第3話scene3
舞台:教室・授業中
国語の授業中。
教室には、原澤銀次郎の淡々とした朗読の声が流れている――
はずだった。
水無月実花の意識は、まったく別の場所にあった。
(……中谷君)
そもそも、どうなのだろう。
改めて考えてみる。
見た目は――
清潔感があって、だらしなくもない。
正直、悪くない。
性格は――
猪突猛進なところはあるけれど、
人を見下したり、意地悪をするタイプではない。
(普通に……)
もし、
本当に“普通に”告白されていただけなら。
(多分……)
でも、その思考は、すぐに現実に引き戻される。
(……この状況で、告白の返事なんて……)
破壊神。
世界崩壊。
勇者十傑。
そして――
(青峰先輩)
あの人の存在は、明確に危険だ。
中谷君に、
絶対に近づけてはいけない。
それだけは、はっきりしている。
総合的に考えれば――
中谷君の好意が、自分に向いているのは好都合だ。
世界の安定という意味でも。
青峰先輩を遠ざけるという意味でも。
(……でも)
だからといって。
(告白を受け入れるのは……なんか違う)
逃げの肯定。
責任の放棄。
それに――
(私の気持ちが、まだ追いついてない)
水無月は、腕を組み、眉をひそめる。
(うーん……わからない)
考えれば考えるほど、答えは遠ざかる。
そして――
彼女の中で、一つの結論だけが残った。
(……やっぱり)
(返事は――)
「保留よ!!」
――バンッ!!
水無月は勢いよく机を叩き、立ち上がっていた。
教室が、一瞬で静まり返る。
原澤が眉をひそめる。
「……水無月?
どうした?」
水無月は我に返り、慌てて座り直す。
「な、なんでもない……です」
顔が、じわじわと赤くなる。
その一方で。
教室の隅に座る省吾は――
その一言に、びくっと反応していた。
「……保留……」
誰に向けられた言葉でもない。
なのに、胸に突き刺さる。
肩を落とし、しょんぼりと俯く省吾。
原澤はため息をつき、授業を再開した。
だが教室の空気は、どこか落ち着かない。
水無月は、ノートに視線を落としながら思う。
(……ほんとに、これでいいのよね)
世界のため。
自分のため。
そして――
多分、彼のためにも。
今日もまた、
**「保留」**という言葉が、世界をつなぎ止めていた。




