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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第392話 元旦/夜/これ以上、場を混沌とさせる気か

 ……え、トモエ?


「あのお手伝いさんの方の那岐和がァ!?」

「名前がですぞ、父上。あくまで名前が『トモエ』というだけです」


 夕飯どきですよ。つっても午後九時過ぎてるけど。

 場所はお袋の部屋。俺とシンラ、お袋、タマキ、カリンとジンギもいるよ、っと。


 本家は欣司が倒れて大わらわ、俺らの夕飯なんぞ用意する余裕なし。

 俺達としては、むしろそっちの方が都合がいいけどな。


 あの赤い影の異面体がいつまた現れるかもしれんし。

 食事どきは何かと隙もできやすい。

 そのため、こうして一か所に集まって食事をしてるってワケだねー。


 なお、夕飯は収納空間に入れてあった食い物を適当につまんでいる。

 こういうとき、収納空間ってやつは便利ですよねー。


「トモエ。トモエねぇ……、あの陽気なねーちゃんが」


 俺は、フライドチキンをかじりながら、那岐和のねーちゃんの顔を思い浮かべる。

 茶色い髪が印象的な、やたら明るく朗らかなお手伝いさんだったな。

 名前は、正しくは那岐和十萌(なぎわ ともえ)というらしい。


「……シイナの天敵だよな、きっと」

「天敵でありましょうな」

「天敵ってか、絶対シイナが勝てないタイプじゃね?」


 俺の言葉にシンラがうなずき、タマキがそんなひどいことを言ってくる。

 それに軽く苦笑して、俺は続いてジンギを見る。


「おまえはどう」

「…………」


 ジンギは、無言で首を横に振った。そうか、無理か。


「無理じゃ無理。ありゃ愚弟にゃ勝てん。愚弟が視線を逸らしても、わざわざ近づいてきて顔を覗き込んでニコ~ッ、とか笑うんじゃぞ。生粋の光属性じゃよ、あれ」

「…………ガタガタブルブル」


 豚汁をすすりながら笑うカリンに、隣のジンギが『愚妹』とも返さず震える。

 そうかぁ、やっぱそういうキャラかぁ、それは強いなぁ。


「で、あの子が、あの墓石さんの奥さんだってのかい?」


 仮眠してスッキリした様子のお袋が、ペットボトルの緑茶を手に取る。


「その可能性がある。ってだけではあるけどなぁ……」


 俺は、お袋に紙コップを差し出しながら、難しい顔をする。


「でもさぁ、こういう場合に関わってくる同名の人間って、大体さぁ――」

「余のときも、そのような感じでございましたな……」

「ああ、懐かしい。アタシの『出戻り』前の話ですねぇ」


 シンラが『出戻り』したのも、もう半年以上前になるのか。

 小二の身からすると、ものすごい前に思えてならないな。時間の流れおっそい。


「思えば、余の心の中に美沙子さんが刻まれたのは、あの一件でありましたな」

「やめてくださいよ、もう」

「お、何じゃ何じゃ? 馴れ初めの話か! 聞いちゃうぞ、ワシ、聞いちゃうぞ!」


 頬を軽く染めるお袋に、早速食いつくカリン。これだから女子はよぉ……。


「シンラの兄御と美沙子ばばさまの馴れ初めはすっごい気になるんじゃよ!」

「オレは前に話聞いたことあるモンね~! フッフ~ン!」

「クソッ、この長女! 別に大したことでもないのに、何か悔しい!」


 そこでマウントをとるタマキもわかんねーし、悔しがるカリンもわかんねーわ。


「で、兄御がばばさまに惚れたというのは、どういう状況だったんじゃ!」

「うむ、あれは――」


 シンラが、あのときのことを思い返す。


「『出戻り』前の美沙子さんが、余の前の妻に拳銃を向けられていたときのことだ」

「え」


 固まるカリン。


「『出戻り』前の美沙子さんが、余の前の妻に拳銃を向けられていたときのことだ」

