第28話 ソフトクリームは魔法の力で
アリーアは2階のベッドで寝て、俺は1階のリビングで寝た。
翌朝、夜明けとともに目が覚めた俺が外に出ると、丘の端っこの絶景ポイントにすでにアリーアが立っているのが見えた。
「おはよう、アリーア
早起きだね」
俺はポンチョのようにして肩にかけていた毛布をアリーアにかけた。
「ありがと。
なんだか目が覚めちゃったの。
……すごいね」
「ああ、
すごい綺麗だ」
俺とアリーアは、目の前の雄大な風景を見ていた。
朝日が昇るに従って薄暗い大地がどんどん明るくなっていく。それはまるで輝く液体がゆっくりと広がっていくかのようだった。
草が金色っぽく見える。大げさかもしれないけど、すごくいい。
「俺ははじめてここで朝を迎えたけど
この景色も……。
毎日見てたら感動しなくなるのかな?」
「じゃあ飽きたら、
ちょっとだけ向きを変えればいいんじゃない?」
「……名言っぽいな」
「でしょ?
私も言ったあと思った」
俺とアリーアは、少しだけ笑った。
夕方、ライデムさんのピザ屋に行き、親方さんと物々交換をした。
小麦粉・塩・香辛料・砂糖・果実油。
バター・チーズといった乳製品。
ソーセージ・ハムなどの加工肉。
これが自分が持っていった野菜と取り替えたものだ。どれもうちの畑では手に入らないものばかりなので助かる。
物々交換を終えた俺とアリーアはピザ屋を出てお互いの実家の方向に向かって歩いた。
これからエウレカに戻ると途中で道が暗くなるから、今日は実家に泊まるんだ。
「親方さん、
乳製品がたくさん余ってるから
もっと持っていってほしがってたね」
「うん、だけどさ。
自分で使い切るには限界があるじゃん?
貰っても腐らせちゃうんだよな」
なにしろ冷蔵庫がないからね。
冷蔵庫って小規模な生活だとすごく便利な家電なんだなあと、つくづく思った。
「ロレス。
あれ……あの人……」
「ん? あっ!」
あんなでかい人を見間違えるはずがない。
そこにいたのは……マッチョ軍団の寡黙な巨人・ドミンさんだった。
ドミンさんは小柄な女性と一緒に屋台を片付けていた。
俺とアリーアが挨拶に行こうとすると、俺たちを追い抜いて少年が屋台に走っていった。
「綺麗なお姉さーん!
もうソフト終わりー?
1個欲しいんだけど!」
「まだ攪拌機片付けてないから
大丈夫よ!
……じゃあ、あなたお願い」
ドミンさんが無言で蛇口のようなレバーをひねると、にゅるりと粘りのあるソフトクリームが吐き出された。
そして女性から筒形のワッフルを受け取り、まるで魔術師のような流れる手つきで、クリームをくるくる巻き上げる。
「はい、どうぞ
綺麗なお姉さんって言ってくれたから
2個あげちゃう!」
「やったー!
ありがとう!」
両手にソフトクリームを持って少年は去っていった。
そういえばこの世界にはソフトクリームがあるんだった。冷蔵庫もないのにソフトクリームが作れるのは冷凍魔法があるからだ。
「こんにちは、ドミンさん。
ソフトクリーム屋さんだったんですね」
ドミンさんは黙ってうなずいた。
一緒にソフトクリーム屋をやっている女性はドミンさんの奥さんだった。
奥さんはドミンさんとは真逆の、マシンガントークで話す元気な人だ。
「私が冷凍魔法使って
この人が攪拌機を回してるのよ。
勇者様もこの人のバカみたいな力、知ってるでしょ?
高速回転させて作るから
うちのソフトはなめらかだって評判なのよ」
「はい。
ドミンさんのパワーにはとても助けられました。
しかし、
大変なお仕事ですね」
「冷竜のウロコがあれば、
もっと楽なんだけどねー。
まあ、そんな超レアアイテム
手に入るはずないけどねー」
「冷竜のウロコ?」
「全身が氷のように冷たいドラゴンがいるのよ。
そのウロコは置いとくだけで
空気をずっと冷やし続けるんですって」
え、それめっちゃ良くない?
それを箱に入れれば、冷蔵庫作れるじゃん!
……でも超レアアイテムかあ。
「おばあちゃんが……言ってた……」
相変わらず、某戦場カメラマンのような独特な間で ドミンさんが話し出した。
「となりのネスカリム王国の……洞窟に、
冷竜はいる……と」
丘の上の神殿の事といい、あなたのおばあちゃんって何者ですか!?
そして、ドミンさんはまたゆっくり低い声で続けた。
「冷竜は……人間の前には姿を見せない……が、
……勇者だけは会える……らしい」
「えっ?」
勇者だけが会える冷竜?
……その冷竜のウロコがあれば冷蔵庫が作れるぞ!
「アリーア、
竜のウロコ……欲しい!」
「ロレスの考えてる事わかるよ。
食材の保存でしょ?」
「行ってみる価値はあると思う。
俺はドミンさんのおばあちゃんを
信用してるから」
「でも国境超えるのって
保証人とか推薦状とか結構面倒でしょ?
うちのお父さん通行証がとれなくて、
借金返済の出稼ぎ諦めたんだよね」
「それは、
たぶん大丈夫じゃないかな?」
……勇者だし
時間『 第29話 外国のお茶の香り』
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次回は
「関所を超えてはじめて外国に行ってみる」お話です。
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