第44話 ノードの未来
カナク警備隊がサラルの襲撃により大きな被害を受け、全員撤退したというニュースは、ノード政府と市民に大きな衝撃を与えていた。カナクの警備隊員五百名を乗せた三隻の船は一週間後にノードの港に帰還し、ノード政府関係者、家族知人友人などの人々に迎えられた。警護隊員によって多くの死傷者が運び出され下船するのを人々は沈痛な面持ちで見守った。不運にも亡くなった隊員達と生還した隊員達に対して、ノード政府から弔意と感謝が述べられ、全員に名誉市民賞が贈られた。式典を通して会場は静寂につつまれていた。
ノードに帰還したカナク警備隊のマテオ隊長は、二年前に帰還していたアルビン元隊長やヘンリーと共に、ノード政府にカナク撤退までの状況を報告した。ノード政府はカナクのレーザー砲台がサラルの槍攻撃であっけなく破壊され、数日でカナクの防衛が崩壊したという報告を受け、ノードの防衛策を再検討する事になった。
ノード政府は、対サラルの前線基地としてのカナクが崩壊した結果、近い将来ノードがサラルの襲撃に晒される事を認識し、具体的な対策をとる事になった。
カナクのレーザー砲台が壊滅した事を受けて、ノードのドラ山とマーネ山にあるレーザー砲台を鉄製ドームで蓋う工事が緊急に行われた。レーザー砲台の周囲にも三重の防御陣地を造り、サラルを迎え撃つ事になった。
ノードの7つの巨大ドームの周囲には120台の警備ロボットがサラルの侵入に備えていたが、その後方にもドームを囲むようにコンクリート造りの陣地を造り、ユニコーン型ロボ、警備隊員と市民防衛隊が守りを固める事になった。
ノード政府は緊急事態を発令し、12歳以上のすべての市民に市民防衛隊への参加を要請した。ノードではこれ迄18歳以上の市民が市民防衛隊に入隊し銃火器が支給されていたが、緊急事態となった事で12歳以上の市民も銃が支給され、市民防衛隊としてサラルとの戦闘に参加する事になった。この決定に対しノード市民から反対意見も出たが、人々はカナクの防衛が崩壊した現実を知らされ、ノードへのサラルの脅威が身近なものとなった事を認める他なかった。カナクから帰還した警備隊員達はサラルとの戦闘経験を活かし、これら市民防衛隊の銃撃訓練も指導する事となった。また12歳未満の子供たちは万一の場合船で脱出し、受け入れを表明しているNASFのシェルターに向かう事になり、港に脱出用の船を待機させる事になった、
その後ノード政府はサラルをノードに接近させないために、ノード周辺の山岳地帯に警備隊を派遣する事になった。マテオ隊長率いる数百人の部隊がユニコーン型ロボとともに山岳地帯のパトロールの任務に就く事になった。
マテオ隊長は山岳地帯のパトロールだけでなく、恒久的な前線基地を造るべきだと提言した。つまりカナクが果たしてきたサラルを引き付ける囮としての役割を、新しくノードの南に設営する前線基地で担うという作戦だった。この提言を受け、ノード政府は新しい対サラルの前線基地をノードの南の山岳地帯に造る事を決定した。派遣された工作隊はノードから5キロ南のノードを見渡せる丘の上にコンクリート製の四層陣地を陣地を造り始めた。ノード政府は近い将来に予想されるサラルとの決戦に備えるため、考えられる限りの対サラル防衛策を実行して行った。
ノード政府はNASF政府にも連絡を取り、対サラル防衛への協力を求めた。NASF政府の回答は以下のようなものだった。NASFが所有する戦闘機・戦車・装甲車はいずれも整備不良燃料不足でノードに派遣する事は出来ない。唯一、固形燃料の核ミサイルが十数発使用可能と考えられ、ノードから20キロ以上離れた地域に発射してサラルの群れを殲滅する事が出来る。このサラルへの核ミサイル攻撃は、サラルの攻撃を防げなくなった時の最終手段であり、放射能による人類への被害を考えると、ノード政府にとっても究極の選択を迫られる手段だった。
ドローンの調査では、カナク撤退以降、島を占拠するサラルの数は5万匹を遥かに超え、サラルの群れがノードに近い山岳地帯にも進出してきている状況が見られた。いずれ数万匹のサラルがノードに押し寄せて来る事が予想された。生き残りの人類として、ノードから撤退するという選択は有り得なかった。西の大陸にも東の大陸にもサラルが満ちている。しかも、この地より南の大陸は植物の育たない熱暑の地であり、この地より北にある小さな島々では人々が生き残る事は出来ない。人類の未来はノードの存続にかかっていた。
この島の気候は、冬の数か月を除いては相変わらず人類の生活に適したものとは言えなかった。しかし近年はわずかではあるが気温が低下している兆候が見られ、ノードのドーム周辺では砂糖きびやパイナップルなどの作物の周りに白い花をつける雑草が育つ光景が見られた。ドームの北側の海岸沿いの砂浜には数百本のヤシの木が立ち並び、その向こうには白い雲が浮かぶ空の下、青く輝く北極海が穏やかに広がっていた。
人類最後の地 Ⅳ 共存の地 へ続く




