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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第395話 二日/朝/追跡だ! 追跡の追跡だ!

 煙草をくわえたままの、笑顔の美沙子による一撃。


「アンタ、オンナ口説いたことないだろ?」


 八雲へと向けられたそれは、だがシンラにもダメージを与えていた。


「うぐ……ッ」


 彼は思い出してしまった。

 ミーシャとして『出戻り』を果たした彼女に交際を申し込んだときの記憶を。


『オンナ、ナメてんのかよ、アンタ』


 まだ『出戻り』していなかったひなたに『最高の母親』を用意したい。

 そのような想いから交際を申し込んだシンラに返された答えが、それだった。


 もう随分と前の話のように思えるが、今もって思い出すと心臓がキュッとなる。

 いや、悪いのはシンラ自身だということはわかっているのだが。


『言っておきますけど、シンラさんじゃありませんからね?』


 過去を追体験していたところに、美沙子から釘を刺されてしまう。鋭い。


『いえ、わかってはいるのですが……』

『やっぱり思い出してた』


 美沙子の声から、彼女がわらっちる気配が伝わってくる。

 だが、ゴーグル越しに見る彼女は声の気配とは全く食い違う笑みを浮かべている。

 人を小馬鹿にする笑みだ。


「僕が、女性を口説いたことがないだって? そんなこと……」

「ないだろ。アンタ自身から積極的にオンナをくどいたことなんて、さ」

「く――」


 八雲が呻く。

 どうやら、美沙子の言葉は正鵠を射ているらしい。


「そりゃあそうだろうねェ、さっきのアンタの言葉をそのまま返してやるよ。アンタは完璧な人間さ。優れた容姿に、優れた家柄。ガッコウだってさぞやいいところを出てるはずさ。当然カネだってあるだろ? ――オンナが寄ってこないはずがないさ」


 と、美沙子が披露する推理に、聞いてるシンラは顔から火が出そうになる。

 八雲と自分は色々違うはずなのに、共通項も多いのがホントしんどい。


「オンナ共は、アンタの話すことならどんな話題でも喜んで聞いてたんだろうね。でもそれは別にオンナ共がアンタと話すのを楽しんでたワケじゃないよ、ボンボン」

「な、何だって……?」


「そうすることがアンタに取り入るのに一番いい方法だからそうしてただけさ。勘違いしちまってたんだねぇ、坊や。今の今までそれに気づくことなく、同じ調子でアタシにまで喜々としてバカな話を聞かせるようなアンタだモンねぇ?」

「やめろ、そんな顔で僕を見るな!」


 笑みを深める美沙子に、八雲は不快感を露わにする。

 彼は、それまで保っていた余裕を消して、右腕を大きく振るって、叫んだ。


「何だというんだ。君は、僕の何が気に入らない! 僕と結婚すれば豊かな生活は保証されるんだぞ! ゆくゆくは君は大臣夫人だ。それの何が、気に食わない!? あの風見とかいう男では絶対に実現できない暮らしを、君に与えてやれるんだぞ!」

「アンタにゃ無理さ。アンタに政治は荷が重すぎるよ」

「な……」


 クックと肩を揺らして笑う美沙子に、八雲は絶句する。


「言うに事欠いて大臣夫人? ……ヤだねぇ、妄想ばかりで現実が見えてないガキは。そんなだからアタシは思わず煙草を吸っちまったんだよ」

「君は、僕を愚弄するのか……? この、僕を……」

「アンタは人の痛みに疎すぎるよ」


 唖然となっている八雲へ、美沙子は顔から笑みを消してピシャリと言い放った。


「アタシとアキラを広告材料にする、だって? 誰がそんなことをアンタに頼んだんだい? もうね、それを口にした時点で、アンタがアタシを道具扱いしかしてないことが透けて見えてんだよ、この勘違いだらけの三下野郎が」

