威を感じてはいなかった。
寧ろそこら辺のC級冒険者の実力程度ではないかと感じていた。いや、下手をすればE級すらも下回るのではないかと。
「ふん、ジャクスの代わりにお前らが下に着くのなら命ばかりは助けてやってもいいぜ!」
そんな気は更々無いくせにお約束のセリフを吐いてデュオ達に襲い掛かる小金井。
そしてそれを迎え撃つデュオ達。
デュオの母の想いVS小金井の憂さ晴らしが幕を切る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結果を見ればデュオ達の圧勝だった。
デュオの感じたとおり、小金井の実力はC級冒険者程度でしかなかった。
全ての戦技・魔法・マジックアイテムの力を持つ【神秘】の能力があるとは言え、小金井はそれを使いこなせるだけの実力が無かったのだ。
そして同じ全ての魔法を使う事の出来る大賢神ベルザと比べればその実力には大きな開きがあった。
ベルザも大きなブランクがあるとは言え、これまでの培った経験が大賢神の力を十全に奮う事が出来、小金井の拙い【神秘】の行使に打ち勝つことが出来たのだ。
「八天創造神って言っても大したことないわね。これだったらまだ神秘界の騎士の方がまだマシよ」
「アイリスちゃんそれは言い過ぎよ。全ての八天創造神がこの小金井みたいなわけないじゃない。
えっと、エレナーデさんって人の話じゃ日曜創造神は別格って言うじゃないの」
「この小金井を見るとそんな風には思えないけどねぇ・・・まぁいいわ。あたしは異世界に帰れればそれでいいし」
その小金井は自らが生み出した【神秘】封じのロープにより縛られ地面に転がされていた。
悔しさに顔を滲ませデュオ達を睨みつけてはいるものの、勝者には従うのか今は大人しくしていた。
「さて、まずはクオの恨みの一発、入れさせてもらうわよ」
「ちょ、ちょっと待てよ! お前、散々俺を凹り回したくせにまだそれを根に持つのかよ!
つーか、クオの恨みって何の事だ?」
「惚けないで。天と地を支える世界で九尾の狐の騒動を裏で引いていたのは貴方達八天創造神なのでしょう?」
「あ? 九尾の狐の騒動・・・? 知らねえぞ、そんな事件」
その様子に一発を入れようと拳に力を込めていたデュオは眉を潜めた。
嘘をついている様子には・・・見えない。
ここで小金井がデュオに嘘をつくメリットも無い。だがクオの事件に八天創造神が関わっている事は間違いないはず。
「あー・・・もしかしてソウルアップ計画の事か? あれの主導は日輪や藤見だ。俺は殆んど関わっちゃいない」
「日輪と藤見って誰の事? それとソウルアップ計画って?」
「日曜創造神と月曜創造神だよ。
ソウルアップ計画は天地人に魂を持たせるために試練を与える事だよ。一番分かりやすいのがエンジェルクエストだな。
そうしてただのプログラムであるお前らが魂を持って神秘界に来たところを美味しくいただこうって言う計画だな」
自分たちがただの幻で異世界人にその生殺与奪を握られている事は知っていたが、こうして改めて実行犯に聞かされると、こう言い難い何かが込み上げてくる。
だがデュオはそれを押し殺し、続けて小金井の話を聞く。
「後は神秘界に来たらそれぞれの創造神が好きなように利用するってわけだ。
解剖して魂を解析しようとしたり、人形なんかじゃない魂を持った奴を嬲って楽しんだりとかな。
俺は・・・まぁ、そんな事よりこの世界を支配して思い通りにしたかったからそれは後回しだったかな」
「酷い・・・人の命を何だと思っているのよ!」
黙って聞いてたアイリスが他の創造神の行いを批難する。
幾ら元が幻の存在であるとは言え、人のする行為ではないと。
「お前、異世界人――プレイヤーだったよな。だったら分かるだろ? こいつらはただのプログラム。しかも俺達が魂を与えただぜ? それをどうしようが俺達に権利があるに決まっているだろ」
「何を言っているのよ! 例え誰に与えられた魂でも一度宿ったらもう誰のものでもないその人の物なのよ!
