第3話scene1
夕暮れの校門前。
中谷省吾は、冨永翔と並んで歩いていた。
話題は当然――恋愛。
「だからさ、返事がないってことは可能性があるってことだろ?」
「理論的にはな」
そんな会話をしながらの下校風景は、
一見するとどこにでもある普通の放課後だった。
……一見すると。
その横を、水無月実花が不安そうな顔で歩いている。
そして、声を潜めて冨永に詰め寄った。
「ねえ、冨永君。
さっきから思ってたけど……どういう事なの?」
冨永は歩調を崩さず、即答する。
「心の安定だ」
「……こころの、あんてい?」
冨永は淡々と語り始めた。
「本来、破壊神とは世界を壊すだけの存在じゃない。
破壊の後に再構築する存在――
つまり、世界を再生する力を持っている」
水無月は眉をひそめる。
「……それで?」
「中谷君は未完成だ。
破壊神として覚醒途中で、自分の意志で力を制御できていない」
「だから?」
冨永は眼鏡を押し上げる。
「彼の破壊と創造は、精神状態に依存する。
心が安定すれば創造へ。
不安定になれば――破壊へ」
「……はあ」
納得しかけて、しかし嫌な予感がする。
冨永は、そこで決定的な一言を放った。
「だから中谷君には心の平穏が必要だ」
水無月は息を呑む。
「水無月さん。
決して中谷君の告白を拒んではいけない」
「……え?」
「拒んだ瞬間、世界が崩壊する」
水無月は立ち止まった。
「ちょっと待ってよ!
拒否権なしなの!?」
冨永は真顔で返す。
「嫌なのか?」
「え?」
「中谷君が嫌いか?」
水無月は言葉に詰まる。
「……嫌い、ではないけど……
付き合うかって言われると……まだ……」
冨永はうなずいた。
「なら問題ない」
「問題しかないでしょ!!」
だが冨永は構わず続ける。
「世界のためだ。
少なくとも、勇者十傑が揃って
破壊神――中谷君を倒せる、その日まで」
「えええ!?」
その瞬間。
「――2人で、何をこそこそ話してるんだ?」
背後から、省吾の声。
びしっ、と校門前の地面にひびが走る。
冨永が顔色を変える。
「……まずい」
水無月は慌てて振り向き、必死に笑顔を作った。
「ち、違うよ!
中谷君との恋について、相談にのってもらってただけ!」
省吾は一瞬きょとんとし――
「ああ……なんだ」
と、安心したように笑った。
すると。
地面のひびは、
まるで巻き戻されるかのように修復されていく。
冨永は小さく息を吐いた。
(……やはり)
水無月は、乾いた笑みを浮かべながら思う。
(……私の恋、
世界の命運、重すぎない?)
こうして――
告白の返事=世界の安定という、
前代未聞の恋愛地獄が、静かに進行していくのだった。




