大障壁の死闘、そして氷川
「行くぞ! 俺たちの最後の殴り込みだ!」
俺の号令と共に、柳瀬組とドワーフ連合軍は、大障壁に築かれた神嶺組と「黄昏の蛇」の連合軍が待ち受ける、巨大な要塞へと突入した。
空には、不気味な魔力の嵐が渦巻き、大地は、まるで世界の終末を告げるかのように、不気味な振動を繰り返している。「ゲート」が、その胎動を強めている証拠だった。
「ゴードン、バルガン! 左右の敵は任せた! 道を切り開け!」
「へい、組長!」
「ドワーフの戦斧の錆にしてくれるわ!」
ゴードンとバルガン率いるドワーフの精鋭たちが、雄叫びを上げて敵陣へと斬り込んでいく。奴らの手には、ベイルとドワーフの鍛冶師たちが魂を込めて打ち上げた、オリハルコンを練り込んだ最新の武具が握られている。その威力は凄まじく、神嶺組の兵士たちが持つ旧式の銃や刀では、もはや相手にならない。
「ベイル! 敵の見張り台を潰せ!」
「おうよ! 俺様の新作花火、とくと見やがれ!」
ベイルが、背負っていた筒から、巨大な金属の矢のようなものを撃ち出す。それは、敵の見張り台に命中すると同時に、強烈な閃光と爆音を発し、周囲の敵兵の目を眩ませ、動きを止めた。その隙に、ドワーフの弓兵たちが、次々と見張り台の兵士を射抜いていく。
俺とミリアは、混乱する敵陣の中を、一直線に要塞の中枢――「ゲート」があるはずの場所へと向かった。
「ミリア、氷川の気配は分かるか!」
「はい、虎之介さん! この要塞の中心、そして、ゲートから溢れ出す強大な魔力と混じり合って……以前よりも、さらに禍々しく、そして不安定な気配になっています!」
俺たちの前に、黒いローブを纏った「黄昏の蛇」の術者たちが、まるで亡霊のように立ちはだかった。
「……我らが悲願を邪魔する愚か者どもめ……蛇神様の贄となるがよい……」
奴らが呪文を唱えようとした瞬間、ミリアが杖を高く掲げた。
「させません! この世界の理を歪めることは、この私が許しません!」
ミリアの体から、清浄な緑色の光が溢れ出し、術者たちの邪悪な魔力を打ち消していく。オフクロのお守りが、彼女の胸で強く輝き、その力を増幅させているようだった。
「虎之介さん! 行ってください! ここは私が!」
「……無茶するなよ、ミリア!」
俺は、ミリアの覚悟を信じ、先を急いだ。
要塞の中枢に近づくにつれて、敵の抵抗はさらに激しくなった。
神嶺組の精鋭部隊。銃弾の雨。そして、「黄昏の蛇」が召喚したらしい、異形の魔獣たち。
俺は、漆黒の戦斧を振るい、血路を切り開いていく。
仲間たちの声が、俺の背中を押してくれる。
「組長! 前へ!」
「虎之介! 遅れるな!」
「柳瀬の旦那に続け!」
そして、ついに俺は辿り着いた。
要塞の最深部。巨大な洞窟のような空間の中央には、禍々しい紫色の光を放つ、巨大な亀裂――異世界へと繋がる「ゲート」が、まるで生きているかのように脈動していた。
そして、そのゲートの前に、一人の男が立っていた。
黒いスーツに身を包み、その顔には、かつての面影を残しながらも、どこか人間離れした、冷酷な表情を浮かべている。
その目には、赤い光が宿り、全身からは、玄武すらも凌駕するような、おぞましいほどのプレッシャーが放たれていた。
間違いない。氷川だ。
「……久しぶりだな、虎之介。こんな世界の果てまで、俺を追ってきたのか。ヤクザの執念ってのは、大したもんだな」
氷川の声は、昔と変わらねえ。だが、その声に含まれる温度は、絶対零度みてえに冷え切っていた。
「氷川……! てめえ、一体何があった? 玄武の爺さんが言ってたぜ。『蛇に魂を喰われた』ってな」
「ああ、玄武か。あの老いぼれも、ようやく逝ったか。だが、間違いだぜ、虎之介。俺は、魂を喰われたんじゃねえ。俺は、『黄昏の蛇』と一つになり、新しい力を手に入れたんだ。この世界も、そして、俺たちがいたあのクソみてえな元の世界も、全てを支配する力をな!」
氷川は、両手を広げ、恍惚とした表情で叫んだ。その姿は、もはや俺の知っている氷川ではなかった。
「てめえ、正気か……! その力のために、仲間を裏切り、世界を滅ぼそうってのか!」
「仲間? 世界? そんなもんに、何の価値がある。力こそが全てだ。そして俺は、その頂点に立つ!」
氷川の体から、黒いオーラが噴き出した。その手には、蛇の鱗で覆われたような、異形の長剣が現れる。
「ケジメをつけに来たぜ、氷川。てめえが俺にしたこと、そして、この世界にしたこと、その全てに、俺がきっちり落とし前をつけさせてやる!」
俺は、戦斧を構え、氷川に向かって踏み込んだ。
ゲートが、さらに大きく脈動し、空間が歪み始める。
その亀裂の向こうから、元の世界の兵器の残骸や、異形の魔物の一部が、次々と吐き出されてくる。
氷川は、その光景を背に、狂ったように笑いながら、俺に斬りかかってきた。
「死ね、虎之介! そして、新しい世界の誕生を、その目で見るがいい!」
「寝言は、地獄で言いやがれ!」
俺と氷川の、最後の戦いが始まった。
ヤクザとしての過去、この異世界での出会い、仲間たちの想い。その全てを、この一撃に込める。
ゲートの光と影が交錯する中、俺たちの刃が、激しく火花を散らした。
この世界の運命を賭けた、俺の人生最大の博打。
その賽は、今まさに、投げられようとしていた。