「えッ!?」


 驚愕するカリン。


「な、何じゃ、一体何がどうなってそんな状況に……?」

「実はよー」


 ここで俺は話に加わって、そのときにあったことをザッと説明する。


「はぇ~、ばばさまもカッケェが、シンラの兄御も体張ったんじゃのう……」

「そのときは、余もひなたも『出戻り』前ではあったがな」


 そのときのことを思い返して、シンラがどことなくしんみりしている。

 だが忘れてはならない。今、話は思いっきり脱線している。


「で、そういうこともあったから、同名の人間がこの場にいるってことは――」

「…………『出戻り』」


 言うジンギに俺はうなずく。


「可能性、高いよなぁ~……」


 お袋から緑茶を受け取った俺が、箸をくわえながら眉間にしわを寄せる。

 そこに、最短の解決法を提示したのが、タマキだった。


「だったら、こっちに呼べばいいんじゃねのーの?」

「誰をだよ」

「ヤジロ」


 タマキが出した名前に、一同ザワつく。


「だって、ヤジロに貸してんだろ。あの、何だっけ……、嫁嫁カー?」

「『黄泉読鏡(ヨミヨミラー)』な。何だよその、嫁以外乗る資格がない車は!」


 だが、タマキの出した案は現状を打破するためには有効かもしれなかった。


「そうか、アレがれば赤い影の異面体の本体もわかるかもしれないな……」

「呼ぶんか、あやつを呼ぶんか、ととさま!?」

「…………アウトローのエントリーだ」


 カリンがアワアワしておる。ジンギはマイペースだが。

 ツッコミ気質のカリンにとっては、ヤジロはいるだけで気力削る相手だからな。


「ととさま、これ以上、場を混沌とさせる気か!」

「言いたいことはわかるよ、カリン。でも残念なコトに選択肢としては十分アリ!」

「ひぃ……」


 カリンの気持ちはわかる。

 ただでさえカオスの権化のヤジロだが、トモエが加わると破壊力は二乗される。

 加算でもない。倍増でもない。二乗である。


 あの二人が結婚した理由、純粋に『ウマが合った』だからなぁ。

 異世界最上位の『皇竜』とウマが合う人類って、異世界中に何人いるのやら。


「まぁ、まだ那岐和十萌がトモエと決まったワケじゃないけどな。それでも、戦力的にもヤジロが加わってくれるなら心強いよ。なぁ、タ~マキ?」

「……プイ」


 俺がニヤッと笑って声を投げると、タマキは気まずそうにそっぽを向いた。


「何だい、どういうことだい?」

「お袋は知らないんだっけな。このバカ、異世界じゃ一時期、よく騙されてウチにケンカ売ってきてたんだよ。そのときに迎撃してたうちの一人がヤジロなのさ」


 俺がいるときは、俺が前に出てた。

 だが、いつも俺がいるワケではない。そういうときは主に三人でタマキを止めた。

 面子はタンクのキリオ、アタッカーのラララ、シューターのヤジロの三人だ。


「も~! やめろよ、おとしゃん~! オレだって反省してんだよ~!」

「最後の襲撃、おまえが何歳のときだっけ?」

「や~め~ろ~よ~!?」


 タマキが、部屋の中がビリビリ震えるくらいの声で静止をかけてくる。笑うわ。


「ま、そういうことだカリン。ヤジロ呼ぶぞ」

「むむむむ、致し方ないのぉ……」


 不承不承うなずくカリンを見届けて、俺はスマホを取り出した。

 連絡先はすでに登録済み、皆に声が聞こえるようスピーカーにして、ダイヤル。

 幾度かのコールののち、プツ、と繋がる音がする。


『――叛逆だ!』


 オイ。


『おかけになった電話番号は現在使われているし、電話自体も繋がっているが、電話をかけられたという現実に対して俺が選ぶ選択はただ一つ、叛逆だ! ――プツ』


 切れた。


「…………」

「…………」

「……ととさま、空気がヌルいぞ」


 いや、これは俺のせいじゃねーよ!?


