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調査:証拠を探せ!! レナードの完璧な裏工作

シンシアの空回りには困りますが、アッシェンバッハ子爵邸にレナードたちが潜入しました。

ひとまず落ち着いたマリアを帰したシンシア。

決意を新たにしたように、大きく息を吐くと屋敷中に聞こえるのでは ? と思うほどの大声で

「――それではこれより、マリアを守るためのバルト・フォン・アッシェンバッハ子爵令息の裏調査。

バルト氏『大掃除』を始めまーーーーす。」


執事のレナードがこめかみを押さえながら

「おそれながら・・・・お嬢様。いまこの部屋にはわたくしとお嬢様。侍女長の3人だけでございます。そんなに大きな声をお出しになられては、旦那様や奥様にも筒抜けでございます。」


「えっ・・・あっ、それはだめです。」


「ですよね。やる気が漲っているのはわかっておりますが、何卒、もう少し声のトーンを押さえてお願致します。」

侍女長アンナからも、注意をうける。アンナは眉間にしわまで寄せている。


「はい。・・・」

すこし落ち込んだシンシアを無視して、執事のレナードが


「では、お嬢様。このミッションについてはわたくしに一任して頂けますか?

使用人も数人お貸し頂きたく。侍女長もよろしいでしょうか?」

「マリア様の事情は先ほどお聞きいたしました。仕方ありません。お屋敷での仕事に支障が出ない様、わたくしも調整し協力致しましょう。たーだーし・・・お嬢様は参加させません。そんな危険なことさせられません。」

レナードも大きくうなずく。


「えぇ~。使用人のこととかさぁ。任せるけど、私も何かやりたい~。」

「ダメでございます。大体、緻密な作業やひと様に紛れる隠密行動など、お嬢様にお出来になるはずございません。そーでなくともガサツで声が大きいのですから」


ねぇ、アンナ。いくら何でも言い過ぎでは・・・。

アンナを少しにらんでみるが、全く意に介さず。

幼い頃、寝込んでしまうことが多かった母親の代わりに、常にそばで見守ってくれていたのはアンナなのだから。けど、最近ちょーーーっと口うるさくなって。


「とにかく、この国のおとなしい令嬢たちは、優しすぎて法律の戦い方を知らないのよ。

だからあんな男に舐められるの。徹底的に叩き潰すわよ、レナード!」


数日後。シンシアは華美なフリルやクリノリンを排したドレスではなく、濃紺の地味な仕立てのワンピースに身を包んでいた。商家の令嬢風である。

動きやすさを最優先したそのワンピースの裾を翻し、彼女はバルトの屋敷の裏手に忍び寄る。

バルト・フォン・アッシェンバッハ子爵令息の裏調査。

それが今回の彼らの任務だった。・・・シンシア以外は。


キョロキョロと周りを見渡し、今まさに、子爵家の生垣に手をかけ無理やり入り込もうとした瞬間。

「お嬢様。なぜここにおられるのですか?」

口をふさがれ、レナードに確保された。そのまま、引きずられるように路地裏の馬車に詰め込まれる。

「私も参加したい。大丈夫。ここからならばれないって」

「お嬢様。邪魔をするのはおやめください。

先ほどから見ておりましたが、なかなかの不審者っぷりでした。

いつ、憲兵を呼ばれてもおかしくありませんでしたよ。

わたくしたちまで危険にさらさないでいただきたい。」

・・・・・ぐっ。そこまで言わなくてよくない?