「さ、三下……。この僕が、三下……!?」

「政治ってのは人を知らなきゃできない仕事さ。アンタにゃ荷が重いよ、諦めな」


 ショックを受けている様子の八雲に一切加減することなく、彼女はそれを告げた。

 同時に、懐から出した携帯用灰皿に煙草を押し込む。キッチリしている。


「ぐ、むぐ、ぐ……!」


 八雲は美沙子をキツく睨みながらも言葉を告げられずにいる。

 彼は顔を怒りに染めながらも、美沙子に対して強く出られない。気圧されている。


『本当に、シンラさんを責める意図は1%もありませんからね……?』


 その間に、美沙子はシンラへの言い訳を開始していた。


『わかってます。もちろん、わかってますよ』

『でも、アタシがそれを言っておかないと、勝手に反省を始めるでしょう?』

『……見透かさないでくださいよ、美沙子さん』


 美沙子がそう言ってくれなければ、シンラは確かに反省していたに違いない。


『しかし、この那岐和八雲という男は……』

『そうですねぇ。穏やかな見た目だからわかりにくいけど、大した自己中ですね』


 先程から八雲がたびたび口にしている『この僕』というワードからもわかる。

 この男は、自分が否定されるという事態を想定すらしていなかったのだ。


「ねぇ、八雲さん。アンタは中学時代のアタシを、物静かで大人びた子だって言ってたね。そして、アタシのことを我慢強いとも評してくれてたね」

「それが、何だというんだ……?」


「何で、助けてくれなかったんだい?」

「え……?」


「同じクラスのアンタなら知ってたはずさ。見てもいたはずだよ『あたし』がいじめられてたことを。親戚と妹を中心としたグループに、嫌がらせを受けてたことを」

「それは――」


 美沙子は、小夜子と美智子から小・中・高に渡っていじめられ続けた。

 手下扱いされ、様々な嫌がらせを受けて育ってきた。


「知らなかったなんてコトは言わせないよ。小夜子のヤツは、教師も何も言わないのをいいことに、教室でも手下共と一緒に『あたし』をいじめてやがったからねぇ」

「た、助けようとは、思っては……」

「そういうことを聞きたいんじゃないんだよ、今は」


 中学時代、八雲が美沙子を助けてくれなかった理由。

 今の彼の姿を見れば、それはすぐに推理できる。さらにいうなら確信も持てる。


「関わりたくなかったんだろ、アンタは」

「……そんなことは」


「今、何を言ったところで過去は覆らないさ。中学時代、アンタはアタシに一度も関わらなかった。それが事実だよ。そして、それが全てさ。今さら何を言ってもね」

「う、ぐ……」


「アンタは小さい頃から議員さんを目指してたみたいだしねぇ。どんな形であろうと、見えてる地雷には触りたくない。そんなところだったんじゃないのかい?」

「いや、違うんだ。それは、だから――」


 八雲は弱々しい声で否定の言葉を出そうとするが、しかし、出てこない。

 もはやそれは彼自身が認めているにも等しい。

 彼は、美沙子を助けるつもりなどなかったのだ。と。


「過去の事実を忘却の霧で覆い隠したところで、やられた側は忘れられないモンさ。それで今さら好きだったって言われてもねェ。アタシは一つも嬉しくないね」


 八雲が美沙子をいじめていたワケではない。

 だが、いじめられている事実を知りながら助けてくれなかった。


 それは、いじめられている側からすればどのように映るだろうか。

 美沙子がしているのは、そういう話だ。


「話は終わりさ。アタシを人間扱いする気がないヤツと結婚なんかしてたまるか」


 最後にそれだけを言って、美沙子は八雲に背を向ける。

 一応、シンラはまだ二人のことを監視しているが、これで終わりそうか。

 そう思っている彼が見ている先で、だが、八雲が妙な動きを見せる。


「ま、待て!」


 八雲が、美沙子を呼び止めた。


「何だい、まだ何か――」


 彼女が振り返ると、八雲はスマホを耳に当て、どこかに電話をしていた。


「……ああ、残念ながら決裂した。来てくれ」


 短い電話を終えると、八雲はスマホをしまって美沙子を睨む。


「美沙子さん、非常に残念ながら、僕だけの説得では君はうなずいてくれなかった」