「お」


 俺がリアクションをとろうとしたところ、電話がかかってきた。出てみる。


「はい、もしもし」

『孤高のアウトローによる年始の叛逆、受け取ってくれたかな。――俺だ』

「ねぇ、おまえはまともに生きると死ぬ病気なの?」


 俺が本気で呆れながら尋ねると、返ってくるのはヤジロの含み笑い。


『フ、アウトローという生き様を考えれば、そうとも呼べるかもしれないな』

「隣にいるカリンが渋柿丸かじりしたような顔になってるぞ。主におまえのせいで」


 致死毒飲んでもこんな顔にはならんぞ、っていう顔だよ、今のカリン。


『ほぉ、さすがはシスター・カリン。甘い柿を食べるのではなく、自ら渋柿を食すとはなかなかの叛逆だぜ。どうやらおまえも踏みだしたようだな、アウトローの道を』

「やめろォ~~! ワシをおんしと一緒にするなァ~! 何という侮辱!」


 そこで『侮辱』とかのたまうカリンもなかなかどうして、ヤジロを侮辱しておる。


「一気に場が混沌としちまったねぇ」

「美沙子さん、ここにトモエとギオが加わることで、宇宙の法則が乱れますぞ」

「わ~、懐かしいな~、三バカトリオ!」


 ハッハッハ、おまえも加えてバカ四天王だろうが、タマキよ。笑うわ。


「ま、おまえの叛逆はどうでもいいわ。ヤジロ」

『ああ、俺に連絡を寄越すだけの何かがあったのだろう、ダディ』


 普段はクソふざけてるクセに、察しはいいんだよな、こいつ。話が早くて助かる。

 俺は、本日あった出来事をヤジロにかいつまんで聞かせる。


『……那岐和、十萌』

「ああ。たまたま名前が同じだけかもしれない。だが、名前が同じだ。どうだ?」


 ヤジロ、しばし沈黙。

 奇妙な緊張感の中、俺達は自称『孤高のアウトロー』の返答を待ち続ける。


『――――プツ』


 切れた。


「何でだよッ!?」


 さすがに俺が怒鳴ると、そこにRAINのメッセージ。ヤジロからだった。


『俺が神妙な感じで答えを返すと思っただろう? その推測に叛逆だ!』

「あの野郎はよぉ……」

「これだからヤジロのヤツはワケわからんのじゃ~!」


 カリンが声を裏返らせてわめく。

 イベンターのカリンとしては、予測不能な存在ってただただ怖いよね……。

 あ、またメッセージが来た。


『場所を教えろ、ダディ。『黄泉読鏡』を持っていけばいいのだろう?』


 話を進めるときは本当にスムーズなのがまた腹立つんだよなー、この野郎はよー。

 俺はこの本家屋敷がある住所をメッセージに書いて返す。


『星葛の三日星区か。いいだろう。今から行く』


 返信が来た。……って、今からかよ。元旦だぞ。


『元旦から道を駆け、野を越え山を越え三日星を目指す。それもまた叛逆だ! 俺は孤高のアウトロー。誰も往かぬ道こそが俺が往くべき道。さぁ行くぜ、チャリで!』


 チャリで。

 ……チャリで?

 …………チャリで!?


「いや、そこは魔法で飛んでこいよ!?」


 俺が叫んで、同じ内容をメッセージで返す。すると、返信はただ一言、


『だが、叛逆だ!』


 だけだった。


「ウォラァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 俺は絶叫と共に、スマホを畳に叩きつけた。

 スマホには保護の魔法がかけてあるので無傷だが、あのかぶり物芸人がよォ~!


