表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壺の少女~真実を映す器~  作者: 大日向郁美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

第12章 母が遺した真実

 朝日がすでに空高く昇り、森の影が短く縮んでいた。

 静かな光の下、湿った土を踏みしめる重い足音が、じわりと周囲の空気を揺らした。馬の鼻息が白く震え、森に緊張の気配が満ちていく。


 レオンを先頭に、王妃派の兵が納屋を四方から慎重に取り囲む。


「……ここだ。逃げ場はない」


 兵士たちは合図とともに扉へとなだれ込み

 バンッと大きな音を立てて扉が開いた。


 ――しかし、中は。


「……いない!?どういうことだ!」


 納屋は、まるで最初っから誰もいなかったかのように、静まり返っていた。



      §


 その頃——

 リュシェンヌとアドリアンは森の中を抜け、侯爵家の屋敷の影へと体を滑り込ませていた。


 ――壺が、しきりに淡い光を跳ねさせ、不穏を知らせて納屋を抜け出していたのだ。

 その導きに救われた形で、二人は屋敷の古い隠し通路へと急ぐ。


 湿った石壁に背を寄せ、薄暗く狭い通路を、息を潜めながら進む。

 やがて屋敷内部へと抜け、使用人の目を避けながらたどり着いたのは、——亡き母が使っていた部屋。


 扉をそっと押し開ける。


 庭園が一望でき、光がやさしく差し込む部屋。

 お父様が、病に伏すお母様の為に、選んだ、屋敷で一番あたたかな場所。


 今は埃が家具につもり、人の気配はない。

 ——それでも、どこもかしこも、お母様がいた頃のまま。


 リュシェンヌはふらりとベットへ歩み寄り、指先でそっと布に触れた。

 胸の奥の痛みが、あの日のままあふれ出す。


 涙が壺のふちへ落ちる。

 その瞬間、壺の中に淡い光がふわりと漂い、部屋の中へ弾かれるように飛び出した。


 光はチェリー材の書き物机へ跳ね、消える。


 すると――


 机の鍵付きの引き出しが、ひとりでに「カチリ」と音を立てた。


 リュシェンヌは驚いて机に歩み寄った。


「……今、鍵が……?」


 アドリアンも言葉を失ったまま近づく。


 薄く埃をかぶったビューローの引き出しの取っ手を引くとスッと開いた。

 リュシェンヌは震える指で中を探る。奥の方に小さな革張りの本がしまわれていた。


「……お母様の……日記……!」


 幼い頃、母はいつもこれに何かを書き込んでいた。けれど亡くなった後、どんなに探しても見つからなったのだ。


 リュシェンヌはそっと日記を取り出し、ページをめくった。


 ——そこには、想像もしなかった言葉が並んでいた。



『この子の力を王妃に知られてはならない。

 真実を見抜く眼を持つ娘を、王妃が知れば恐れる。』


『第二妃の葬儀で、泣きはらす王妃の‘‘嘘‘‘を公衆の面前で告げた……。

 恐れていたことが起きた。』


『あの子が見抜いた騎士の隠し事を王妃が取り調べ、処刑したと……。

 王妃は、何か勘付いている?』


『真実を見抜く眼の封印方法を探して、とうとう見つけた。

 病が進行し、もう私は永くはない。王妃からリュシェンヌを守る方法は、これしかない。』


「……え……?」


 リュシェンヌの視界が揺れた。

 ――真実を見抜く眼……?王妃に告げた‘‘嘘‘‘……。


 今も……ふと蘇る古い記憶……。


 初めての茶会で、二人の騎士に無邪気に告げた

『騎士様二人は、隠し事……してるの?』という幼い私の声。

 ページに記された『騎士の処刑』という文字が、揺らいで見える。


「リュシエンヌ……?」

 アドリアンは心配そうに肩へと手を置いた。


 次の瞬間——。


 背後からギィ……と扉の軋む音がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