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第31話 マルゲリータと車輪みたいなやつ

ネスカリム王国から戻ってきて半月くらいが経過した。

その間に、生活にもいくつかの変化があった。


まずは野菜だ。

前回の反省を活かして育てる量を調整した。自分が消費できる量プラスアルファくらいに抑えた。

食べ切れたらそれでいいし、余ったらライデムさんのピザ屋に持っていく。


そうそう、野菜以外に薬草も育てはじめたんだった。


そして簡単な仕事をはじめた。

やっぱり最低限のお金は必要なんだよな……という事がネスカリム王国への旅費でよくわかった。

そんなわけで、冒険者ギルドでなるべく楽しそうで短時間で終わる依頼を貰うようにした……週に1−2回程度だけど。


ギルドでは「ぜひ勇者パーティーに入れてくれ」と沢山の人にお願いされて大変だったので、ギルドマスターに事情を話して裏口でこっそり依頼を受けている。


正直、誰かに見られたら裏取引っぽく思われそうな、かなりあやしい雰囲気だ……。

貰ってるクエストは、草刈りとか子守りとかなんだけどね。



最後の変化は……アリーアがエウレカに住み始めた事だ。


アリーアも俺と同じようにここにベッドを持ち込んで、2階のゲストルーム予定だった部屋を自分の部屋にした。


「ロレスー!

 おかえりなさーい。

 クエストどうだったー?」


「一人暮らしのお婆さんの

 薪割りの手伝いだったよ。

 お土産にって干しアンズくれたんだ。

 食後のおやつにしよう」


「わあ!

 そうそう、私ね。

 今日はじめて雷属性の攻撃魔法、

 成功したんだよ!

 ちょっと見てー!」


アリーアはそう言うと、手をビリビリと放電させて雷を放った。

激しい稲妻は、(野菜の栽培量を減らしたので)空き地となってる畑のカカシに直撃した。


「魔法の練習してたのか?

 でもこの魔法って、

 初心者レベルじゃないぞ。

 才覚の儀で魔導師に選ばれるだけあるな」


「えへへー。

 まだまだ下手くそだけどねー。

 それにクシャミとかすると

 あさっての方向に飛ぶし」

 

ネスカリム王国から帰ってきてすぐに、アリーアはエウレカに住みたいと言ってきた。

まだ客が戻ってない実家の宿屋には、ときどき手伝いに戻れれば良いらしい。


断る理由は特になかった……アリーアが一緒だと楽しいし。



今日の昼食は、ピザを作ってみる予定になっていた。


ピザ生地は、朝起きてすぐ、ギルドに行く前に仕込んである。

小麦粉と水、塩と天然酵母をこねて、布をかけて寝かせておいた生地はしっかり膨らんでいた。


野外にあるドーム型の窯に火を入れておき、発酵が終わった生地を薄く伸ばした。


そこに塩とハーブで味つけた潰しトマトを塗って、ライデムさんのピザ屋との物々交換で貰ったフレッシュチーズをちぎってのせる。

仕上げに、庭の畑で摘んだバジル(実際はバジルじゃないのかもしれないが似ているハーブ)の葉を散らした。


赤、白、緑がカラフルな……マルゲリータだ。


窯の中に滑り込ませると、あっという間に焼ける。

縁がふっくらと膨らんで、焼き色がついたころを見計らって取り出すと、香ばしい香りが、あたり一面に広がった。


絶景ポイントにテーブルと椅子を置いて、木の板の上に焼きたてのマルゲリータを乗せた。

そのマルゲリータを「ギザギザ」でカットしていく。


「ギザギザ」の正式名称はわからない。小さな車輪にギザギザした刃がついた、あのピザ専用の器具だ。

ライデムさんのピザ屋がナイフでピザをカットしているのを見て、後日「こういうのがあると便利かもしれないですよ?」とスケッチを親方さんに渡した。


親方さんはそのスケッチをすぐに鍛冶屋に持ち込んで何個か作らせて、その便利さに驚いていた。

そしてそのうちの1個を俺にくれた。


俺とアリーアは切り分けたマルゲリータを食べた。

ピザ生地や焼き方はプロには敵わない。

でも、自分が粉からこねて作った生地に、自分が育てた野菜を乗せて作った味は特別だった。


食後はハーブティーを飲みながら、クエスト先のおばあちゃんから貰った干しアンズを食べた。

ゆっくり食事をしながら、ゆっくりおしゃべりするのは楽しい。


「アリーアはさ、

 がんばって練習してるけど、

 魔導士の攻撃魔法で

 何かやりたい事でもあるの?」


「……万が一の時の為に

 もっと魔法を覚えたいなって思ったの」


アリーアは、一口かじった干しアンズを皿に置いた。


「冷竜と会った時に

 ロレスは私が危なくないように

 してくれたでしょ?

 ……嬉しかったんだ、でもね。

 何かあった時に自分も戦えるようになりたい、

 守られるだけじゃなくて

 ロレスに頼られるくらいになりたいなって

 思ったの」

 

「そっか……」


ちょこちょこ進めていた家の改修や家具作りもひと段落してきて、時間はある。


「じゃあさ、

 俺も魔法の練習に付き合うよ」


「…………うん!」


アリーアは色々考えているんだな……彼女の気持ちが嬉しかった。




次回『第32話 神野菜を届けに来た人に困惑する』

お読みいただきありがとうございます!

次回は「様々な事が奇跡的に絡み合って、エウレカが特別な土地になっていたのが判明する」お話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!

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