「……さすがに、冗談だよねぇ?」


 と、お袋が汗を浮かべて半笑いで周りに問うが、


「いえ、美沙子さん。あの男はやると言ったらやる男です。それもあって、余はあの男を帝国遠征軍の総大将に据えたのです。ヤジロは必ずや、チャリで来るでしょう」

「あらまぁ……」


 お袋、絶句。


「ワシね、シンラの兄御のことは尊敬しとるけどね、ヤジロを騎士団長にしたことだけは未だに理解できんのよ。何であれにそんな重要ポストを与えちゃったんじゃ?」

「性格を除けばすこぶる有能だからだ」

「性格は除いちゃいけんと思うのよ、人事を決めるにあたっては」


 カリンに指摘されて、シンラはそれ以上は何も言わなかった。

 地味に言い負かされてんじゃねぇよ、クソ笑うわ。


「…………異世界よりひどい」


 それまで黙っていたジンギが、無表情にポツリ。ああ、うん、そうかも。

 異世界のときも同じようなノリではあったが、かぶり物はしてなかったしなぁ。


「ま、でも明日には来るだろ、きっと」


 明日のいつ頃かは知らんけど。

 だが、ヤジロが来れば『黄泉読鏡』も使えるようになる。


「あいつが来れば、できることが劇的に増える」

「あの、赤い影の異面体の本体を捕まえられる可能性も高まりますな」


 そうだ、あの赤い影の異面体。

 ここにいる面子には、すでに俺の仮説を話してある。


「――『他人に貸せる異面体』」

「自分以外の人間を『仮の本体』にできる能力、かい」

「ああ。あくまで推論だが、それなりに有力な推論だと、俺自身は思ってるよ」


 それを話題に出すと、お袋を始め、皆が表情を引き締める。

 あ、ジンギだけは無表情なので変わんなかったわ。


「さっき仕返しした崟吾は『出戻り』じゃあなかった。だが、あの場であの赤い影の本体だったのは、間違いなく崟吾のヤツだった。それは確かだ」

「なるほど、崟吾はその場における『仮の本体』だったってワケだね」


 改めてそれを口に出すお袋に、俺は「そうだ」とうなずく。

 そして、ここからが難しいところだ。


「この推論が当たってた場合、本体かもしれない容疑者の数がかなり多くなる。何せ、容疑者になりうる条件が『あの場にいたこと』だからな」


 あの場にいない人間は容疑者にはなり得ない。

 何故なら、あの赤い影の異面体は明確に俺とお袋を狙っていた。


 俺達がこの三日星に来ているのを知っているのは、ほとんどがあの場の人間だけ。

 例外は、本家屋敷に向かう途中に遭遇した王原組の組員と王原の二人だ。


 だが、王原はお袋の味方である可能性が高く、狙う理由が今のところ希薄だ。

 残るあの角刈りのにーちゃんも、別の理由から容疑者としては外していいと思う。


 その理由は、崟吾と接触していたかどうか、だ。

 崟吾を『仮の本体』にするのであれば、何かの形であいつに接触しているはずだ。


 例えばヒメノの『竜胆符』のように、異面体の力に起因するアイテムもある。

 そういう品を持たせることで『仮の本体』にする。という能力の可能性もある。

 崟吾をチェックした結果、そのたぐいのアイテムは見つからなかったが。


「異面体の能力ってのは、現実に影響を及ぼすものもあるにはあるが、原則として『異階』の中でしか使えないものだ。あの赤い影の本体が他人を『仮の本体』にするなら、金属符を使って『異階化』をした上でそれを行なった可能性が高い」


 シイナですら、異面体の能力をそのまま現実で使えるワケではない。

 それを考えれば、あの赤い影の能力も『異階』で行使されたはず。ならば――、


「崟吾を『仮の本体』にした『出戻り』は、あの場にいた。そう考えるのが自然だ」

「しかし父上、そうなりますと……」


 シンラが危惧していることはわかっている。それは俺が抱える不安と同じだ。


「あの場にいた、ジンギが眠らせた百人の客。俺達が仕返しした十数人の親族共。その中に赤い影の本体がいる可能性もあるってことだ。……容疑者が多すぎる」


 しかも、客も親族ももうほとんど帰ってしまった。

 ヤジロが来て『黄泉読鏡』が手元に戻っても、本体を見つけられるかどうか。


「けどよぉ、シンラ。それは多分、これからわかるぜ」

「と、言われますと……?」


「もし、またあの赤い影の異面体が俺達を襲ってきたら?」

「……あ」


 俺の言葉に気がついたようで、シンラがポンと手を打った。


「そっか、赤い影がまた現れたら、そのときは近くに『仮の本体』か本体がいるってことだモンな。それなら、もうここにいないヤツは本体じゃないってことだよな」


 さすがにタマキは戦闘のこととなると途端に頭の回転が速くなる。

 まぁ、そういうことだ。

 仮にまたもう一度、赤い影の異面体が襲撃してきたら、そのときは――、


「……そのときは、容疑者はこの屋敷にいる人間に絞られる」


 再度の襲撃は必ずある。

 それを予感しながら、俺は皆にそれを告げた。

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