無人兵器
小さなエンジン音が心地よいテンポを刻みながら耳へと入り込む。
それと同時に、周囲の喧騒も耳へと入る。
話の内容も他愛のないものだ。今日は何をするだとか、昨日は何を食べたとか。
日常、というものだ。
「〜〜♪〜〜〜♪」
喧騒を聞き流しながら、バイクから小さく鳴らしている音楽を聞く。
よくある青春音楽だったり、この世は不条理だと語る曲だったりと多種多様な音楽を流しながら日常の喧騒とともにしている街を走る。
風が前から吹き、着ている少し大きめの服をなびかせながら後ろへと吹き抜けた。
さて、今日は何をしようか。
「ん。」
ガバッと起き、周囲を見渡す。
「あぁ、そうか。」
夢か。昨日日常の喧騒を懐かしく感じたからか、あんな夢を見てしまった。もう、手にはいりはしないのに。
…あぁ、だめだな。夢ぐらい見たって良いじゃないか。夢もクソもない現実なんだ。寝ているときぐらい、現実じゃなくて幻想を見ていたって良いだろう。
そう自分へと語りかけ、寝袋から体を出し、寝袋を畳んだ。
「変わらないな。」
寝袋をたたみ終わり、ふとビルの窓から差し込む沈みかけの夕日を見てそう感じた。何もかもがなくなってしまったこんな世界でも、あの時、あの場所で見た夕日と全く同じだ。
すべてが変わっってしまっても、変わらないものもある。人間が、その変わらないものに入っていなかっただけだ。
その変わらないものに入ることが良いことかどうかはわからないが、ね。
ライフルを背負い、バックパックと寝袋をバイクへと積み込み、ビルを出た。
沈みかけた夕日と入れ替わるように月が明るみを増し、太陽とは真逆に静かに誰もいない大地を照らしていた。
そんな中昨日とは違い、入江に沿って走った。
昨日はなめらかな風が吹き抜けていたが、今日は少し粘り気のある潮風が吹き抜けていた。
空には数え切れない程の星が瞬いていた。世界が終わり、電気による明かりが存在していたらこんな美しい星空は見ることはなかっただろう。
そういえば、星の光というのは少し前に星が発した光が遅れて地球に届いていると聞いたことがある。
あの星の光の中に、もしかしたら一つぐらいは地球が光り輝き、人々の喧騒の絶えない星だったことを知っているかもな。
そんなことを考えながら、バイクを走らせた。
バイクを一時的に止め、近くの建物へと入り込む。
ライフルを手に握り、ボルトを引いて薬室に弾薬が正常に送り込まれていることを確認する。
現代は自動小銃が一般的だが、こんな世界じゃ故障すれば治すのは困難を極める。そんなわけで多少不便でも俺はボルトアクション式ライフルを使っている。
なぜ俺がバイクを止めて建物で身を隠しているかというと、無人兵器の残党が残っていたからだ。
無人兵器も最前線から離れ、戦闘も少なかったここらへんの地域ではかなり少ないのだが、ゼロじゃない。
できればやり合わないことが理想的だが、もしものときは…
「……。」
残念ながら俺は軍人じゃない。銃の扱いだって完璧ではない。知っているのはあくまで最低限の銃の取り扱いと弾薬の構造。もうどこへ行ったかは知らないが、ミリタリーに詳しかった友人に教えてもらった。
大丈夫だ。こっちが高所は取って、なおかつこっちだけが相手を認識している。
もしものときだって、こっちが有利だ。安心しろ。おさまれ。
過去にも何度かあったが、やはり心臓の動悸は収まらない。
ゆっくりと、窓から外を確認する。そこには未だに3機の人形の無人兵器が存在した。
暗い夜に赤く鋭く光り輝く目にところどころ剥がれた灰色の地味な塗装。金属の骨組みだけがところどころ見え隠れし、不気味さを更に感じさせる。
ロボットは、人間の形に近づいていき、一定レベルに近づくと逆に不気味さを感じさせると聞いたことがある。
世界が終わる前までは明らかに人間ではない一般向けの動物型だけしか見たことがなかったが、こいつは人間に似せている。
いや、ある程度人間に似せているというのが正解だろう。不気味さを感じさせるぐらいが人間には有効だ。
やはり不気味なアイツラを見ていると、手が震えてくる。
震える指先からトリガーの冷たい金属が伝わってくる。
落ち着け。落ち着け。相手にバレてはいない。
ゆっくりとライフルを床へと起き、空いた両手をつなぎ、少しでも手を温める。
そして、祈るようなポーズで目を閉じた。
…1時間ほど立っただろうか。
途中で目を開け、虚空を眺めていたせいでどれくらい立ったかもわからない。
ゆっくりと窓から外を覗くと、そこには不気味な人形は見当たらなかった。
その現実を見て、安堵し、建物からゆっくりと出た。
建物から出ても周りを警戒し、周りを見るが、不気味な機械の人間は存在しなかった。
またも安堵し、ライフルを背負い直した。
バイクのハンドルへと手を伸ばし、やめた。
あれからどれくらい立ったかわからない。月だって少し傾き始めている。早めに休憩をしておいて損はないだろう。
何より、疲れた。
バイクを押し、バイクが入れるぐらいの大きさの部屋を探した。
しばらくすると見つかり、バイクとともに中に入れ込み、スタンドで立たせる。
寝袋を荷台から取り出し床に敷く。ライフルを横へ起き、寝袋の上に寝転び、灰色の天井を見つめた。
空から星の光が瞬き、この部屋に落ちた。
…あの星の中に、無人兵器なんてものがない文明星はあるだろうか。
もしもあったとすれば、その星は光り輝いているだろうか。
…光り輝けているだろうか。
ふと、そんなことを思い、考えた。
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