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第四話 銀髪ヒロイン

 月明かりに照らされた透き通るような白い肌に、ポニーテールの形で後ろに束ねられた青みがかかった銀髪。

 そして、見ているだけで濁った心が浄化されそうな、視線を引き寄せる翡翠ひすいの瞳。


 そんな特徴的な容姿を持った少女の身を包むのは、白を基調とした凛々しい騎士服だ。

 だが、下半身はひらひらとしたプリーツスカートになっており、殺伐とした戦場でありながらもしっかりと女の子っぽさをアピールしているのがたまらない。

 これをデザインした奴は、男心をよくわかっている!


 手には、彼女の瞳と同じ翡翠色に輝く刃を持った西洋剣。

 防具は動きやすさを重視した胸当てのみ。

 あとは手元のグローブと、足のラインにフィットしたロングブーツだ。

 ……まあ、特にいうこと無し。強いていうなら、可愛い子が装備してるとどんなものも最高に映えるってことくらいか。


 兎にも角にも、この時点でファンタジー美少女としては100点……10,000点である。

 だが、彼女の魅力はこれだけにとどまらない。

 中でも最も俺の心を撃ち抜いたのは、『庇護欲をそそられる容姿』にあった。


おしとやかな雰囲気の中に、どこかあどけない愛らしさを残した顔立ち。

 俺よりも頭一つ分ほど小さい、ギュッと抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢きゃしゃな体。

 推定年齢は13、14歳ほど。身長は、おおよそ百四十センチ後半辺りだろうか。


 ——うーん、庇護まもりたい!

 頭の中で彼女の特徴を並べただけで、その欲求が爆発するように湧き上がってくる。


「『セクスタプル・グラビティ』ッ!」

「うおっ!?」


 なんて悠長に少女の良さを脳内で反芻はんすうしていると、突然、全身が重くなった。

 名前と状況からして、重力操作魔法か。

 大抵のファンタジー作品ではチート寄りに扱われる魔法を平然と使いこなすなんて……!

 さっきの剣術もそうだが、この子は一体、どれほどの努力を積み重ねてきたのだろうか! 健気すぎるだろ!


 一目惚れバフで、すっかり脳内がお花畑と化している俺に。

 少女が左手に宿った魔法陣を向けながら、右手で翡翠の剣を突きつけて。


「降伏を宣言しなさい。七魔将しちましょうのあなたが降伏をすれば、他の魔族は直ちに手を引くはずです」


 はいします、降伏しまーす!

 ……と、即座に両手を挙げて降伏の意を示したいところなのだが。


 体にのしかかる重力がキツくて声が出ない! こんな状態で降伏宣言ができるわけないだろ!

 もしかしてこの子、超絶美少女なうえにちょっと天然入ってるのか!? 可愛いなチクショウ!


「魔王に逆らうくらいなら死を、ですか。本当に魔族という生き物は……っ!」


 そんな俺の心中など知る由もない少女は、何も言わないでいる俺の態度を『悪の幹部の意地』とでも受け取ったのだろう。

 少女は苛立ち混じりの声を漏らし、俺の首を落とすべく、翡翠の剣を高く振りかぶった。


 違います違います、断じて魔王のために死のうだなんて思ってないですはい! 

 強いていうなら、あなたのためになら——!


 なんて情熱的なセリフを吐くことも、重力のせいで出来やしない。

 ……仕方がない。まずは対話の場を作るため、俺はヤミカゲの使える炎魔法の一つ、『エクスプロード』を地面に放ち、その爆発の反動で重力圏内からの離脱を試みようと——!




 したところで、一つの光線が少女の背後めがけて飛んできた。


「——っ!」


 殺気か魔力か、そういった類いの何かを察知したのだろう。

 光線に反応した少女は瞬時に体を反転させると、剣を盾にして光線を防いでみせた。


 ……だがしかし、どうやらその行動は選択ミスだったらしい。

 一瞬のうちに光線が直撃した翡翠の剣、それと剣を握っていた右手が、キラキラと輝くダイヤモンドのような硬質な結晶体へと変化してしまったのだ。


 石化能力ならぬ、宝石化の能力とでも言うべきか。

 右手の自由を完全に奪われ、少女は悔しそうに強く唇を噛み締める。


「カッカッカッ! 流石の『戦姫せんき』も、剣が振れなければただの小娘よ!」


 そこに現れたのは、誰だか分からない大柄な魔族だった。

 身長は三メートルを優に超え、頭にはサイのように太く巨大なツノが生えている。


 そいつは宝石と化した少女の右手を見て、下品にせせら笑いながら。

「俺の『アダマンレーザー』を受けたのなら、もう生きることを諦めた方が良いぞ? この砂がすべて落ちきった時、貴様は美しい宝石の彫像と化すのだからな!」


 聞いてもいない魔法の効力をペラペラと暴露し、どこからか取り出した砂時計を左手でつまみ持って、これ見よがしに見せつけてきた。

 少女はそれを聞き、残った左手でどうにか対処しようと、そいつに向けて左手を構える。


「治したければ、この時計の砂が落ちきるよりも早く破壊するしかがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「……えっ?」


 長々と三流悪役のセリフを垂れ流している最中。

 突如として、そいつの無様な絶叫が夜の平原に響き渡った。


 まあ、そりゃそうだろう。

 自慢げに見せびらかしていた左腕が、肘辺りまでスパーンと斬られれば、痛くないわけがない。至極当然の反応である。


 ……ん? 何で腕が斬られたのかって?

 そんなの、言うまでもないだろう。


「おいこらデカブツ! 俺のヒロイン様に何しやがんだ!!」


 術者である少女が左手を逸らしたことにより、重力魔法が途切れて自由の身となった俺が、神速で忍者刀の一刀を叩き込んだからだ!

 愛しのヒロイン様を救うために!!

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