レナードの言葉に、ぐうの音も出ないシンシア。自分も行きたいといいかけたが、レナードの冷たい視線に負け、おとなしく屋敷にもどったのであった。

もちろん、屋敷で待っていたアンナからこっぴどく叱られたのは言うまでもない。


◇◇◇

執事のレイモンドが端整な顔立ちを引き締め、王都税務官の偽造徽章を胸に飾り、ハンス、トマスを補佐にアッシェンバッハ子爵邸の門の前に立っている。作戦開始である。


「これより、王都査察令に基づき、当屋敷の過去三期分の帳簿を確認する。

現行の税務処理に不審な点があるとの密告があった」


平然と嘘を吐き、堂々と侯爵邸の正面玄関を突破するレイモンド。

応対した侯爵家の老令の家令は、王都からの突然の「税務官」の来訪に激しく動揺し、

すぐさま奥の執務室へと案内せざるを得なかった。


同じ頃、勝手口からは商人の供を装った侍女のエマが滑り込んでいた。

エマの役目は、邸内の本物の侍女たちに接触し彼女たちの世間話から情報を引き出すことだ。新商品の感想を聞かせてほしいとお菓子を土産にして、侍女たちの口をひらく。


「ねえ、こちらの第二令息さまってどういうお方? 街でうわさになっているようのだけど・・・。

すでにご婚約者さまがいらっしゃいましたよね。うらやましいわぁ……」

「バルト様はやめておいた方がいいわよ。ご婚約者のマリア様がいらっしゃるのに平民にいれあげているって。手紙も頻繁で。お金も相当つぎ込んでいるって話だし。

・・・・。あっ、今のは聞かなかったことにしてね。……。

私たち、口を滑らせると怒られるから。これ以上は言えないけれど」

「まあ、そうなの。教えてくれてありがとう」

エマは微笑みながら、じゃあ、バルト様向けの手紙をさがさないと。

表向きの支出と、実際の贅沢の規模が全く噛み合っていない。

エマから「やはり表の帳簿は偽物」という合図の目配せを受け、レイモンドは執務室でわざと高圧的な態度を取り、侯爵と家令の視線を自分に釘付けにした。

その日一日、侯爵たちは税務官の追及をかわすための対応に追われ、

他の場所に目を向ける余裕は一切なかったのだ。


そして、翌朝。

作戦の第二段階が静かに始まった。

体調不良で休んでいる使用人の代わりに数日の手伝いとして、今度は別の侍女であるクロエが雑用係として邸内にもぐりこんだ。

クロエに与えられた任務は前日の騒動で侯爵たちが「処分」したであろう、ゴミや不要物の調査だ。

「クロエ! 早く裏庭のゴミ集積場を片付けてちょうだい!」

先輩メイドの声に、クロエは「はい!」と殊勝に返事をしながら、

大きな箒と回収袋を持って裏庭へ向かった。

周囲に誰もいないことを確認し、前日、侯爵の執務室から出されたとされる暖炉の灰や、細かく引き裂かれた紙クズの山に手を伸ばした。


「前日に税務官が来たら、絶対に証拠を隠滅するか、慌てて書類を整理するはず……」

クロエの指先が、紙クズの山の中から、上質な羊皮紙の断片をいくつか見つけ出した。

それらは燃やされかけて端が黒焦げになっていたが、文字ははっきりと残っている。

そこには、王都の公式帳簿には絶対に載っていないはずの、北方鉱山からの「裏の利益」と、暗号化された数字の羅列が書き込まれていた。

それは、侯爵家がひた隠しにしてきた「二重帳簿」の、隠蔽しきれなかった本物の断片だった。

クロエは震える手でそれをエプロンのポケットに深く押し込み、何食わぬ顔で箒を動かし始めた。

昨日、レイモンドとエマが侯爵たちの目を引きつけ、揺さぶりをかけたからこそ焦った侯爵が自ら捨て去った決定的な証拠。

チームの連携が、ついに巨大な貴族の不正を暴いた瞬間だった。


侯爵邸の地下執務室。レナード。クロエ。レナードの補佐として侯爵家にもぐりこんだハンス、情報屋のトマスがそろっている。

ランプの光に照らされ、執事レナードは静かに、しかし冷徹な声で告げた。

机の上には、マリア様の婚約者であるバルト・フォン・アッシェンバッハ子爵令息の悪行の数々が記された書類が並んでいる。

バルトは、平民の愛人に貢ぐためにマリアの侯爵家から巨額の融資を受けながら、今やその愛人と結婚するためにマリアに「婚約破棄」を突きつけようとしていた。

しかも、己の融資金返還や慰謝料の手切れ金を惜しむあまり、あろうことか「マリアの浮気」をでっち上げ、彼女を断罪してすべてを彼女のせいにするつもりなのだ。

「マリア様にありもしない罪も作って貶めるなどタダで済むと思うなよ。クズ野郎。」

普段徹底して紳士な姿勢を崩さないレナードだが、今回の怒りは相当のものだった。

その昔、同じように断罪されて婚約破棄されたシンシアの顔を思い出した。


レナードは手袋を直しながら、冷淡な笑みを浮かべた。

「怒りは任務の邪魔になります。我々はただ、完璧に、迅速に、あの愚か者を社会的に抹殺すれば良いのです。……各自、任務の確認を」


レナードの視線を受け、メイドのクロエが頷いた。

「私は今夜、バルトが愛人の元へ向かう隙に、書斎のデスクを漁ります。

奴が偽造した『マリア様の浮気の証拠(偽造写真と偽の恋文)』、

そして奴の脇の甘さを示す『愛人からの本物の手紙』。必ず今夜、奪還します」

「よし。ハンスはクロエの退路を確保しつつ、書斎の隠し金庫を解錠しろ。バルトが隠しているもう一冊の『裏帳簿』が狙いだ。クロエの証拠はダミーかもしれない。必ず、もう一冊あるはずだ。あそこの古い金庫の型なら、お前の指先なら三分もかからんはずだ」

「任せてください、レナードさん。鍵の声を聴くのは得意ですから」ハンスが不敵に笑う。

「トマス、そちらの進捗は?」

レナードが、部屋の隅で静かに煙草の煙を燻らせていた御者のトマスに目を向けた。

トマスは元・裏社会の情報屋だ。

「王都の登記所と、ローゼンタール商会への仕込みは終わってる。バルトの奴、実家から融資を受けている『アッシェンバッハ領北の鉱山跡地』を、商会への担保として『二重登記』していやがった。

完全に犯罪だ。商会の融資申込書と、すでに発行されている差し押さえ証の原本、今夜中にひっくり返して盗み出してやるよ」

「素晴らしい」

レナードは満足げに頷き、懐中時計を確認した。

「バルト令息は明日、マリア様を夜会に呼び出し、皆の前で『不貞の証拠』を突きつけて婚約破棄を迫るつもりだ。奴の手元にある証拠が、すべて『自らの罪の証拠』にすり替わっているとも知らずに」

レナードの目に、冷酷な光が宿る。

「――マリア様の涙の代償は、バルトの破滅です。作戦開始」

「「「了解(イエス・マイロード)」」」

使用人たちが影のように消えていく。


明日夜会が開かれる、その数時間前。アッシェンバッハ子爵邸のバルトの部屋からは、平民ミーナからの手紙とミーナのために買ったであろう宝石やドレスの請求書。マリアを貶めるための偽造証拠をクロエが音もなく抜き取り、ハンスの鮮やかな手並みによって裏帳簿がカバンに収められていた。時を同じくして、トマスはローゼンタール商会の暗闇から、決定的な二重登記の証拠を掴み取っていた。


こんばんは。お読みいただきありがとうございます。気に入っていただけたら嬉しいです。

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