第32話 神野菜を届けに来た人に困惑する
俺とアリーアの雷属性魔法が同時にカカシに直撃した。
毎日一緒に魔法を練習して、威力はどんどん上がっている。
「ふう、いい感じっぽくない?
ねえ、私そろそろ
別な属性魔法練習しようと思うんだけど
……ロレス……どうしたの?」
「え?
ああ、ごめん。
どうも今日は変なんだよな」
勇者には、なにかを予感する能力が備わっているのだろうか?
その日は朝から妙にそわそわしていた。
その妙な感じがさらに強くなる……俺の緊張は一気に高まった。
木のトンネルから人が出てきた、
「おはよう、勇者くん。
あらあら、そんなに緊張してどうしたの?
大丈夫よ、今日もたっぷり楽しみましょう」
現れたのは以前、神肥料を届けてくれたノーラさんだった。
そうか! もう前回から1ヶ月経過したのか!
「ロレス……この方は?」
「ああ、そっか。
アリーアははじめてだもんな。
この人はノーラさんっていう……」
「私はノーラ。
勇者くんとは1ヶ月前に密会して、
ふたりで激しく体を動かした
ただならぬ仲なのよ」
「ロ……ロレス……?
そっか……うん。
私ちょっと実家に行ってるね!
……もう戻ってくるかわからないけど」
「待てっ! アリーア!
勝手にドンびくな!
ノーラさんも言い方っ!」
アリーアには、勇者特典の【薬草、農作物が最高品質に育つ“神肥料”の提供】を申請したから、月イチでノーラさんが届けてくれるという事を話した。
アリーアはノーラさんが背負ってきた籠に入っている神肥料を見て納得した。
「ごめんね。
私なんか勘違いしちゃって。
……あ〜恥ずかしい。
ええと私はロレスの……。
……妻のアリーアです」
「いや……アリーアは悪くないって……」
「まあ、勇者くん結婚していたの?
じゃあこの可愛いお嫁さんは、
勇者くんのフィンガーテクニックで
私みたいに身も心もトロットロにされてるのね。
今でも思い出しては体がうずくのよ、ああん」
「あははは!
……ロレス……私ちょっと実家に……」
「頼まれて肩揉んだだけだって!
ああ〜!! めんどくせ〜!!」
「ところで勇者くん、
神肥料の方はどうかしら?」
「ああ、はい。
凄いですね、びっくりしました。
種を植えてから1週間で収穫できましたよ」
「……1週間?」
ノーラさんは少し不思議そうな顔をして畑の方へ歩いていった。
「薬草も育てているのね。
少しいただくわよ。
ここに来る途中で
ちょっと膝を擦りむいちゃったのよ」
肌を露出しすぎだからじゃないですかね?
この世界で一般的に「薬草」と呼ばれている草は、主に傷の手当てで使われる。
ゲームのように何個か使えば体が全快するようなものではなく、止血や化膿止めとしての効果がある。
だからひどい怪我をした場合は薬草で応急処置をした後に、医者に診てもらうか、高度な回復魔法を使用しないといけなかった。
ノーラさんは擦り傷のある太ももを薬草で擦った。
するとその部分が光り、傷は綺麗になくなった。
「ノーラさん、
薬草は効果がアップするって聞いたけど、
こんな風に傷が治るなんて思いませんでした。
凄いですね……」
「そうね、凄いわ。
でも……凄すぎるの。
神肥料はたしかに素晴らしい肥料だけど、
1週間で野菜が収穫できたり、
薬草がここまでの効果を出す事はないの」
「…………え?」
ノーラさんはいつのもあの雰囲気が一変して、研究者のような顔をして考えている。
「もちろん、神肥料の力は大きい。
でもそれ以外に何かが影響を……。
勇者くん。
雨が降らない日は水をあげているのよね?
ここで使ってる水はどこから引いてるの?」
「この丘の上に
誰も人がこない神殿というか祠があって。
そこにある水が湧き出る不思議な水瓶の水を
もらってきてます」
「神殿の……神聖な水……。
そう、あと聞きたいのだけれど、
この場所って
雷がよく落ちたりするかしら?」
「雷……あっ!」
俺とアリーアは顔を見合わせた。
「あの……雷は落ちたりしないんですけど、
私とロレスがここで
雷属性の魔法の練習をしています」
「そういう事なのね。
雷が落ちた場所って
野菜がよく育つようになるの」
雷が落ちると、強力なエネルギーで空気中の窒素と酸素が反応する……そして天然の窒素肥料になるというのを俺は前世にテレビか本で見て知っている。
この世界の科学はそこまで発展していないけど、ノーラさんは経験則として知っていた。
「神肥料、神聖な水、魔法の雷。
そして、この丘の上という
日当たりと水はけが良好な場所。
これは……ここでなら……。
神野菜が育つかもしれないわ」
「神野菜?」
「私の一族が神肥料を提供している神殿があって、
そこは素晴らしい環境なのだけれど、
そこでも少量しか育たない貴重な野菜なの……これよ」
ノーラさんは、ポーチから根っこのような緑色の野菜を出した。
表面はデコボコしていて、ところどころ苔が張りついたような風合いがある。
この人が神野菜と呼んでいるものを……俺はすでに知ってた。
──ワサビじゃん。
次回『第33話 ギルドの噂話』
お読みいただきありがとうございます!
次回は「アリーアと一緒に冒険者ギルドに行ってみる」お話です。
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