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10 エピローグ

激闘が去った表通り。

リオは、ただの人間でありながら怪物に一撃を喰らわせ、疲れ果てて気絶しているトレンを静かに眺めていた。

その背後、大穴の開いた建物の中から、カン、カン、カン、と金属が硬い何かにぶつかる乾いた打撃音が響いてくる。

リオは怪訝(けげん)そうに振り返り、声をかけた。


「何してんの」


建物の中では、エルウイが、短剣の先で人脳器(じんのうき)()()()のような装甲の前面にある、丸い蓋を叩いて開けようとしていた。

彼は手を止めずに冷徹な声で応じる。


「石の脳を密輸して怪物に埋め込んだ疑いがある。それを確かめるためにデンサ要塞に派遣された。」


「へえ……」


リオはエルウイに近づき、その手元をのぞき込んだ。


「石の脳って赤刃兵(せきばへい)の脳みそだったっけ。・・・って頭部開くの?」


エルウイは作業を続けながら短く返した。


「ああ。まずは蓋をこじ開ける」


エルウイは蓋のわずかな隙間に短剣の刃を引っかけようと、何度も執拗に叩きつける。

だが、装甲はびくともしない。さすがの彼も一休みして、深く呼吸を整えた。「はぁ・・・はぁ」装甲の表面を観察すると、そこには確かに開きそうな丸い溝が彫ってある。しかし、無数の刃痕は刻まれるが蓋はピクリとも開かない。

エルウイは眉をひそめた。


「かなり頑丈だな」


その様子を横で見ていたリオは、冷静にその構造を理解し、ぽつりとつぶやいた。


「まわして開ければー」


「はっ!」


リオの指摘に、エルウイは動きを止めて気が付く。

言われた通りに手をかけ、回してみる。

すると、これまでが嘘のようにあっけなく蓋が開いた。

開いた蓋を見つめて立ち尽くすエルウイ。

そのすぐ後ろでは、リオが全てを察してニヤニヤとした嫌みな笑顔を浮かべている。

エルウイの胸中に、苛立ちが湧き上がった。


――なんとなく、いつもリオにイライラしているトレンの気持ちが分かった気がした。


彼は無意識のうちに、外した蓋を後ろへと思わず投げつけた。

ガチンッ!


「あ……」


投げた蓋は、表通りで気絶していたトレンの顎に見事な角度で命中した。

迂闊な行動に、エルウイはしまったと思う。

だが、目の前の状況を進めないといけない。

エルウイはすぐに意識を切り替え、蓋が開いた中身を確認した。


そこには、握って回す取っ手みたいなものがついていた。

生体兵器のはずなのに、まるで人工物のような不自然さがそこにはある。

彼はそこに印字されている印の方向を見定め、その通りに取っ手を回した。

ガシャリ、と重い金属音が響き、ハッチのロックが解けたようだ。

エルウイは焦茶緑色のハッチのような物のフチを両手でつかみ、一気に持ち上げようと力を込める。


「うーん」


しかし、強固な密閉構造のせいか、どうやら一人の力では持ち上げるのは無理のようだった。

彼は一度あきらめて、深くため息をついた。

リオに協力を仰ごうと


「ちょっと手伝ってくれないか。」


と声をかけようとしたが――見ると、リオは一人で勝手に休憩をとり一服やっていた。

その緊張感のなさに、エルウイは思わず強めのツッコミを入れる。


「くつろぐな!」


ちょっとムッとしたエルウイに凄まれ、リオもようやく腰を上げる。

エルウイとリオはハッチに手をかけ、息を合わせて二人で同時に持ち上げた。

ギィィ、という錆びついた金属の鳴くような重い音とともに、ついにハッチが開いた。

その中に収められていた中身を見た二人は、言葉を失い、無言で驚くしかなかった。

ハッチの隙間から差し込む光に照らされた()()は、ねっとりとした緑色の体液が付着しており、静かに水滴となって下へと滴り落ちている。

そして、黄緑色の脳みそのような異形の臓器が、中央にある()()の周りをびっしりと囲うように(うごめ)いていた。

だが、それ以上に二人の目を釘付けにしたのは、その臓器の中心に埋め込まれている生体だった。

這い出ている部位の先っぽは、膝をふんわりと優しく包み込んでいる人の両手に見える。驚愕に目を見張りながら視線を上へと上げると、膝があり、肩があり――そして、静かに目をつぶった人間の顔があった。

それは、まだ幼い少女の姿だった。

長い栗色の髪が粘液に濡れていて、その毛先からは、緑色の水滴がぽたぽたと落ちていた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「な・・・なんだこれ?」


リオは引きつった声を絞り出し、やっと口を開いた。

脳裏を凄まじい衝撃が駆け巡る。

今まで自分たちが殺し合っていた化け物の正体。

失われていた感情がだんだんと怒りとなって取り戻され、リオは激高して声を荒らげた。


「これが、これが石の脳だと・・・・ダンナぁ! これはどういうことだよおお! ガキの体を兵器に使っていたのか?」


エルウイは感情が昂るリオをなだめることもなく、ただその少女の姿を見つめながら、静かにつぶやいた。


「森林の子」


そのあまりにも多くの意味を含ませた冷徹な台詞に、リオは息を呑んだ。


「え?」


リオはそう呟き、ただ静かに前を見据えるエルウイの横顔を、言葉を失ったまま直視するのであった。



――第一章「廃墟の傭兵」 終わり


来週より第二章「砂漠の少年」を投稿します。

それまでにキャラクター紹介を入れる予定です。

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