第2話scene4
水無月実花は、玄関を抜け、そのまま自室へと駆け込んだ。
制服のまま、扉を閉める。
鍵をかける余裕すらなかった。
「……はぁ……」
背中を扉に預け、そのまま床にずるりと座り込む。
その瞬間――
棚の上に鎮座していた、どう見ても可愛くない牛のぬいぐるみが、ドスンと床に飛び降りた。
「へい!どうした?こんな時間に帰ってきやがって!
学校はどうしたんだよ!」
いつもの軽口。
いつもの憎たらしい声。
水無月は顔を上げず、力なく答えた。
「……それどころじゃないわよ」
牛が首を傾げる。
「お?」
「破壊神と……告白で……死にそうよ……」
「……」
一瞬の沈黙。
「告白で死にそうってのはよく分かんねぇけどよ」
牛は腕――のような縫い目を組む。
「破壊神の方はどうなんだ?
始末したのか?」
水無月は、かぶりを振った。
「無理よ……」
声に、悔しさが滲む。
「もう……目覚めちゃってるから。
私ひとりじゃ、どうにもならないわよ」
牛が鼻を鳴らす。
「なんだよ。十傑だよりか?」
「そうなんだけど……」
水無月は立ち上がり、ベッドに腰を下ろす。
「それまで……持ちそうにないのよ」
目を伏せる。
「もう、あちこち壊れ始めてる。
学校も……私も」
空気が、少しだけ重くなる。
牛は、しばらく黙っていたが――
やがて、ぽん、と手を叩いた。
「だったらよ」
水無月が顔を上げる。
「知恵の勇者を探すしかねぇんじゃねぇか?」
「……知恵の勇者?」
「そうだ。あいつならよ」
牛はニヤリと笑う。
「破壊神を倒せなくても、
破壊活動を止める方法くらい、何か知ってるかもしれねぇぜ!」
水無月の脳裏に、即座に一人の顔が浮かんだ。
(……やっぱり)
学年トップの成績。
教師たちからの信頼。
目立たないが、常に中心にいる存在。
「……高永」
ぽつりと、名前を口にする。
「やっぱり……あいつしかいないか」
勇者十傑。
破壊神。
告白。
混線した状況の中で、ようやく一本の糸が見えた気がした。
(水無月実花は、もう逃げない)
次は、知恵で立ち向かう。
彼女の瞳に、再び覚悟の光が宿った。