「驚いたね、あれで説得のつもりだったのかい? 煽りじゃなく?」

「く……ッ! と、とにかく!」


 八雲が喋っている間に、三台の車が勝手口近くに停まる。

 そして、中から強面の男共が次々に降りてくる。

 彼らはシンラに気づくことなく、勝手口の前にたむろし始める。


「とにかく、迎えも来た。僕と一緒に来てほしい。手荒な真似はしないよ」

「こりゃ呆れる。すでにやってることが手荒だって気づいてないのかい」


「力づくであることは認めるよ。でも、君はついてくるはずさ」

「どんな根拠があって言ってるんだい……」


 男達の気配を察しながらも、美沙子は呆れ顔で八雲を眺める。

 それに不快感を示してはいるが、彼も取り乱しはせずに、美沙子へと告げる。


「僕のところにこの話を最初に持ってきたのは、王原兼続だ」

「王原さんが……?」


 美沙子の気配がにわかに変わる。それを感じてか、八雲が口の端を吊り上げる。


「彼は事務所で待ってるよ。君に話があるそうだ」

「そうかい。だから――」


 美沙子が勝手口の方に目をやる。そこにいる連中は、王原組の構成員か。


「それなら、仕方がないね。相手が王原さんならアタシも無視はできないからね」


 観念したように肩をすくめ、美沙子は八雲の方に向き直った。

 そして、美沙子からシンラへ、念話が飛んでくる。


『シンラさん――』

『ついていきますよ。あなたのいるところなら、どこへでも』

『はい。お願いします』


 八雲が勝手口を開いて、美沙子と共に王原組の車に乗り込んでいく。

 それを前にしながら、シンラはスマホを手に取ってRAINでアキラに連絡する。


 そして、三台の車が発信したのを確認し、彼は飛翔の魔法を使おうとした。

 が、その一瞬前、誰もいないはずの庭から声が聞こえてくる。


「ちょ~っとちょっとちょっと! 兄貴、何やってんのよ~!?」


 けたたましい声と共に勝手口から飛び出してきたのは、八雲の妹の十萌だった。


「あの野郎、ウチのお客様をどこに連れてく気だぁ~!?」


 すでに遠くに小さくなった車を睨んで、十萌が腕組みして唸る。

 彼女の様子を見るに、美沙子と八雲のやり取りをたまたま見てしまった感じか。


「あ~、もう、こうしちゃいられない!」


 十萌は和服姿のまま、テケテケ塀沿いに走って、近くにある角を曲がる。

 そして聞こえてくるのは、ブォンブォンというエンジンを吹かす音。


「待て待てェ~! ウチのお客様に変なことするのはあちしが許さんぞォ~!」


 ピンクのヘルメットをかぶり、ピンクのスクーターに乗った十萌が追いかける。

 彼女の勇ましい後ろ姿を見送りながら、シンラはポカンとなった。


 那岐和十萌。

 あの娘、行動力の化身か?


「……いや、呆けている場合ではない!」


 シンラはハッとなって、空に上がって八雲の追跡を始めた十萌の追跡を始める。

 行き先は三日星区内――、王原組事務所。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 シンラからRAINで連絡があった。

 八雲が動いて、お袋を王原組の事務所に連れて行ったらしい。


 自分が追跡するとあったので、そっちはシンラに任せておくことにする。

 俺の方も俺の方で、何やら奇妙な展開になりそうだからだ。


「ねぇ、花梨、神祇、それにアキラ君も、一緒に行きましょうよ?」


 明るく声を弾ませて、笑顔で俺達に向かって外出の提案をする、その女。

 誰であろう、金鐘崎小夜子であった。

 傍らに立つ美智子も同じような笑みを浮かべている。


「この近くに、とっても楽しい場所があるの。行きましょう?」


 お袋がいないところで、こいつらは俺達をどこかに誘い出そうとしている。

 さてさて、こいつは一体、何を考えているのやら。


「私が、みんなを楽しいところに連れてってあげるわ!」


 俺達全員がピクリとも笑わない中で、小夜子はまた大声でそう言ったのだった。

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