あたし達だって神に与えられた魂を神に思うが儘扱われたら自分の魂は自分の魂だって主張するでしょ。それと同じことなのよ!」
「・・・ふん、所詮いい子ちゃんの理屈だな」
「何よ!」
「まぁまぁ」
今にも掴みかからんとばかりに食って掛かるアイリスをベルザが宥める。
そんなベルザが小金井に一言。
「貴方達がどんなに理屈を捏ねようと人の命を弄んだことには間違いはないわ。大人しく縄に付いて現実世界での裁きを受ける事ね」
「それが出来るものならな。俺達の行いを証明できるものなんて無いんだ」
「あら、それはどうかしら? 私の旦那様をあまり舐めない方がいいわよ」
負け惜しみとばかりに小金井は吐き捨てるが、どうやらベルザには小金井たちに裁きを受けさせる方法に心当たりがあるみたいだった。
デュオの方としては小金井が直接クオの事件に関わっていたわけじゃないが、それでも八天創造神としてそれなりの恨みはある。
が、その恨みはもう既に天と地を支える世界で気持ちの整理を付けている。
ここ神秘界に、八天創造神に一発を入れに来たのはけじめの為だけだ。
取り敢えず話を聞きを得た後に一発を入れようと思いながら話の続きを促す。
「そうね・・・後は貴方達八天創造神専用の帰還ゲートについても聞きたいわね。
あれって本当に貴方達だけにしか使えないの?」
「あー、あれか。確かにあれは俺達がそれぞれ自分専用にカスタマイズされているから他の者には使用不可能だな。
ま、魔法陣に詳しい奴が居ればそのロックを解除できる可能性は無いとは言えないが、その可能性も1%も無いかもしれないと言っておくぜ」
使用できる可能性は1%。それでもまるっきりの0じゃない。その事に帰還を強く望むアイリスなどは喜びに満ち溢れていた。
「後はそうね・・・貴方達八天創造神はこの神秘界を支配しているけど、八天創造神が居なくなればこの神秘界は誰のものになるの?」
「誰の物って、そりゃあ・・・そこに住んでいる奴のものじゃねぇのか?
アルカディア人とか帰れなくなったプレイヤーとかの」
どうやら予想通り、ソロの計画である神秘界を第二の天と地を支える世界にする為には八天創造神の支配を抜け出す必要があるみたいだ。
その為にはまずは他の八天創造神の情報が必要だ。
「貴方以外の他の八天創造神の情報を教えて頂戴。性格や目的、貴方みたいに何を司る創造神なのかとか」
「っ、それは・・・」
流石に仲間を売ることは出来ないのか、小金井が言い淀む。
そんな小金井にベルザが少し後押しをする。
「黙っていてもいいことは無いわよ。それにここで私達に協力しておくと現実世界での裁判なんかに有利に働くわよ?」
だがそれでも小金井は話さない。
どうやら仲間云々以前に何かに怯えているようだった。
「あいつらは俺達が神秘界で活動をメインにした時もう既に協力関係は終わっているよ。後は個々で自分の目的の為に動いているんだ。
だが・・・あいつだけは逆らっちゃいけねぇ。あいつの情報を俺が売ったとなると、後でどんなめに遭うか・・・
その為俺はこの都市を手始めにJusticeの力を蓄えていたんだよ」
「あいつって・・・もしかして日曜創造神の事?」
デュオはこれまでの情報から日曜創造神が真っ先に頭に浮かんだ。
エレナーデが言っていた日曜都市は魔窟と化していると言っていた。それは即ち日曜創造神が他の八天創造神にすら恐怖の対象ではないかと思ったのだ。
「ああ。日曜創造神――日輪陽菜だ。あいつだけは逆らっちゃいけねぇって俺の勘が告げているんだ。他の奴も似たようなもんだぜ。日輪に接する態度は。唯一の例外が月曜創造神――藤見月夜」
「ふぅん、その話もう少し詳しく聞かせてくれないかしら?」
「バカを言え。これ以上は無理だ」
「あら、どのみち捕まってしまった貴方にこの先の心配をする必要があるのかしら? 少なくとも捕虜生活が良くはなるんじゃないかしら」
「だったら尚の事簡単には喋れないぜ。この情報は俺の安全を保障する手札だからな」
小金井は頑なに他の八天創造神の情報を話すことを拒む。
だが自分の身の安全と引き換えに情報をチラつかせたことにデュオは暗に小金井が日曜創造神から守れと言っている事を気が付いた。
ならば答えは簡単だ。身の安全を確保した後はじっくりと時間をかけて情報を引き出せばいい。
「そう、ならまずは貴方の身の安全の保障を確保しないとね」
「それは有りがたい―――」
小金井はその言葉を言い終わらないうちに胸に違和感を感じた。
その胸には剣が刺さっていた。
遠くからでも鞭のように剣を振るう事の出来る蛇腹剣だった。
見れば闘技場の観客席の最前列から1人のフードを被った人物が蛇腹剣を振るい、小金井の胸を貫いていたのだ。
「黙っていれば見逃していたものの・・・不必要に日輪陽菜様の情報が晒されるのは頂けない。よって金曜創造神・小金井鉄也、貴方はここで排除させてもらおう」
「――っ!?」
デュオ達は咄嗟に戦闘態勢に入り、突然の乱入者に向かって叫ぶ。
「何者っ!?」
「我は神秘界の騎士・The Hermit。日曜創造神・日輪陽菜様の影にして日輪陽菜様の邪魔者を刈る者」
ストックが切れました。
暫く充電期間に入ります。
・・・now saving




